157:マジ、猛禽類肉食獣に食われる。
「悪かったってぷぅ」
〔ぶぶぶぅぶぶぶ〕
頭にたんこぶの出来たぷぅを必死に宥めながら、〔うぼぁぁ〕と寄って来るゾンビどもを火葬していく。
小休止状態になり、ぷぅの頭部に手を添えて絆創膏『ヒール』を掛けてやる。
「ほぉれ、痛いのいたいの飛んでいけぇ〜」
〔ぶ?〕
「おまじないだ。痛いのいたいの〜」
言いながら頭を優しく撫でてやる。
ぷぅもだいぶん大きくなったな。孵化したての頃はピンポン玉サイズだったのに。
こう……ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく……今じゃすっかりソフトボール大だぜ。
とりあえず――
「レア実団子、食うか?」
〔ぷ!〕
食べるわ! と元気に反応するぷぅ。
痛みより食い気の方が勝る、なんともチョロい奴だ。
『発見』技能でしか見つける事が出来ない、貴重な木の実と合成した、団子十個に対して木の実も十個の濃厚圧縮団子を一つ、ぷぅに手渡す。
まるで愛おしい我が子でも見るような、うっとりした目で団子を見つめ――
「おい、一気食いかよ! よく味わって食えよっ」
〔ぷぷぷぷ〕
「あ? 美味しい物をゆっくり食べてたら、取られる? 誰にだよ!」
他に鳥ペットなんて……あ、ドドンのペットが鳥か。でも猛禽類だしなぁ、やっぱ肉味なんじゃね?
ちょっと気になったので、ドドンの鷹に木の実味の団子を見せてみる。
が、ぷぃっとそっぽを向かれてしまった。
「やっぱ肉味か?」
「手持ちある?」
「ない。けど肉と合成剤はある。あとはペットフードがあれば……」
とここまで言うと、全員がペットフードを出して寄こす。
いや、肉食系ペットは二匹しかいねぇじゃん。ウリボウって何食うんだよ。サルは……バナナか? 持ってねぇよ。
あ、ご主人が持ってるんですね。さすがですね。
結局野菜だの果物だの草だのも手渡され、とりあえず二袋ずつ作る事に。
「作るならウミャーのもぉぉ」
「俺たちのもお願いしまっす〜」
戦闘中のセシリアパーティーからも声が掛かる。
働きっぱなしだっての。
さささっと合成を完了させ、気になっていた猛禽類のホークの前に、まずは草団子を――あ、興味ない? じゃあ果物――ダメですよねー。
で、肉団子を見せるとばっさばっさ羽ばたいて大喜びする。
猛禽とはいえ、まだ雛なので見た目は十分可愛い。可愛いがワイルドでもある。
欲しくて欲しくて堪らない団子に向って首を上下に振り、ドドンの頭を突いておねだりする姿は、ちょっと可愛い。
「よしホーク。ガッツリ食え!」
〔クェー〕
ドドンの掛け声と共にばさばさ――地面の上をよちよち歩いてくるホーク。馬鹿かわえぇ。
ただ、手に持った団子目掛けてそのまま俺をよじ登ってくるのはいかがなものかと。
「爪! 爪痛いから!」
〔クエェー!〕
その後、大きくなったウミャーにもよじ登られ、ウリボウ羊に突進され、犬に足をかしかしされサルにぶら下がられ、俺はボロボロにされた。
ダンジョン内での合成を終え、再び作業に戻る。
だが俺は検証せずにはいられなかった。
「なぁ、天井の高い所ってないのか?」
ジャンプケーキによる、全力跳躍でどのくらい飛べるのか。そしてその際の『シャイニングフォース・フィンガー』の持続ダメージ、フィニッシュブローの破壊力がいかほどか。
俺は知りたい!
知りたい知りたい知りたい死にたい。
あ、違った。
「何箇所かあるぞなもし。ただ――」
採掘から戦闘にチェンジした俺たちは、お互い顔を見合わせる事無く会話を続けた。
ダンジョン内に数箇所、広い場所があるという。広さはセーフティーゾーンと同じぐらいで、体育館ぐらいある。そこは天井高が五メートルぐらいなんだとか。
ただドワーフ連中はあまり行きたくないんだという。
「なんで?」
ドワーフ軍団は顔を見合わせ、突然会議を開く。なにやらごにょごにょと話し合った末、ギグレッドが答えた。
「広い分、モンスターハウスが出来やすいのです」
「なるほど。そこだけが天井の高い場所、と?」
ドワーフ全員がこくりと頷く。シンクロしすぎて怖いです。
しかしモンスターハウスかぁ……
「よし、行こうぜ」
「何故そうなるかもし!?」
「我々はか弱い生産職ですよ!」
「ワクワクするじゃん!」
「さっき死んだばっかっすよあんた!」
どのくらい高くジャンプできるか。どのくらい持続ダメージを出せるか。どのくらいフィニッシュブローが出るか。
それを検証するならモンハウがいい!
「嫌じゃ嫌じゃ」
「鉱石がワイらを呼んどるんさかい」
「ここで大人しく採掘してましょう。ね?」
む。何故こうも嫌がるのか。
手伝う為にここまで来たんだ。俺の検証に付き合うぐらい、いいじゃん。
モンハウ潰すの、楽しいじゃん?
「よし、行こう!」
声は予想していない方角から飛んできた。
現在採掘組のセシリアチームの、そのセシリアからだ。
振り向くと、彼女の目が爛々と輝いているのが見えた。
「ふえぇっ。マジック君、光ってるぞ」
「もうそのネタはいい」
消えろ俺の称号!
「セ、セシリアちゃんまで、何言っとるん」
「セシリアどん、さっきのようなモンスターハウスがあるかもしれんぞなもし」
「死ぬかもしれへんよ?」
そう口々に叫ぶ悪逆ドワーフどもは、やっぱり不自然だ。
だがそんなドワーフの訴えを聞いてもセシリアの目の輝きは失われていない。寧ろ光ってる?
「モンスターハウス、楽しい!」
両手剣を握ったまま、斜めお祈りポーズの姿勢でそういう彼女は、目が、逝っているように見えた。