165:マジ、先住民と接触する。
『重複合成が出来ないのは装備品のみでございます。理由としては、ゲームバランスが崩壊するような案件になってしまうからでございます』
「なるほどね。素材は重複させてもいいのか」
『はい。そもそも合成済み素材と、未合成素材とでアイテムコードを分けたり、別アイテムを作りあげるのが面倒ですので』
面倒だったから合成済、未合成と分けなかったとか……どんだけ怠慢なんだよここの開発は。
おかげで合成し放題だぜヒャッハー!
そんな説明を、ゲーム内で採取しながら聞いた。
時間が惜しいので、シンフォニアにはゲーム内に移動して貰ったのだ。
ダメかなと思ったが、案外アッサリOKしたな。
『ご主人様のためですから』
「もう帰っていいぞ」
『酷い! せっかく久々のシャバだってのにぃ』
「どこでそんな言葉覚えてくるんだよっ!」
採取途中に思わずツッコミ入れたもんだから、採取ゲージが完了前に消えたじゃねえか。何も取れてねえよっ。
『ネットワーク上には様々な動画が落ちておりますので、そこからいろいろと勉強させて頂いております』
ぺこりと頭を下げ、そのままシンフォニアは旅の扉を潜ってロビーへと戻っていった。
なんだろうな、この虚無感は。
完全に言い逃げされたような、そんな感じだ。
はぁっと溜息を吐き捨て、採取作業へと戻る。
〔ぷっぷぅ〜〕
「来たか」
巨代花の上からぷぅが見張りをしてくれている。そのぷぅがモンスター襲来を知らせてくれた。
『シルブレッドキャタピラー』以外にも、『カイコンガー』『スパークバタフライ』『ザッツフライ』『ホーン』という昆虫型モンスターが生息している。
来たのはスパークバタフライか。
名前の通り蝶なんだが、雷属性の魔法を使ってくる。まぁ魔法防御が高いINTマジにとっては、痛くも痒くもないんだが。
「ノームさん、お願いしゃっす」
〔の!〕
こいつやカイコンガー、ザッツフライは風属性モンスターだ。雷魔法使ってるのに風だ。
風ってことは、弱点は土になる。
土の精霊ノームとの相性はバッチリだ。
二人で『ロック』を使い、飛来してきたところでど突く。
バタフライのレベルが29ってのもあって、ノームと一撃ずつ攻撃すれば墜落させられる。
こいつの羽も素材だ。何に使うのかさっぱりだが、誰かに譲ってやろう。
さて、モンスターも蹴散らしたし、採取採取っと。
繭からの採取三回で、一旦繭が消える仕様だ。なので三回採取したあとは、次の繭を探さねばならない。
だいたい巨大花群生地一箇所につき、繭は四つか五つぐらいある。全部を採取し尽くしたら移動し、別の群生地でまた採取し尽くしたら移動し――繰り返しているうちに、
「あれ? ここ、どこだ?」
巨大花ではなく、普通に木が生い茂る森へとやってきてしまった。
振り返ると背後の方に巨大花が見える。
前方は森。後ろは高原。
繭……森の中のほうが有りそうじゃね?
あるでしょう!
ってことでやって来ました森の中。
あるよあるよ、繭あるよ! あっちにもこっちにも!
繭から繭へ渡り歩くうちに、どんどん深くまで来てしまった。
うん。迷子になる前に戻るか。んで森の入り口に戻れば、採取しつくした繭が復活してる頃だし、丁度いいだろう。
くるりと踵を返したところで、背後の茂みがガサガサと揺れる音が聞こえた。
な、なんかいやぁ〜な予感がするんですけど?
ゆっくり振り返ると、こちらを見てギョっとした顔の……プレイヤーか?
二十歳前後の、しっかりとした装備を纏った男が立っていた。
こんな所でネームドと遭遇とか、死亡フラグとか、そういうのでなくて良かった。
「な、なんだ。ダークエルフか」
「あ、どうも。ダークエルフです」
そんなにダークエルフが珍しいか?
まぁ確かに町を歩いてても、比較的少ないけどさ。
「ダークエルフがこんな山奥までやってくるなんて、珍しい事もあるもんだ」
「え? そ、そう」
「北の『干からびた大森林』からここは遠いだろ? 狩りをするにしても、ここまで来ないもんだと思っていた」
「干からびた?」
何処の事だ?
いや、そもそもこの男は、何を言っているんだ?
狩りをするのに種族単位でどこに行く、行かないなんて、無いだろうに。
いったいどこのダークエルフと勘違いしているのや――どこのダークエルフ!?
も、もしかして、ネイティブなダークエルフと間違えられてる?
またかっ。
ん?
つまりこの男は、NPCか。
でも勘違いしているわりに、普通に接してくるが……
「えぇっと、そちらさんはどこのどなたで?」
「え? あ、あぁ、山を下った東の集落に住んでる者さ。お互い作物もロクに育たない荒野に住んでると、食うもの探すのが大変だよなぁ」
はい、この人ネイティブ人でした!
ど、どうしよう。
俺がプレイヤー……いや、冒険者だって分かってないようだし。バレたら襲われるかも?
こんなタイミングで出てくるNPCって、強いんだろうか?
ふと脳裏に過ぎるのはファリスやアイリス。
そして砦を破壊しつくして、孫娘にデレデレ顔の大賢者や、全てを凍てつかせる氷の女王を従え高笑いするブリュンヒルデの姿だった。
うぅぅ、ぶるぶるぶる。
ダメだ。絶対殺される。
せっかく繭ターンだったんだ。ここでデスペナは食らいたくない。
とにかく話を合わせておこう。
「そ、そうだな。荒地だと野菜も育たないし、大変だよな」
「そうそう。痩せた土地じゃあ、芋や豆ぐらいしか上手く育たないんだよな」
「ははは。そうなんだよなぁ。あ、でも俺が今日ここに来たのは、狩りの為じゃないんだ」
「へぇ。じゃあ何をしにこんな山奥まで?」
俺は頭上にある立派な繭を指差し、糸が欲しいからだと、ここは素直に話す。
「上質な装備を作りたくてな」
「あぁ、なるほど。装備の素材か――」
そう返答した男は、俺を下から上までじっくり見たあと、固まった。
……シ、シンキングタイムか?
俺の格好、そんなに変か?
いや、変か。
うん。変だよな。
うんうん。
「俺の獲物は『ボーンラビット』の肉さ」
スルーかよ!
俺のこの格好をマジマジと見ておきながら、一切触れないってどういう事っ。
触られない事の方が、いろいろとグサっとくるんですけど。
「どうした?」
「い、いや。なんでもないです。その兎肉なら少し持ってるよ。譲ってやろうか?」
森に入ってからこのボーンラビットとは何度か遭遇している。
可愛い顔してアクティブモンスター。しかも何かの骨を手にして襲ってくるという、シュールなモンスターだ。
譲ってやると言った途端、男が驚いたような顔で後ずさる。
「ダ、ダークエルフが俺たち人間に、肉を譲る、だと?」
あ、しまった。ネイティブダークエルフって、俺が思ってるような悪いイメージそのものなのか。
自分に甘く人に厳しく――というより意地悪く。他人に物をやるというのが無いんだな。
これでは疑われてしまう。
やっぱり死亡フラグじゃないですかヤダもー。
「か、代わりに『糸玉』をくれ。そ、それと交換だ。あ、いや、『絹糸玉』がいい。うん、それがいい」
タダではない。物々交換ぐらいなら、良いダークエルフじゃない……よな?
男はやや硬直し、少しだけシンキングタイムを取ってから動き出した。
「『絹糸玉』は今手元には無い。けど採取すればすぐに手に入る。それでもいいか?」
「え? す、すぐ!?」
「あぁ。俺は『採取技能』のレベルは50あるんだ。八割ぐらいは『絹糸玉』を採取できるぜ」
とドヤ顔になる。
やっぱりどのラインナップが採取できるか、レベルによって確率が変わる仕様なんだな。
出来ればたくさん欲しい。
だが持ってる肉は十個程度だ。
なら――
「肉集め、手伝ってやるよ。だから『絹糸玉』、ばっちり頼むぜ!」
キラんっと白い歯を光らせポーズまで決めたのに、男はシンキングタイムへと突入。
俺のこのキラキラエフェクト、どこに置けばいいんだろうか。