154:マジ、出来る子。
ドワーフ連中だけで十分やっていけそうだよな。つまり、俺要らない子。
そんな風に思っていた事が五分ぐらい前にありました。
「ちょ、おい、これマジ多すぎねえか?」
「だからモンハウが多いと言ったぞなもし」
『焔のマント』でゾンビ軍団を蹂躙し、『サンダーフレア』で止めを刺す。
だがそれでも後から後から追加が現れ、『シャイニングフォース・フィンガー』で応戦。
天井が余り高くないので持続ダメージ時間が短く、一撃で軍団を抹殺する事は出来なかった。
ずっとこんな調子でなかなか前にも進めないでいる。
MPはまだ大丈夫だが、息つく暇も無く魔法連打じゃ、過労死しちゃう!
「どこかで大規模モンハウが潰されたみたいだな」
「一掃されたモンスターどもが偶然ここにリポップしてきたのか。ひぃ、最悪だな」
「マジックどんがいれば大丈夫ぞなもし。さぁ、突っ込むぞなもしぃー」
「「おーっ」」
待てドワーフども。マジで俺を過労死させる気か。
ゾンビのツルハシで切りつけられてもケロっとしているドワーフどもは流石だ。いや、全員がガッチガチのフルプレートを着こんで、防御力を高くしているだけだ。腕のみ弓を操るせいか、手袋にしている。
お前ら俺より生存率高そうなんですけど?
こちとらガッチガチならぬ『カッチカチ』でひぃひぃ言ってます。
中央のセーフティーゾーンに到着した頃にはもうバテバテ。MPも危うく枯渇するところだった。
しかしここは何だろうなぁ。
セーフティーゾーン。つまり安全地帯な訳で、この一帯だけモンスターがリポップしない、寄らない、入らない場所になっているみたいだが……。
「へい、らっしゃい!」
「ポーション、安いよ〜」
「インベントリを圧迫させている素材の買取しますよぉ」
「装備の修理請負ます〜。装備したまま可能なので、安全安心です!」
ここでも露店プレイヤーは逞しく商いをしていた。
中にはその場で製造を行っているプレイヤーもいる。
「どこでも生産できるんだな。工房の意味なくね?」
「いや、簡易キットとか、簡易溶鉱炉とか持ってないとダメなんばい。しかもそれ、消耗品やけん、おいそれと使いたくはないっていうね」
「あぁ、なるほど。無駄に金が掛かるのか」
「永久品もあるぞなもし。だが一部のNPCが気に入った相手にだけ譲渡するという、レア物ぞな」
永久……そういや大工のゲンさんから貰ってたな。簡易木工作業台。
確かに護衛クエの時一度使ってるが、消えてなくなったりはしていない。
これ、売れるんだろうか?
「永久品って、取引可能なのか?」
「可能っすよ。機織り機がオークション形式で取引されたっすが、三十万いったっすからね」
「うぇい……マジっすか」
涎でそうです。
ゲンさん、売ってもいいですか?
セーフティーゾーンで休み、HPとMPを全快にしてから定点ポジション探しだ。
入り口から離れれば離れるほど敵のレベルも上がっていくという。
ここ五階に生息するのはレベル30から33まで。セーフティーゾーンまでの道中で遭遇したのはほとんどレベル30だった。
湧きが激しいと30でもなかなかきつめだったのを考えると、奥には行きたくないな。
「じゃあ少し奥の壁際で、採掘しながらゾンビ狩りをするかぁ」
「「おーっ」」
悪逆非道なドワーフどもはある種の勇者であった。
「で、半分が採掘して、残りが全力で戦闘?」
「そう。モンスターからも鉱石はドロップするけど、やっぱ採掘したほうが確実ばい」
「だからこそのツーパーティーぞなもし」
そう言いながらドドン達はツルハシを持ってザクザク壁を掘っていた。
ここの壁は再生能力でもあるように、触らずしばらく置くと元の状態に戻っていく。生きてるみたいで怖い。
彼らが採掘している間、セシリアチームが戦闘を行い、MPが切れそうになったら交替。モンハウ化しそうになったらヘルプをし、採掘の手をやめて助太刀に向うという作戦だ。
俺はそんなの関係なしに戦闘参加要員だ。尤も、ドドンたちからは離れられないけどな。
「ノームさんや。俺と一緒に護衛してくれよ」
ぼこぼこと土が盛り上がりノームが登場する。
〔の!〕
「よっ。お前の大きな兄弟たちだぞ」
そう言ってせっせと壁を掘るドワーフを指差す。
ノーム、ドワーフを見ては自分の腹を見、再びドワーフを見るが、それから首を振って〔違うでやんす!〕と抗議する。
実はノーム、腹は出ていない。幼児体型とでもいうのかな。髭もなかったりする。
言うなればドワーフの子供みたいな?
「じゃあ、親父か」
〔のーむっ!〕
「それも違う? まぁ冗談で言ってるだけなんだから、そう間に受けるなよ」
〔むぅ……のーむっ!〕
呆れたような顔をしていたノームが突然真剣な表情で地面に手を付く。そして俺の背後に出来上がるちゃぶ台。
後ろではちゃぶ台に顔面を強打したゾンビの、痛いのか痛く無いのか分からない声が上がった。
「本当にお前って優秀だよな」
〔の、のののーむ!〕
そ、それほどでもないでやんす。だと?
照れてんな。
「お、マジの精霊か。これで戦力倍増ばいね」
「おう。感謝しろ」
壁を掘る手を休めたドドンが、その場に腰を下ろして寛ぐ。
おい、働けよ。
「採掘も連続でやり続けるとHP減っていくんばい。時々座って休めばリセットされるけん、こうして休憩するだよ」
「ほぉ」
「休憩といっても三十秒程度でいいんですよ。その間に掘った部分も綺麗さっぱり元通りになりますし」
「なるほどね」
「交替してくれぇ〜」
セシリアチームからチェンジ要請が出たので、俺とノームが移動を開始する。
まずは『カッチカチ』を自分に掛けて、それから『焔のマント』で突撃する。
全部の敵のヘイトを取ったら、セシリアチームは退却だ。
「おい、いつまでも座ってないで戦え!」
「うぃーっす」
のんびり寛いでいた連中に渇を入れ、俺は群がるゾンビに『サンダーフレア』をお見舞いする。倒し損ねたゾンビは後ろから飛んでくる矢で、確実に仕留められていった。
十分ほど戦闘を続けて、戦闘技能持ちのドワーフ軍団のMPが枯渇ギリギリまで行くと交替。
ノームを再召喚し、採掘ドワーフを護衛しながら横湧きするゾンビを狩り続けた。
セシリアチームとチェンジ。そしてまたチェンジ。
何度か繰り返していると、急にモンスターの湧きが悪くなった。
こりゃどこかでモンハウが出来たな。一箇所にどっと湧くと、その分他の所が閑散とするんだよな。
ドドンたちが採掘している間、手持ち無沙汰になってきたのでその辺を『発見』しまくってみる事に。
するとあちこちキラッキラ光ってる!
「おい、ドドン。こんなの拾ったぞ」
拾ったのは当然と言うべきか、石だ。鉱石の類だろう。
その名も『高純度の銅鉱石』だ。
銅鉱石と鉄鉱石って、どっちが良いものなんだ?
「うぉ!? どこにあったんだよ」
「あぁ、その辺。でも技能で見つけたから、持ってなかったら見えないぜ」
「よし、マジ。じゃんじゃん拾ってくれ!」
「いや、これで全部」
集めたのは十二個。他に光っている場所は無い。
ドドンの反応からすると、鉄よりよさ気かも?
「銅鉱石はここでも取れるけど、純度の高い物は百個に一個ぐらいしか出ないんだよ」
「高純度を使えば、攻撃力も防御力もワンランク上がるぞなもし」
「マジか。いくつぐらいあったら装備作れるんだ?」
全員がピースサインをしてみせる。
つまり二個あればいいのか!?
「ガントレットで二十個やで」
おぅ、一桁足りてません。しかも拾った数すら足りて無い。
移動できればまた『発見』使えるんだけどなぁ。
そう思っていると、セーフティーゾーンの方から悲鳴が聞こえてきた。