163:超合金セシリア。
ネームドを倒し意気揚々と採掘場へと戻って、お楽しみのドロップチェックタイムだ。
今回は二つのパーティーでタコ殴りしたから、より貢献度の高いほうのパーティーにだけドロップが入っているはず。
で、結果としては――
「セシリア先生チームにドロップがいったか」
「ヘイトと、水属性付与されてからの弓攻撃の蓄積ダメージだろうな」
「ふふふ、頑張ったぞ」
自慢気のセシリアからドロップ発表。
「火属性のレイピア! かわいいぃ」
レイピアが可愛いだと?
と思ったら、鍔の部分にスライムの彫り物が施されていて、しかもそれが天使の羽付き。
死して天に昇るスライムってことなのか?
更に柄の先端にも透明なスライムがくっついていて、女の子好きしそうなデザインではある。
その等級は――
「アイテム名の文字色はオレンジ色だぞ。これ、一定確率で二回攻撃になると書いてある。もう一つは、与えたダメージの10%ををHPに還元とあるが……どういう意味?」
「ちょ、それかなり性能良くないか?」
一定確率ってのがどのくらいなのか分からないが、要はダメージ二倍だ。殲滅速度向上じゃん。
与えたダメージの10%をHPに還元。つまりダメージ100与えた場合、自分のHPが10回復する事になる。
このレベルだと与ダメ100なんてことはないし、回避前提のAGI職だと被弾回数そのものが少ない。そこに来て回復し続けるってなると、もうポーションいらずじゃね?
いいなぁ。いいなぁ。俺もHP還元装備欲しいなぁ。
HP還元の意味を教えると、セシリアはウキウキしながらゾンビを切り刻みに行った。
攻撃と同時に緑色の回復エフェクトが浮かんでいる。回復量は30ちょっとだが、羨ましい。
彼女はレイピア以外にもレア素材を三種類ほど貰っていた。
「全部三つずつ拾ってたぞ」
「俺はレジェンドの篭手だ。だからネームドなんか倒したくなかったんだよチクショウ」
「こっちはブーツだ。素材よこせ、素材ぃー!」
「弓使いだってのに、誰が盾なんか欲しがるんだよ馬鹿野郎!」
「なんでスライムから皮鎧が出るんだコンチクショー」
「ズボン……だと? どう見ても人間サイズのズボンアイコンですけど?」
いや、装備アイコンは種族性別関係なく共通絵柄だろ?
素材寄こせコールで愚痴るドワーフどもは、次々にセシリアのところに行って、拾った装備を押し付けて行く。それから俺の所にやってきて、手をだし、「素材プリーズ」と合唱する。
おい、何気にセシリア先生、全身揃ってねえか?
しかも全員、レジェンドじゃないのか?
「ふ、ふえぇぇっ! ぜ、全身オレンジ色装備になったよぉ」
……最強だろ。
「素材が欲しいからって、ドロップ装備を全部セシリアに譲ってしまうとは……一つでも売りに出して、それで素材を買おうっていう気にはならないのか」
「自作品でもないものを店に並べるのは性に合わん」
それが答えらしい。
職人魂の熱いドワーフどもだぜ。ふ……。
でもなぁ、こちとらドロップとは無縁だったんだ。レジェンド素材なんて手元に無ぇよ!
モンハウ潰しててレアぐらいならあるかもしれないけど……ゾンビから出るレア素材って何だ? 想像したら物凄くグロいのが頭に浮かんだんですけど。
まぁインベントリを漁ってみるか。
「えぇっと、鉱石系――は技能で見つけたアレと、鉄鉱石。採掘してないのに持ってるって、ドロップか?」
「それはゾンビからドロップした素材だの。レベル35ぐらいまではメイン素材ぞなもし」
「ほほぉ。他には――」
骨だの動物系モンスターの皮、羽なんてのもある。あとレッドスライムのデラックス表皮か。
あ?
スライムの表皮?
あいつに皮なんてあったのか。いや、そもそも貢献度的にドロップの無いパーティーに居たんだ。スライム産を拾ってるわけがない。
「ドドンたちはスライム産のアイテム、拾ってるか?」
「スライム? いや、持ってないけんど」
「俺、レッドスライムのデラックス表皮っての持ってんだけどさ……なんでだろう?」
「マジックどん、『採取技能』は持っておるかもし?」
「コスライムでは無理なんですけど、スライムになると稀に『採取』で素材を取れる事があるそうなんです」
へ、へぇ。そういえば技能持ってたな。持ってただけで、未だにレベル1のままだけど。
「これ、何に使えるんだろうな」
「さぁのう。スライムから素材を取れるという情報は、職人ネットワークでも流れておるが、実際に何が取れたかという情報は少ないからのぉ」
「そうか……まぁいいや。これ、お前らにやるよ。二十三個持ってるし、一人二個ずつな。余ったのは俺が貰っていいよな?」
セシリアはレジェンド装備をしこたま貰ったんだ。素材ぐらい、いいだろ?
だってこれ――
「オレンジなんだよ」
ぎょっとしたドワーフ軍団が俺を見て、それから満面の笑みでGJサインを出す。
シンクロしすぎて怖いです。
全員に二個ずつ、デラックスな表皮を渡し終えたあとは採掘作業に戻る。
俺は『発見』技能で銅鉱石を追加し、モンスターハウスを二つ潰してその日の狩りを終えた。
町に戻ってからは、素材関係をドワーフ軍団に分配。セシリアは今回のレジェンド一式でお腹いっぱいなので、他はいらないと言う。俺はもちろん、何か欲しい。
上半身装備が一着だけで、しかも合成してるから防御力としては通常より劣ってるんだよな。ここを強化したい。
ってことで、素材は提供するから、出来ればこっち好みの性能で作って欲しいと頼んでみる。
「性能の付け方は、若干ランダム要素があるぞなもし」
「ランダム?」
「そうっすね。例えば状態異常耐性を付けようと思ったら付けられるっすが、どの状態異常に対する耐性が付くかはランダムっす」
「指定したければ、そういう素材を用意せなあかんのやけど、それこそレジェンド並のドロップ率やねん」
マジかよ。
うぅん、まぁとりあえず防御力とHP補正が高ければあとはどうでもいいや。
「まぁそういう事なら見繕ってやるぞなもし。だが素材がちと少なくてなぁ」
「何がいる?」
「防御重視で……布装備じゃろ?」
こくりと頷く。
魔法使いなんだ、布だろう。本当ならローブとか法衣なんだろうけど、合成で外見が無くなるからデザインもどうでもいい。
「なら高原におる『シルブレッドキャタピラー』という芋虫から、糸玉を集めてくれんかの? 採取があれば、繭からも糸玉を取る事もできるぞなもし」
「オケ。具体的な位置を教えてくれないか」
「さっきの鉱山から、俺らが上ってきたのとは逆の道を下っていけば、三十分ぐらいでつくぜ」
なら昼飯の後にでも行くかな。
ドワーフ軍団とは今後も何かとお付き合いしておきたい。現状の装備高騰を見ると、素材と引き換えに装備を――というのは、なかなかに恵まれている状況だと思う。
「そんな訳で、フレンド登録させてくれよ」
「俺らから絞る取る気満々っすね」
「まぁその分、素材提供はお願いしますよ」
「珍しい物拾ったら、是非見せて欲しいっす。可能ならドロップモンスターの情報とかもお願いするっすよ」
「オケ。ついでに『発見』技能で見つけたアイテムとかの情報も流してやるよ。技能は――」
開拓村に行けば例のうん○NPCの女の人がいる。村がちょっと発展しちゃってるが、技能を教えてくれるNPCが消えたりはしないだろうし。
習得条件を教えたら、さっそく行ってみるという。ザグには以前教えていたから、彼は修得済だと話す。
「じゃあ採掘しながら『発見』してればよかったじゃん」
「抜かりはないぞなもし」
そう言って銅鉱石をチラつかせる。
汚い!
流石悪逆非道ドワーフ、汚い!
フレンド登録後、それぞれ解散して俺は一旦ログアウト。
昼飯を済ませ、ウッドデッキでウィキを眺めながら素材を調べる。
『結局買うという選択肢は?』
「うん。まぁ……ドロップ数が修正されたからといって、直ぐには値段が下がるわけじゃないってのが分かっただけだった」
『まぁ……お金持ちだと豪語していましたのに』
「ぐ……それ以上に装備の価格が高騰してんだよ」
午前中の採掘モンハウツアーで、レベルはもう直ぐ32というところまで来てしまっている。
芋虫狩りしてたら、たぶん今日中に32になってしまうだろう。
採取でも取れるというし、そっちメインで集めるか。
他に知りたいのは、ポールやロギンが話してた、性能を指定して付与させる素材だ。
どうでもいいとは思ったものの、良い性能があればそれに越した事は無い。
セシリアじゃないが、MP還元とかあると魔法打ち放題だしな。そういうの、無いかなぁ。
高原に出現するモンスターでそういう素材をドロップするのが居ないか調べてみたが、生息モンスターの情報はあるものの、ドロップ情報に関してはノーマル品しか記入が無い。
レアとかの情報を書けば、誰もがそのモンスターに群がるだろうし、独占したい奴だと絶対書き込まないか。
俺も書き込まないしな。
まぁ贅沢は言うまい。とりあえず糸玉を大量にゲットしてくるか。