162:ぷ、で、さんば。
〔ぷぷぷぅぷぷ〕
「違う違う。なんでお前にプロポーズなんかしなきゃならないんだ。そもそも俺はまだそんな年じゃないっての」
面白おかしいお前が、相棒として好きだっていう意味だと何度説明しても、都合のいい解釈しかしようとしないぷぅ。
肩に乗り、頬ずりし、頭に乗り、ばさばさ羽ばたき……でかくなったぶん、肩や首にかかる重さが……いやまぁ、その辺は以前とまったく同様なんだけどな。たぶん本当に重くなったら、プレイヤーへの負担が大きいからとかそんなのだろう。
でも気分的に重い。
あれか。濃厚レア団子を残り全部置いてきたから、それ食って一気に太ったのか。
やばいな。しっかりダイエットさせねば。
丸々と太ったぷぅを眺め、セシリアがにこにこしながら声を掛けてくる。
「よかったな、ぷぅちゃん。進化できて」
〔ぷ。ぷぷぅぷぷっぷぷ〕
うん。あたちとダーリンの気持ちは通じ合ってるから、楽勝よ?
いやいや、俺らの気持ちって、かなりずれてますから。
ん?
今、進化って言ったか?
「セ、セシリア先生」
「ふ、ふえぇ。な、何ですか、マジック君」
「今、進化って言いましたか?」
「い、言いましたよ」
ウミャーを重そうに抱えたセシリアは、
「ウミャーが進化した時も、突然大きくなったのだ」
「大きく……太ったんじゃなく?」
〔ぶぶぶぶぶぶぶぶっ〕
「あイタタタタタタタ」
巣に収まった状態でぷぅが突いてくる。これもでかくなったからこその高等技だろう。
「マジック君。女の子に対してなんて失礼なんだ。ぷぅちゃんは……進化して大きくなったのだ!」
「その間はなんだ。今一瞬、いややっぱ太っただけかもとか思っただろ? 思っただろ?」
俺の言葉に視線を逸らしたセシリアは、全力で首を振りつつその口元がやや笑っている。
やっぱり思ったな。
でぶっただけだよ。食いすぎなんだよ。
「お前が進化とか、まさかね〜。大きさ以外どこも変わってねえし」
〔ぷぅ!〕
巣から飛び出してきたぷぅが、俺の眼前でホバリングを開始。そして必死に後頭部をアピールする。
〔ぷぅぷぷ!〕
「飾り羽根が伸びてるでしょ? ……そうか? よく分からない」
〔ぷぷぅぷっぷぷ!〕
くるんと回転して尻をアピールし、尾羽が伸びてるでしょという。
伸びてるか?
いや、そもそもの長さをよく覚えていない。
それ以前に全体的にでかくなってるから、それも含めてみると以前と同じ倍率で伸びてるだけにしか見えない。
〔ぶぶーん〕
ががーん、とか今時自分で言うのかよ。
落ち込むぷぅをセシリアが必死に慰めようと肩|(?)を叩く。
「そ、そうだぷぅちゃん! ステータスを見せればいいのだ。そうすれば進化したことを分かって貰えるぞ」
〔ぷ。ぷぷぅぷ!!〕
そうね! とぷぅが飛んできて、ドヤってな感じでステータスを浮かび上がらせる。
◆◇◆◇
名前:ぷぅ
種族:ピチョン
状態:成長期
スキル:サンバ・デ・ぷぅ
好感度:+200
空腹度:1|(お腹が空いていない状態)
◆◇◆◇
目の錯覚だろうか。
成長期になってやがる。しかも、意味不明なスキルまで持ってるぞ。なんだよこのサンバでぷぅって。全然期待できなさそうな効果なんですけど?
だが……進化したことは理解した。
これが進化って奴なのか。
しかしいつの間に?
「ぷぅ、お前いつの間に経験値溜まったんだよ」
〔ぷぅぷ!〕
「は? ここのモンハウ潰してる間? だったらサクっと進化すればよかったじゃん!」
〔ぷぅぷぷ! ぷぷっぷぷっぷっぷぅ〕
ダーリンとあたちの愛を確かめる必要があったのよ?
嘘付け!
「ぷぅが何言ってるのか知らないが、進化には主人との信頼関係の再確認みたいなのも必要だとかウィキにもあったぜ」
「さっきぷぅどんがお前さんを庇ったのも、その現れぞなもし」
「いいなぁ。ワイのミランダちゃんも、はよ進化せんかなぁ」
〔うきぃ〜〕
サルの名前はミランダかよ……。つまり雌だな。雌なのにモヒカンなんだな。
しかし進化か……もっとこう、儀式めいたものでもあるのかと思ったら、気づいたらでかくなってただけという。
だがこれで戦闘面でのバフが掛かるわけで!
「ぷぅ、お前のこのスキル。効果はなんだ?」
〔ぷ? ぷぷぅぷ?〕
「おう! 試してくれっ」
のそのそと徘徊するゾンビに走って行って、ぷぅのバフスキルの検証を行った。
他の面々も興味があるようでついて来る。
俺たちに向かって一礼したぷぅは、深呼吸をし、目をかっと見開くと――
〔ぷっ! ぷっぷぷぷぷっぷぅ〜♪〕
踊りだした。
しかも何故か音楽も聞こえる。
サンバか!
サンバなんだな!?
「サンバだよな、この曲?」
振り向いて皆に確認をしてみるが、笑われただけで首を横に振られた。
違うのか?
「いや、曲って何のことだか分からんけん」
「マジックどんにしか聞こえておらんのかもしれないぞなもし」
「そ、そうなのか……」
「それより効果っす。どんなバフっすか?」
「お、そうだった」
簡易ステータスには音符マークと鳥の絵が重なったようなアイコンが付いているが、説明は出てこない。
「ステータス画面を出して確認しないと、どんな効果なのか分からないぞ」
と、進化の先輩セシリアが教えてくれる。
じゃあステータスっと……どこにも変化が無い。
「ステータスの数値で、どこか青くなっているところはないか?」
「セシリア先輩、どこにもありません」
「えぇ〜……私の場合はSTRとAGIが青い文字になっていたからすぐにわかったのだが」
うう〜ん。
とりあえずせっかく来て貰ったゾンビには悪いが、普通に死んで貰うか。
三匹のゾンビに向って『サンダーフレア』で燃やし、一匹を『ライト』、もう一匹を『ファイア』で止めを刺す。三匹目はCTの明けた『ライト』で倒して終了。
うぅん、特にダメージが増えた感じでもないんだが……。
「っと、追加がきたか」
『サンダーフレア』はまだCTだし、『焔のマント』でも――
あれ? 『サンダーフレア』のCT、終わってらぁ。
杖効果でCTは半減してるから、元が六十秒の『サンダーフレア』は三十秒になってるはず……。
「『サンダーフレア』」
ぼぼぼぼぉバリバリバリィっとゾンビ、スケルトンを燃やしながら脳内でタイムを計る。
再使用可能まで、十七秒……いや、もしかして十五秒?
「これ、CT半減効果かも。ぷぅ、踊るのストップ」
〔ぷぅっぷぷ〕
「あ、もうとっくにやめてたのか。持続性のあるバフみたいだな」
〔ぷ〕
三分よ、とぷぅが言う。
「CT半減か。魔法を使う奴にはかなり良さそうだな」
「あぁ。めっちゃいいよ! ぷぅ、お前ってば、さいっこーの相棒だなっ」
〔ぷぷぅ〜ぷぷっぷぷぅ〕
「だが断る」
〔ぶぶ!?〕
お婿さんにしてあげてもいいのよなんて言うから、速攻で返答しちまったよ。
ったく、褒めるとする調子に乗る。
くくく。
だがぷぅのお陰で魔法ぶっぱし放題だぜ!
装備効果で半減。バフで更に半減。結果としては75%カットだ。
上手く使えば範囲魔法だけでスキル回しできたりするんじゃね?