158:マジ、計画的な失敗を犯す。
両手剣握って目を爛々と輝かせる小柄なハーフエルフの美少女。
そんなのに詰め寄られた日には、怖くて一人で便所にも行けねぇよ。
ってことで恐怖に負けたドワーフたちは、渋々移動を開始した。
道中、十人のドワーフが肩を落とし、ぶつぶつ何事か呟いていたがよくは聞こえなかった。ダークエルフの耳はただの飾りですね、はい。
移動の間もモンスターとの戦闘はある。
進むにつれ、若干ラインナップが変わってきた。
アンデット系にスケルトンが追加されたり、モグラの代わりにミミズが出てきたり。
〔ぷ〕
「あ? 腹が減った? でもお前、さっき食ったじゃん」
まさかミミズを見て胃袋を刺激されたんじゃないだろうな。
〔ぷぷぅ〕
「あれはおやつだ? 言ってる意味分かんねぇし。今戦闘中だから後でなっ」
ここに来て、神聖魔法と火属性魔法ばっかりだな。
覚えたばかりの水と風を育てる環境がまったくねぇ。重力魔法覚える為に、全属性をレベル30以上にしなきゃならないのに。
でもここで遭遇するのは地属性モンスターと不死属性モンスターばかりだ。
〔ぷぷぷぷ〕
あ、蝙蝠は風属性だな。でも地属性モンスターも居るところに『ロック』なんか使ってたら効率が悪い。そもそもドワーフ軍団が弓矢でプスプス落としてくれるから、どうでもいい。
火属性や風属性の多い狩場、探さないとなぁ。
そうだよ!
狩場探しだよ!
なんかずっと目的から逸れて、違う事ばかりやっている気がする……。
〔ぷぷぷぅぷ!〕
「あぁあぁ、分かったよ。ほら、一個だけだぞ」
ぷぅぷぅ五月蝿いので、レア団子やや薄めを一個取り出して手渡す。食いつきは……さっきと違ってじっくり眺める事無く、一気に食った。そこだけ一緒かよ!
しかしまぁ、丸くなったなぁ。コスライムよりでかいよな。
どれ、柔らかさは……
〔ぷ?〕
「ん? いや気にするな」
軽く掴んで触り心地を確かめる。
まぁふわふわはしてるよ、ふわふわは。流石にコスライムみたく鷲掴みしたら、今食べたばかりの団子が飛び出てくるかもしれないし、それは止めておこう。
「お。頭の飾り羽根、少し伸びたか?」
〔ぷ! ぷぷぷぅ?」
「ほんとほんと」
わしわしと撫でてやると、嬉しそうに目を細めるぷぅ。
あぁ、こいつ、目は可愛げ無いが、こうして閉じてると少し可愛いかもな。
ぷにぷにつんつんと楽しんでいると――
「マジ、置いていくぞっ」
「ちょ、いつの間に!?」
振り向いたら皆もう先に進んでいて、置いていかれる寸前だった。
くそっ。振り向いたもんだから、またキラッキラしたじゃないか。
なんかいつにも増して明るく感じたが、気のせいなんだろう。
「モ、モンスターハウスだぞ、みんな!」
「モンスターハウスだな、セシリア!」
ドワーフたちに案内されてやってきた、天井が高いという場所。
通路ではなく、セーフティーゾーンのように広い空間になっていて、確かにそこだけ天井が高い。
そして見事にモンスターハウス化していた。
まぁ、さっきの狭い通路にひしめきあっていたアレよりは若干劣るが。
「言わんこっちゃない」
「儂は突撃とかしたくないぞなもし」
「ここで待ってるっす」
「看取ってやるさかい、安心して逝ってや」
さすが悪逆非道軍団。セシリアチームのドワーフも似た様な反応だ。
ちぇっ。なんだよ、楽しいのになぁ。
ゾンビ、スケルトンが浄化されるのを待ってるんだぜ。逝かせてやらないと、可哀相だろ?
あぁ、それにしてもあの真ん中にある岩、邪魔だな。
いやでも、あの上からジャンプすれば、かなりの滞空時間を稼げるかも。
いいねいいねぇ。
ただあの岩、動いてるし丸いしで上り難そう……え?
丸くて、動いて……る?
「ちょ、デカ!?」
「うむ。大きいな、あのコスライム」
違うぞセシリア! あれはコスライムじゃない。ただのスライムでもないっ。
岩かなにかのオブジェかと思ったそれは、周囲のゾンビやスケルトンより頭一つ分高い位置まである巨大スライムだった。
それがぼよんぼよんと動き、モンスターハウスの中で身動きとれず揺れている。
「うそん」
「このタイミングで……」
「最悪ぞなもし」
「ネームドっすね」
ぼよんぼよん揺れるスライムを呆然と見つめるドワーフ軍団。
今、ネームドって言ったか?
「ネームドが湧くの知ってて行きたがらなかったのか!?」
「……ここに湧くとは思ってみなかったけど、確率としてはまぁ、あるかもぐらいな」
「だったら余計に、なんで行きたがらなかったんだよ! ネームドだぜ? レアとかレジェンド装備を落としやすいんだぞ?」
「「だからだ」」
声をハモらせる十人のドワーフたち。
「儂らは生産を生業としておる。直接装備をドロップする確率が一番高いのがネームドぞなもし」
「いわば我々生産職の敵とも言える存在なんですよ、ネームドモンスターは」
「素材しかドロップしないっていうなら、好きになれるっすけどね」
……そういう理由で!
いやまぁ生産組としては確かに装備を直接落とされると、自分達の存在価値が危ぶまれるってのは分からなくもないが。
でも俺は生産組じゃないので、ネームドが居るなら倒したいです!
「なっ、なっ。倒そうぜ。素材が出るかもしれねぇじゃん? 出なくても、代わりに俺が素材提供するからさ。な?」
「等級素材だぞ」
「全員に最低でも一つぞなもし」
「お、おう」
「では作戦会議といきましょう」
こいつら……げんきん過ぎる。
流石にモンスターハウスに突っ込んでいって、ネームドも合わせて相手にするのは無理である。
さっきみたいに防御ガチガチのタンカー役が居るわけでもないし。居たところで、さっきは一瞬で蒸発したんだしな。
幸い、モンスターハウス化している場所までまだ距離があるし、こちらに気づくモンスターもいない。
遠くから少しずつ釣って、確実に下手していくのがいいだろう。
こっちには弓ドワーフが十人もいるんだ、釣るのは楽勝だ。
「ってことで、こんなのでいいか?」
「「異議なし」」
「じゃ、ドワーフ先生。よろしくお願いします!」
「「おーっ」」
このレベル帯になると、モンスターは大抵数匹セットになっている。なので一匹に攻撃を仕掛ければ、同じパーティーのモンスターも一緒に反応して近寄ってくる。
なので二人ぐらいが矢を撃って釣ってくれれば、丁度フルボッコするのに良い数が来るんじゃな……いかなとか思ったんだが……。
なんで全員、弓を構えてるんですかね!?
あ、射ったよ。十本飛んでったよ。
しかもお互い顔を見合わせ、しまったという表情だよ。
おい、誰が射るか決めないでやったのか!
十本の矢が思い思いの方角に飛んで行き、ぷすっと突き刺さったモンスターと、その仲間たちが一斉にこっちを見る。
うわぁっ、こっち見んなぁ。
〔ぶああぁぁっ〕
〔カラカラカラカラカラ〕
ぞろぞろとこちらに向ってくるのは、モンスターハウスを形勢している連中の約三分の一ほどだった。