159:マジ、幻覚を見る?
じりじりと集まってくるモンスターたち。主にゾンビとスケルトンだ。
なら、最高の魔法で迎え撃ってやろうじゃないかっ。
「ノーム!」
〔むむっ!〕
地面から飛び出してきたノームは、俺の意図を察してその場にちゃぶ台を立てる。
広場から通路に出るその場所に、まるで開いた扉のような形で座卓が出来上がった。少しの隙間を空け、もう一枚俺がちゃぶ台を立てる。
そして――
「ほっぷ、すてっぷ――」
座卓の足を蹴って上り、更に壁も使って三角飛び!
「ジャンプからの『シャイニングフォース・フィンガアアァァァァ』」
迫り来るアンデッドどもの頭上から、聖なる光が降り注ぐ。
悲鳴のような、ただの嗚咽というか、不気味な声を上げ、それでもじりじり向ってくる。
スチャっと着地して、手の届く距離の奴にフィニッシュを決めれば、塵になって四散していく。
さぁて、次は『焔のマント』で――
スコンッ。グサッ。ヒュッ。っという音が聞こえ、バタバタとゾンビスケルトンどもが倒れていく。
お、俺が華麗に止めを刺そうと思っていたのにぃ。
「マジ大丈夫か?」
「いくらマジックどんでも、一人で突っ込むのは無謀であるぞもし」
そう言いながら二矢目を放つ二人。それぞれ一体ずつ倒してドヤ顔だ。
HPのほとんどを俺の魔法で削られていたアンデッドは、矢の通常攻撃一発で塵になっていく。
だから『焔のマント』で火葬しようと思っていたのにぃ。
最初こそ焦ったものの、アンデッドとの相性バッチリな聖属性魔法と、それに追加補正が入った杖のお陰で意外といけるもんだな。
ノームと俺の『ちゃぶ台返し』もいい具合に壁になり、一度に大群が押し寄せられない構図にすると、モンスターハウスも楽に潰せそう。
もちろん、通路という狭い場所がそういう立地を作り出せた訳だし、最初からここに大群が詰まってたらどうにもならなかっただろう。
条件が良かったのだ。
とりあえず、巨大スライム周辺の雑魚は一掃した。
残りは奴と、奥のほうで固まってるプチモンハウ住人だな。
「奥のを刺激しないように、ネームドをこっちに釣るか」
「じゃあ私が、ギリギリの所でヘイトスキルを使えばいい?」
「おう。そうしてくれ。『カッチカチ』やぞ」
セシリアはAGI型だ。基本的に防御力は高くない。まぁ俺よりはマシだろうけど。
けど万が一の事を考えて、まずは彼女にバリアを掛けてやる。CTが明けたら次は自分だ。
両手剣を斜めに構え、すたすたとスライムに向って歩いていくセシリア。
もっと慎重に……。
それからいつものフレーズでスライムを馬鹿にすると、全力で戻ってきた。
「出来た!」
「おぉ、出来たできた」
ちゃんと釣れたことが嬉しいらしい。
慎重さの欠片もない釣り方だってのに、ちゃんとスライム一匹だけを釣ってくるんだもんなぁ。
あの初心者だったセシリアが……立派になったもんだ。
身構えたセシリアを中心に、ドワーフたちが左右と後ろに分かれて戦闘態勢になる。
俺はセシリアの隣で、攻撃と回復の二役を演じなければならない。ヘタすると回復メインになるかもな。
とりあえず、『カッチカチ』効果がある間は攻撃に専念しよう。
まずはこいつの属性を見極めないとな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魂のスーパーデラックスレッドスライム / LV:33
◆◇◆◇◆◇◆◇
ネーミングセンスの欠片もねえな。なんでもスーパーだのデラックスだの付ければ、強そうに見えると思ったら間違いだぞっ。
が、スライムの色といい、名前のレッドといい、たぶんこいつは火属性だな。
「ふ。今の俺に属性の死角は無い! 行くぞっ『ウォーター』」
右手を突き出し、水球を――あれ? 水球が作れない、だと?
突き出した右手の掌からは、ピューっと一筋の水が噴出しているだけ。
「おいマジ。なに一発芸なんかやってんだよ!」
「マジックどん、新しい芸を身につけたぞなもし」
「マジック君! 凄いぞ!」
ちがうちがう。そうじゃない!
え、えっと、水球をぶつける攻撃だったよな?
「『ウォーター』」
自分の手を見つめながら詠唱すると、噴出した水が顔面に掛かった。
……水の勢いとか全然ありませんけど?
これでダメージ与えられるのか!?
〔ぷぷぷっ〕
「わ、分かってるさ。糞。水撒きのしすぎで、へんな風にイメージが固まっちまったぜ」
もうこうなりゃ、一発芸のノリでやってやる!
「『ウォーター』」
右手でピストルの真似でもするかのようなポーズを作り、人差し指の先からピューっと水を噴出す。
弧を描きながらじゃばじゃばとスライムに水が掛かると、じゅっという音と湯気が立ち昇った。そして予想に反して三桁後半のダメージエフェクトが浮かぶ。
「一発芸でもダメージはちゃんと出るんだな」
「よかったな、マジ」
「うん、よか――いいからお前らも攻撃しろよ!」
「ふひひ」
でもほんと、良かったぜ。
ただ三桁ダメージってのは辛いな。試しに『サンダー』を使ってみたが、ダメージはほとんど変わらず。『ファイア』は……
「うぉ! 緑色のダメージエフェクト!?」
「マジックさん、それ回復してるんですよ」
「火属性なうえに、耐性強すぎて逆に吸収してるっすな」
「「『ファイア』禁止」」
はい。すみません。
うーん。決定打に欠けるなぁ。
俺の水属性のレベルが低くて、レベルの高い『サンダー』と基本ダメージが違いすぎて、結果的に差がなくなってしまってるし。
今からスキルと作成といっても、戦闘中は作れないんだよなぁ。
まぁなんとかするしかないか。
「『ウォーター』からの、『サンダー』。そして『ロック』」
〔のっむ!〕
ノームも『ロック』を使って頑張っている。その頑張りは俺のMPなんだけどな。
しかしノームの魔法もあまりダメージは期待できない。属性の相性もあるし、『ロック』のレベルも低い。それでもゼロよりはマシか。
「『ウォーター』」
水芸を披露しながらスライムを濡らしていく。
こいつ、別に熱い訳でもないのに、水を掛けるとじゅっとか音だして白煙が出るんだよな。
ぼよんぼよんと揺れる体から、時々びよんっと細い鞭みたいなのが伸び、それでセシリアを攻撃している。が、彼女はひらりと躱して、今のところノーダメージだ。
あれなら俺でも回避できそうだな。だって、びよん、だし。
びよんっと飛んでくる鞭を、ぴょんって躱す。
くふふ。びよんでぴょんだってさ。くふふふ。
「危ない、マジック君!?」
「『ウォーター』へ?」
水を噴出しながら、俺は何度か味わった事のある衝撃に襲われた。
視界の端では、数本の赤い鞭がセシリアに襲い掛かる光景が見えた。
まただ……
また俺は彼女に……
彼女に突き飛ばされた!
しかも今回は、俺を突き飛ばして尚、彼女はスライムの攻撃を躱している!?
なんだよ、むちゃくちゃ強くなってるじゃん。
助けてくれるのはいいけど、もっとスマートな助け方ってないんですかね?
あぁあ、スキルが発動した状態だったせいで、思いっきり自分に水が掛かったよ。
あ、こういうのを、水も滴るいい男って言うんですかね?
どうせなら綺麗な子が居る前なら、かっこも付けられたんだけど。
〔ぷくぷくぅ?〕
「そうそう、こんな綺麗な子の前ならかっこつけようってもん、だ、け、ど?」
〔ぷく!?〕
ぷくって、この目の前に居る掌サイズの綺麗な半透明なお姉さんは、誰ですか?