156:マジ、キスされる。
「『天使の口づけ』」
ふぁ〜っという効果音と共に綺麗な金髪お姉さんが舞い降りてきて、俺の頬にキスをする。
俺が起き上がると、彼女はにっこり微笑んでから手を振って消えた。
「天使のキッスキター!」
「うおおぉぉぉっ、キッス羨ますぃ」
「どうだった? どうだった?」
どうだったと聞かれても……。
そもそもあれはスキルであって、お姉ちゃんもスキル効果によるただのエフェクトであって――
「柔らかかった気がします」
「うおおおおぉぉぉぉぉっ! 柔らかい入りましたぁっ」
「俺も死んでいいですかあぁぁぁっ」
男達は俺の返答に歓喜し、女子はどん引きである。でも本当の事なんだから仕方ないだろっ。柔らかかったんだよ。あとチラっと胸の谷間も見えたんだよっ!
あれはきっと神様からのご褒美だったんだ。
そう……つまり俺は、死んだ。
二枚のちゃぶ台が崩れ落ちた時、ノームが咄嗟に次のちゃぶ台を立てたが間に合わず、一瞬にして俺のHPはゼロになった。
まぁタンカー職ですら数秒ともたなかったんだ。当たり前っちゃあ当たり前なんだが。
屍状態になると、目を開けたまま死ぬんだよな。そして必ず顔は横を向いていて、状況がどうにか分かるようになっている。
俺が倒れる直前、ノームは再びちゃぶ台を作っていた。そしてそれは壁と『く』の字になるような形で。
そこにデーモンは上手くそこに潜りこんで数十秒持ち堪えた。
雪崩れ込んできた数十人のプレイヤーが一斉にスキルをぶっぱする。
ある者は単体スキルで――ある者は範囲魔法で――矢の雨で――すれはもう、モンスターにとっては地獄絵面だったろうな。
最初はあんだけ躊躇していた連中も、デーモンと俺という二人の犠牲を……いや、あの時はまだ生きてたか。とにかく俺たち二人の行動で、みんなを動かせたのかもしれない。
まぁ死んだけど。
「蘇生魔法持ってる人が居てよかったな、マジ。しかもキスで起されるとか、どんだけ羨ましいんだ」
「もう一度死ぬっす」
「今度は男性に頼んで起して貰いましょう」
「蘇生魔法が全てキスだとは限らんぞな」
「マッチョな天使にハグされるのもええな」
「お前ら落ち着け。ただのスキルエフェクトだろ。そんなにキスに飢えてんのか?」
一斉に頷く悪逆非道ドワーフ五人衆。しかも知らない男連中まで頷いてる。
ダメだこいつら。
蘇生してくれた人にお礼を言おうと近づくと、何故か悲鳴を上げられてしまった。そのままパーティーの仲間らしき女の子の背後に隠れてしまう。
俺、何かしましたか?
「あぁ……そ、蘇生、ありがとう」
怯えさせないよう笑って見せる。
そして黄色い悲鳴と、笑い声が沸きあがった。
アイドル、発動!
「おお、お礼なんて、そ、そんな、勿体ないです王子様」
「とかいいながら、王子様を起そうかって話になったら、速攻で魔法使ってたじゃない」
「天使と自分を重ねてたんでしょ〜」
「ちょ、そんなんじゃないわよ!」
「や〜ん、この子真っ赤になってるぅ」
きゃいきゃいと話す彼女らだが、もう俺の事とか見ちゃいねぇ。
そっと離れて今度はデーモンのところへと行く。
「せっかく復活したのに、また死なせて悪かったな」
「いやいや、結果的にモンハウ潰しも出来たんだ。寧ろ助けに来て貰って死なせた俺の方が謝らないと」
「いやいや、かっこつけて助けに来ておいて死んじまうんだし、情けないったりゃありゃしないよ」
お互いペコペコと頭を下げあい、目があった瞬間に噴き出してしまった。
やった事も、その結果もまったく俺たちは同じ事をしたんだ。
そして二人で屍になっている間、皆が一致団結して巨大モンハウを一掃してくれた。
俺たちはそれを転がったまま見ていたのだ。
お互いかっこつけて飛び出して行って、あっという間に死ぬっていうね。
かっこ悪すぎて笑うしか無い。
けど、楽しかった。
転がってただけだが、楽しかった。
まぁ最初の計画とは違う結果になったけど……この事は内緒にしておこう。
それから周囲のプレイヤーに拍手され、肩を叩かれ、肘鉄を食らいながら仲間の下へと戻った。
ようやく安全となったセーフティーゾーン。
だが巨大モンスターハウスを短時間で一掃したので、またどこかで第二ルームが形成されているかもしれない。
ガチ戦闘勢が何組かで徒党を組んで周囲の状況を確認してくるらしい。
俺たちも誘われたが、いかんせんドワーフ軍団が非戦闘職ばかりだ。いくら弓の攻撃力が高いといっても、広範囲瞬間ダメージを叩きだせるスキルを持っていない。唯一ドドンが小範囲のスキルを持っているぐらいか。
普通に戦闘するぐらいにはいいが、モンスターハウス清掃要員には向いていないな。
そんな訳で俺たちは遠慮させて貰った。
再び定点採掘兼狩場へと戻ると、ちらほらとモンスターの姿も戻っていた。
狩りをしつつ採掘の作業が再び始まる。まぁ俺はずっと狩りしてるんだけどさ。
「マジックどん、さっきのスキルなんだが」
「さっき」
ザグが壁をザクザクしながら訪ねてくる。
「シャイニングなんとかと言っておったやつぞな」
「あぁ。それがどうした?」
「空中技かなもし?」
空中?
まぁそうとも言うか。
本来はジャンプして、頂点から落下するまでの間に持続性聖ダメージを、着地して一体に聖属性大ダメージってな魔法なんだが。
そういや最初から空中だったが、ちゃんと発動したんだな。
いやぁ、成功してよかったものの、しなかった場合はまるっきりピエロだったな。はっはっは。
「滞空時間が長いと、それだけ持続ダメージも長くなる仕様だから、本当は高くジャンプしたいんだけどな」
「ここでそれやったら、もれなく頭ごんするな」
するする。
なんせここ、天井まで三メートルぐらいしかないからな。
まぁそれ以前に三メートルなんて、飛べないわけだが。
「ふむ。ではこれを使うぞなもし」
ザグが取り出したのは、五百円玉サイズのカップケーキ。
あ、そうか。ジャンプケーキがあるんだった!
しかし、以前買ったのに比べると、ちょっとデカいぞ。
「これは跳躍力が四割増しになるケーキぞなもし!」
「おおおおぉぉぉ!」
じゃあ、百四十センチ飛べるのか!
パクっと一口で食べ、その場でジャーン――ゴスっと来たあぁぁぁっ!
「ちょ、マジ跳びすぎっ」
「自分の身長の事、考えや」
「すまん。渡すべきではなかったぞなもし」
そう。天井まで三メートル。俺の身長177センチ。
つまり、130センチも跳べばそこはもう天井。
「痛い。でもダメージは無い」
「よかったなマジ」
「うん」
頷きながら、ある事にふと気づいた。
頭を強打……。
頭には鳥の巣。
そこには……
〔ぶぶぶぶぶぶぶぶ〕
「あイタタタタタタタタ」
俺以上に痛い思いをしたぷぅが居た。
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