167:マジ、どん引きされる。
MP消費する手間が省けたぜ〜。代わりにデスペナ貰ったぜヒャッハー。
はぁ……あれ絶対ネームドだろ。しかし格上だぜきっと。
か弱いマジが一人の時に襲ってくるとか、酷い。
もう少しでレベル32になるところだったのにな。デスペナで経験値1%分消滅っと。
まぁ今のレベルなら、1%稼ぐのに十五分ぐらいあればいいんだけどな。
さて、襲撃の事をどうやって広めたものか。
今からファクトで叫びまくるか?
「ご、ご通行の皆さんっ」
試しに叫んでみた。
その辺を歩いているプレイヤーが一斉に振り向く。
……こわひ。
「なんだなんだ」
「ぉ、もしかして放電の人じゃね?」
「何なに、何かはじまるの?」
お、おぉう。期待の眼差しで見つめられてます。
ど、どうしよう。
何か披露しなきゃダメかな?
よ、よし。覚えたての必殺技を!
「す、水芸『ウォーター』」
ぴゅーっと指先から飛び出す水が、月明かりを浴びてキラキラと光る。
違う。俺が笑ってるから光ってるだけかよ!
さぁ、観客どもよ、拍手喝采の時間だぞ!
さぁ。
さぁ!
あ、なんかどん引きされてる。何人かの女子は黄色い歓声を上げてはくれているが、ほとんどはどん引きだ。
うん、失敗したか。
じゃあ次――
「誰かと思ったら、マジックじゃん。何してんの」
「はへ?」
背後からの声に振り向くと、ぎょっとした顔で見つめる犬獣人のシースターが立っていた。
「マ、マジック、何それ。なんで光ってるの? っくく。ぷくくく」
「……い、いいだろう! ひ、光ってるんだぞぉ。はーっはっはっはっは」
こうなったらもう開き直ってやる!
そうだ。俺はアイドルなんだ! 光って当然なんだよ!
「なんか自虐的に見えるんだけど」
「気のせいです」
「そう? まぁいいや。丁度マジックに頼みたい事あったんだ。時間、いいかな?」
「お、おお。いいぜ」
丁度いい。
このどん引きされた冷たい風の吹く場所から逃げたかったんだ。
ついでだ、シースターにも意見を聞こう。襲撃イベントの件を、どうやって広めるか。
ふ、べ、別に忘れていた訳じゃないんだぜ。
ファクトの路地裏でこそこそとする俺たち二人。べ、別に怪しい事とかしていませんから!
「で、ぼくが分解で得た『能力石』を、製造した装備品に合成できるか、やってみて欲しいんだ」
「『能力石』……こ、これっ。石の説明にある能力を、装備に付与するものか?」
「そそ。製造するときにこれを混ぜ込めば、その能力を確実に与えられるんだよ。まぁ製造そのものに成功すればだけどね」
じゃあ、ハイクラスなら一つ、レアなら二つ、レジェンドなら三つ、全部自分好みの能力を付けた装備を作ることも可能ってことか!?
あれ?
でもなんで合成?
「試したいのは、既に完成している装備に合成で能力を付与できるかどうかなんだ。考えても見てよ。ハイクラスの装備は当然、素材も少なくて住むし成功率も高い。レアと比べても半分ぐらいの素材数なんだよ」
「げっ。そんなに違うのか」
尻尾をふりふり頷くシースターは、そのハイクラスに石の能力を付与できれば、レアと同程度の効果になるんじゃという。
防御力やHP補正なんかは劣るが、プレイヤーによってはそれより能力重視って人もいるからね――と。
確かにAGI系前衛なら防御力やHPが欲しくない訳じゃないが、回避向上能力が確実にあるほうが嬉しいだろう。
「あとね……合成が可能だとして、レジェンドに石を追加できたら……能力四つになるんだよっ。これって凄くない!?」
「……は!? そ、そうかっ」
能力四つ……確かにそうだ。
レジェンドを超える……超える……ハイパーレジェンド!?
「ま、さすがに試しでレジェンド出すのは恐ろしいから、まずはノーマル装備にこれね」
「臆病者!!」
シースターが取り出したのは、なんの飾り気も無い皮手袋で、その名も『普通の手袋』だ。アイテム名の文字色は白。
これに水色の『能力石』を付与するとのこと。受け取ってアイテム説明を見ると、水属性に対する耐性3%アップ――と書かれていた。
「属性耐性は10%ぐらいないと、あんまり見向きもされないんだよ」
「へぇ。こういう石って分解だと結構手に入るもんなのか?」
「うん、まぁ割とね。良い『能力石』を手に入れるためなら装備分解するのがいいんだけど、こういう低級のものならドロップ品分解でも手に入ったりするよ」
素材とか、売るだけのアイテムだったりするんだろうか。
へぇ。割と手に入れられるってんなら、これを市場に流通させれば儲けるんじゃね?
俺のお古装備も分解して貰おうかな。
ってことでまずは合成チャレンジ!
受け取ったアイテム二つを合成していく。
もちろん外見を残すのは手袋のほうなので、左の合成枠に。石を右側に。
特にシステムメッセージが出るわけでもなく、無事に完了。
出来上がったのは……
「アイテム名の文字色は白のまま……『普通の手袋+』ってなってるぞ」
「プラス? 見せて」
完成品をシースターに渡す。
能力は確認し忘れたので、彼に尋ねてみると、水属性耐性3%アップはちゃんと付与されているとのこと。
これ、『+』ってことは、何個でも付けられるんじゃね?
「シースター。屑石他にないか?」
「あるけど……追加合成するのかい?」
「おう!」
受け取った石と完成品を再び合成する。
【装備品の過剰合成は行えません】――というメッセージが浮かんだ。
おぅ……そうだった。
「じゃあ、石同士の合成は?」
「そ・れ・だ! シースター、まだ屑石――あるんだなっ。よし」
石を追加でもう一つ受け取り、二つの合成を試みる。
【この組み合わせは合成不可能です】――おぅ……ダメですか。
「ダメだったみたいだね」
「あぁ。この組み合わせはダメだっていうメッセージが出たよ」
「そか。でもまぁ、装備の複数回合成が出来ないんだし、当たり前と言えば当たり前だよね。『能力石』を複数合成できれば、それあけでやっぱり壊れ性能だし」
まぁそうなんだけどさ。
こうなると、自分好みの『能力石』を探し出すのは重要だな。
装備分解と言っても、このゲーム、普通のモンスターからの装備ドロップは無いし……。ネームドやボス装備を分解用に使うってのは、着古したのならいいが、適性レベルだと自分で着るか、売るかしたほうが絶対良いだろうし。
「なぁシースター。装備分解以外だと、どんなアイテムから石が取れるんだ?」
「うぅん。ぼくもいろいろ分解しまくって、なんとなく法則を掴んだ程度なんだけど……アイテムにさ、それっぽいネーミングが含まれてる物があるんだけど――」
例えば、ピッピからドロップする『風斬り羽』。これを分解したとき、『能力石』が出る事があるらしい。必ずという訳でなく、三割ぶらいの確率なんだとか。
三割ならまぁまぁいいんじゃないか?
「ピッピそのものの個体数が少ないし、時間限定だからねぇ」
「あぁ、そうか」
「しかも取れる『能力石』がさ……どんな能力かはランダムっぽいんだ」
「は? どういうこと?」
シースターがインベントリから、水色の『能力石』を三つ取り出して見せてくれた。
一つは風属性を武器に付与する石。
一つは風属性耐性をアップさせる石。
そしてスラッシュのダメージアップという石だ。
「スラッシュって、剣スキルの?」
「うん。風斬りっていうぐらいだから、斬り付け攻撃のダメージ増加なんて能力もあったんだ」
「ほぉ」
なら、他にも初期スキルのダメージアップ系とかもありそうだな。
で、この三つの石は、ピッピからドロップする『風斬り羽』を分解して得たものだという。
同じアイテムから複数種類の石が取れるのか。
〔ぷぅぷぷぅ〜ぷ〕
「あん? お前の風切羽? え? くれるのか?」
〔ぷ〕
「おぉ。シースター。一本ならぷぅがくれるらしいぞ」
さっそくぷぅは羽を啄ば……めず、ぷるぷる体を震わせて羽根を一枚、落とした。
まぁあのフォルムだもんな。自分の翼にすら顔が届かないっていうね。うん。
「いいのかい?」
「一本ぐらいなら、すぐに生えてくるからいいんだとさ」
「ありがとうぷぅちゃん。でも……一本じゃなぁ」
「そう、だよなぁ……」
ぷぅの青い風切羽を見つめ、俺とシースターはシンキングタイムへと入る。
〔ぷっぷぷぷぅ、ぷぷぅ〜ぷぷ〕
「な、に……その手があったか!!」
ぷぅの助言によって、大量の『風斬り羽』を手に入れる方法を思いついた。
「え? なに? どんな手なの?」