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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
152/268

152:マジ、萌えてる最中に儚い現実を目の当たりにする。

 ドドンとはファクトの町の東門付近で待ち合わせをした。

 人の出入りの多い門付近とはなぁ。まぁドワーフは比較的に少ない種族だし、見つけるのは難しくないだ……いや、意外と多いな。

 門の付近にドワーフが十人ぐらい固まってるぞ。そのドワーフの塊から、


「お、へーんたいっ」


 と声が掛かる。


「誰が変態だ!」

「自覚あるからツッコミ入れるんだって、気づけよ」


 なっ。そうだったのか!

 いやそうじゃなくって、一塊になったドワーフの中にドドンもいた。

 なんだ? ドワーフの集会か?


「で、なんだよお願いって」


 ドドンの前まで言ってそう尋ねる。

 なんかアレだな。

 気分的にはちょっとしたジャイアント的な。

 平均して130センチほどのドワーフの中に、ポツンと177センチの俺だもんな。こっちは見下ろしてるし、向こうは見上げてるし。

 なかなか気分がいい。

 ちょっとぐらいお願いされても、今ならなんでもオッケーだぜ。


「うん。肉壁になってくれないか?」

「だが断る」


 前言撤回。

 か弱い魔法使いを肉壁だと! ふざけるなっ。


「頼むよマジ。俺ら職人ネットワークのドワーフ支部面々なんだけどさ」

「いやまて、なにそのネットワーク」

「ネットワークっていうとかっこよく聞こえるだろ?」


 たんなる職人仲間の、更にドワーフの集いなだけだと笑いながら話すドドン。他のドワーフも笑っている。

 かっこ付けたいお年頃なんだろう。そっとしておいてやろう。


「それで、その支部が俺を肉壁にして、どうするっていうんだ?」

「あぁ、俺たち職人はさ、自分が作った物を皆に喜んで使って貰いたいわけさ」

「それで?」

「けど今は物価が高騰しまくってて、皆泣くなく買っていくみたいな、そんな感じなんだよ」


 そりゃああんだけ高かったらなぁ。手放しで喜べないだろう。だが必要なものだし、仕方が無いと割り切るしかないんだろうけど……。

 しかし、それと肉壁とどう繋がるんだ?


「マジックどん。儂からも説明するぞなもし」

「もし? お、ザグじゃん。まさかお前もドワーフ支部員?」


 横から声を掛けて来たのは、白髪の渋いドワーフ、ザグだった。

 頷いてから俺が呼ばれた理由を端的に説明してくれた。


「要は儂らは鉱山で鉱石類を大量にゲットしたいんぞなもし。ドロップ調整があったとはいえ、手持ちの素材は以前のドロップ氷河期時代の物も多い。故に、行き成り価格を下げれば儲けが少なくなるぞなもし」

「はぁ……」

「だからさ、自力ゲットすれば買取してない分コストダウンも出来るだろ?」

「まぁ……な」

「誰か一人が安価な装備を売り出しても、すぐに転売屋が群がってくるだけぞなもし」


 それは分かる。

 なるほど。一人じゃなく、ネットワークを通じてある程度の人数が値下げすれば、相場が下がってきて周囲も否応無しに下げざるを得なくなるってことか。

 うぅん……


「けど人数多くね? 十人分の肉壁しろってのか?」

「いや、助っ人はもう一人呼んであるから、パーティーを二つに分ける予定だ。マジはヒールも持ってるし、回復要員もいらないだろ?」


 惨い言われようだ。まぁ要らないけど。

 その助っ人とやらも多少は自己回復が出来るらしい。更にドワーフの中にはドドン含め四人ほど神聖魔法持ちが居る。もちろん、全員ゴミヒールだ。


「塵も積もれば何とやらだ。そもそも戦闘技能を持ってる職人は少ないし、攻撃スキルを使わない分、MP余りっぱなしなんだよ」

「お前は弓使いだろ?」

「おう。全員弓使いだぜ」


 全員……弓使い。

 想像してみる。

 ダークエルフである俺の後ろから五人のドワーフが矢をピュンピュン飛ばす姿を。

 そしてその矢が何故か俺の後頭部に直撃するのを。


 うぅ、ぶるぶる。


 絵面的にはシュールだが、生産職の弓使いは実際強い。スキルが無くても十分強い。なんせ弓の攻撃力はDEX依存だし、製造の成功率もDEX依存だ。相性はいいんだよ。

 あれ? ザグはハンマーを武器にしてなかったっけ?


「うむ。儂、弓技能を手に入れたぞなもし。やはり素直に相性の良い武器で戦う方が、少しでも戦力になると思って」

「あ、そうなんだ。で、助っ人ってのは誰なんだ?」

「それは私だ!! とぅっ」


 振り向くと、道端の縁石からジャンプしているハーフエルフ娘が居た。


「ふえぇっ! な、何が起きたのだマジック君!」

「ちょ、光るって噂はあったけど、ぞれマジやばくね?」

「マジックどん。言ってもいいものかどうか悩んだんじゃが、お主、格好といいそれといい、会うたびにド派手になっていくぞなもし」


 アイドル、発動……。

 町を出入りするプレイヤーからNPCまで、注目してんじゃねえぇぇぇ!

 お願いです、見ないで……。






 勇者願望の強い熱血スポ根少女、セシリアを肉壁にするパーティーと、か弱いINT魔法使いの俺を肉壁にする悪逆非道ドワーフパーティーとに分かれる。

 が、移動なんかはずっと一緒だ。


「これから向う鉱山ダンジョンは湧きが良すぎて、あちこちでモンスターハウス化しているんだ」

「はいっ。ドドン先生」

「なんだねセシリア君」

「モンスターハウスとはどんな家ですか?」


 うん。初心者にありがちな質問だよな。

 セシリアもVRMMOは初めてで、専門用語的なのはあまり知らないようだ。


「代わりに俺が答えてやろう。モンスターハウスとは!」

「モンスターが大量におる場所のことぞなもし」

「ザグ先生ぇぇぇぇぇ、それ俺のセリフだしいいぃぃぃぃっ」


 とまぁ、こんな他愛もない会話をしながら先へと進んで行く。

 鉱山ダンジョンは俺にとってまだ未開の土地。ドゴンラ高原エリアにある。

 港町クロイスから北東方面なので、港町から徒歩で――と思ったら、ダンジョンは寧ろ開拓村から真っ直ぐ東に行ったほうが近いらしい。

 全員が開拓村に行った事があるとう事、双方のパーティーにテレポート持ちを配置させるかたちで構成したので一斉に移動。

 俺とセシリアが鉱山ダンジョン方面に行った事が無いので、そこからは徒歩での移動となった。


 村を出て真っ直ぐ東へ進むと、前方に大きな山脈が見えてくる。


「港から北東に進んでいくと、高原エリアの主要都市というか、町なんっすけど、ガッソって所にいけるっす」


 やけに軽そうな印象の喋り方をするドワーフは、俺のパーティーに組み込まれてる悪逆非道ドワーフの一人だ。鍛冶や彫金がメインの職人だという。名前はポール。ドワーフらしくねえ名前だなおい。


「そのガッソから鉱山ダンジョンに行こうと思ったら、山を三つ四つ越えなければならないんです。それが案外時間が掛かり、徒歩での移動では四時間はゆうに超えるかと」


 丁寧な口調で喋るドワーフは、髪も髭も綺麗に整えている、まるで紳士みたいな出で立ちのギグレッド。裁縫と製薬がメインらしい。


「じゃあ、こっちの裏山的な方角からだと?」

「山道に入ってからやと一時間掛からへんで」


 関西弁? そんな喋りをするのは赤毛のモヒカンドワーフだ。名前はロギン。

 他に俺のパーティーにはドドンとザグがいる。


 山までは三十分ってところか。

 兎や狼系の動物モンスター、鴉に鳶といった鳥類モンスターと戦いながら、背後から飛んでくる矢に毎度怯えながら先へと進んで行く。

 しかしまぁ、職人弓軍団の強いのなんの。

 二つのパーティーがまとまって移動しているので、戦闘はもう入り乱れでいいやって事でやっているが、セシリアがヘイトスキル使った直後、四方八方から矢が飛んで行ってモンスター瞬殺。

 俺、出番ないです。


 やがて山道へと入り、どんどん登っていく。山の中腹から先は禿げており、奥の方に見える山脈も岩肌が目立つ。

 山に入るとモンスターの様子も一変した。

 枯れ草色の巨大バッタ。同じように枯れ草色のカマキリにヘビ、トカゲ。

 昆虫と爬虫類が多いなぁ。


 だが俺は見つけてしまった。

 草木の少ない岩場にちょこんと佇む可愛い奴を。


〔むきゅ?〕

「うおおぉぉぉぉ、可愛エェ! イテッ。やめろぷぅ!!」

〔ぶぶぶぶぶ〕


 あたちのほうが可愛い?

 いやいや、このハリネズミたんには敵いませんから!


 両手……ではギリギリ収まらない程度の、案外小さいサイズ。

 モンスターじゃなく、普通に動物とか?

 モンスターならゲットできるだろうし、ココネさんに教えてやったら喜ぶだろうな。フレ登録して貰ってるし、これが終わったらメッセ送ってみよう。

 しかし、萌え可愛エェ。

 ちょっと捕まえてみるか。

 にじりと寄って行くと――


〔むきゅうぅぅっ〕

「あイテテテテテテテテテ」


 油断した隙に、めっちゃ背中の針飛ばされてます!

 これダメージ少ないけど、大量に飛んでくるから回避不可能だっ。


「っく。『カッチカチ!』」


 ダメージ少なくて手数だけってんなら、これで十分。

 よし、反撃じゃーっ!


〔むきゅぅ〕


 小さくて丸い目が俺を見つめる。長い鼻をひくひくさせるその姿は――


「うおおぉぉぉぉ、かわえ――」


 絶叫したところで、ハリネズミの背に無数の矢が突き刺さって……光の粒子へとなられてしまった。

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