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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
148/268

148:マジ、壁どんっデビューする。

「『グランドクロスエッジ!』」

「『サンクチュアリ・セント・オーラ』」


 二人の女がモンスターを蹂躙していく。

 ファリスの一振りで数匹のオークが吹き飛び、アイリスの魔法で数匹が灰と化す。

 しかもこの二人、休む事無くスキルを連打してるし、そのうえオークの攻撃をもろともしていない。

 おかしいな。アイリスってば護衛クエのとき、コボルトとかから20ダメージ食らってたじゃん。奴らよりどう考えても強いはずのオークから、1ダメージしか食らってないのって、どういう事なのか。


「さぁ、二人と――」


 振り返ったファリスの動きが止まる。その間、オークからタコ殴りされているんだが、こちらはゼロダメージのエフェクトが高速で浮かんでいた。

 どんだけ硬いんだよ。


「さぁ、三人とも。今のうちに子供たちを上へっ」

「オークはわたくし達にお任せください」


 あ、動き出した。

 もしかしてこの二人、最初から登場予定だったんじゃ。そういうシナリオだったんだろうな。

 だからこのクエストを正規で受けてるのは俺と霧隠さんの二人だから、三人目がいたことでフリーズしたのかもしれない。

 まぁいい。今はそんな事より――


「よし、逃げろぉ〜」

「【お〜】」

「だ、大丈夫でござるか?」

「平気平気。あの二人、イベント用の助っ人NPCみたいなもんで、めっちゃ強いから」


 寧ろ前回よりパワーアップしてますし。

 二人のNPCに助けられ、通路を走り、階段を駆け登る。

 おかしい。さっきは暗かったはずの階段が、明るい……。これも演出かよ。

 

 一列になって階段を駆け上がり、部屋から通路へと出――れない。


〔ふふふ。愚か者どもめ。そう簡単に逃げられると思ったか?〕

「うげ……ここでも待ち伏せかよ!」


 扉の前にはダークエルフが立っていた。その背後ではゴブゴブと鼻息の荒いホブゴブリンの姿が。

 やたら鼻息が聞こえまくってんですけど、まさか大量ですか?

 くそ、ここに来て二度目の万事休すかよ。

 となると、下の二人が上がってきて――


「はぁはぁ。どうしたのだ、諸君!?」

「ほら来たあぁぁっ」

「ま、まさか他にも待ち伏せがいただなんて……どうしましょう」

「ど、どうしましょう?」


 悲壮感漂う表情で言うアイリスのセリフ。

 あれ?

 二人がここでも活躍して道を開くんじゃないんですか?


〔ふん。自由騎士に聖女か。丁度貴様らを邪魔だと感じていたところ。ついでに死ねっ〕

〔〔ゴブゴブゴブ〕〕


 どっと雪崩れ込んでくるホブゴブリンたち。

 ちょ、狭いんですけど!


 子供たちを守りながら、押し寄せてくるホブゴブリンの群れを戦う。

 幸い、ファリスとアイリスが戦闘に立ってくれているので、俺たちのところには数匹が漏れてくるぐらいだ。

 これなら勝てる?


 一匹……二匹……三匹……。

 ここまでは楽勝で片付けられる。

 霧隠さんが高速でホブゴブリン数体を切り刻み、ココネさんが狭い範囲の聖魔法をぶっぱ。漏れた分は俺が『ライト』で確実に止めを刺していく。

 行ける!


 そう判断したとき、背後の階下から音が聞こえた。


〔ブゴオオォォォ〕

「奴等を生かして返すなっ」


 うそん。

 まだ追い討ちかける気か!?

 もしかしてチンタラやってたのがマズかったのか。時間オーバーでクエスト失敗?


 前にも後ろにも敵を抱え、どうする事もできなくなった今。

 それでも奇跡を信じて戦うしか無い。というか、それしか出来ない。

 くそうっ、こうなったら……


「俺が範囲魔法でヘイト集めるから、その隙に子供たちを外に! アイリス、あんたなら子供たちを村にテレポさせられるだろっ」

「で、出来ますが……それでは貴方が!」

「俺のことはいいっ。なんとしてでも子供たちを助けてくれ」


 でないとクエストが失敗してしまう。

 NPCが俺たちプレイヤーみたいに、死に戻り出来るってんなら別にいいけど。でもそんな設定なら、そもそも必死になって大賢者がピリカを探しに来る訳もないし。

 あ、そういえば大賢者とブリュンヒルデはどこまで迷子になってんだ。ったく、こんな時に役に立たないとは。使えないじーさまとばーさま(見た目若いけど)だな。


「じゃあ、行くぜ!」

「うむ。君という犠牲は決して無駄にはしない」


 ファリスってば、なんかすっげぇサラっと俺を犠牲者扱いしてるな。

 ちょっと悲しい。


「彗星殿、デスペナ覚悟でござるか?」

「ココネも手伝います!」

〔逃がすものかっ! 『ダーク・プリズン!』〕


 悪ダークエルフの指先から、逃げる子供たちに向って迸る黒き閃光。

 その黒い閃光をファリスが剣で弾き飛ばす。


「はっ。しまった!」

「え、拙者!?」


 弾かれた閃光が、霧隠さんに向って飛んできたっ。


「霧隠っ」

「くっ」


 咄嗟に彼の腕を掴み、引き寄せる。そのまま壁に押し当て、立ち位置をくるりと入れ替わる。

 うあぁっ、これ、まさに壁ドンってヤツだな。

 出来れば男相手にじゃなく、クラスで一番人気の女の子相手にやりたかった……。


「うぉっ、痛ぇ」

「す、彗星殿っ」


 背中に衝撃が走り、HPが600ほど持っていかれる。

 高INTの俺だったからこの程度のダメージで済んでるけど、前衛ステの霧隠さんだともっと行っただろう。

 この後時間稼ぎしなきゃならないんだ。霧隠さんには生きてて貰わなきゃならない。


「大丈夫か、霧隠さん?」

「ぁ……」

「お、おい? もしかして範囲攻撃だったのか?」


 くそ。せっかく庇ったのに、まったく意味無かったのかよ!

 慌てて絆創膏を作り出し、彼に貼り付けようと胸元に手を伸ばす――と、


【警告! ハラスメント行為に該当します】


 という赤文字メッセージが視界に浮かぶ。

 はいー?

 ハ、ハラスメント?

 おいおい、なんで絆創膏貼るのがハラスメントなんだよ。いや今までだって普通に出来てただろ?

 そりゃあ女の子相手にはちゃんと貼る位置とか気を使ってたさ。胸だとかお尻だとか、ちゃんと避けてたぞ。

 でも今目の前に居るのは男じゃん。

 いや男だからって好んで胸やら尻やらに貼ったりしないけどさ。


「もうっ。二人で何やってるんですかぁ」

「あ、あぁ。ごめんココネさん」


 何かの間違いだろう。

 再び絆創膏を貼ろうとしたら、やっぱり【警告! ハラスメント行為に該当します。もう一度警告が発せられた場合、強制的にゲームマスタールームへと連行されます】という、恐ろしいメッセージが浮かんだ。

 なんか警告が進化している!


「す、彗星殿……そ、その、拙者はどこも怪我をしてはおらぬでござる。貴殿が守ってくれたおかげで、大丈夫でござるよ」

「お、おお。そうなの――ふぉたぁっ!?」


 俺が壁ドンした相手が、何故か美少女ダークエルフに変化していたでござるにんにん。

 な、何を言っているのか俺にも分からない。分からないが、目の前にいるのは褐色肌黒髪黒目のポニーテールちゃんだってのは分かる。

 そのポニテちゃんがはっとなって、首もとのマフラーをさささっと上にずらす。


 つまりこのポニテちゃんは……


「霧隠さんが女装変態いいいぃぃぃぃっ!?」

「何故そうなるでござるかあぁぁっ」

〔まとめて死ねぇ!〕

「「五月蝿いっ!!」」


 取り込み中だってのに悪ダークエルフがオークどもをけしかけてくる。


〔のの!〕


 ノーム、出来る奴だ。

 ちゃぶ台を作り出し、俺の為にジャンプ台を作成してくれた。


「『シャァァイニングゥ――」


 ちゃぶ台の足に飛び乗り、三角飛びの要領で天井ギリギリまでジャンプ!


「『フォオォォス・フィンガアァァァッ!!』」


 少しでも滞空時間を稼ぐため、天井にぶら下がったシャンデリアを掴んでぶら下がる。

 階下から駆け上がってきたオークも、そして通路から侵入してきたホブゴブリンも、更には悪ダークエルフにも等しくダメージを与えていく。

 そしてシュたっと着地し、目の前にいたダークエルフをぶん殴った。


〔がふっ……く、くそう〕

「お前だけでも道連れにしてやるっ。『雷神の鉄槌・トォォルハンマアァァァ』」


 ダメ押しの範囲攻撃で完全にモンスターのヘイトは俺に集まった。更にそこへココネさんの聖属性弾幕。霧隠さんも、子供たちに突進しようとするオークを瞬殺していった。

 やれるだけの事はやる。

 悔いが残らないように。


 あぁ、神様運営様。

 クエスト、成功させてください。


 ふるぼっこ状態で残りHP二桁。次の一撃で――

 視界が真っ赤に点滅する中、何故か景色が揺れてみえる。地響きも聞こえる。オークが吹っ飛んでいるのも見える。


「はいー?」


 砦の壁が破壊され、土煙の向こう側から闘牛のようなサイのような生き物が現れた。


「よくやったのぉ。たった二人で――」


 ……大賢者キタコレ!? しかもさっきのファリスと同じフリーズ状態。

 それに合わせてなのか、モンスターどももフリーズ中。

 おいおい、微妙な演出過ぎるだろ。


「たった三人で、よう頑張ったのぉ。ここからは儂らに任せるが良い。ピリカアァァァァ!! じいちゃんが、助けに来たぞおおおぉぉぉぉぉぉ」


 最初のちょっとかっこいい大賢者はどこ行った!

 ピリカピリカと叫びながらその辺のオークやホブゴブリンを『ファイア』一発で沈めていく。しかも一発なのに、倒れるのは四、五匹もいるっていう。

 あの、『ファイア』って単体魔法じゃなかったですかね?

 

 更に背後から、ゴゴゴゴゴっという地鳴りが聞こえて登場したのは――


「よくも我が同胞に罪を擦りつけ、無関係な冒険者を落としいれようとしたですのぉぉぉぉ」


 ブリュンヒルデもキタアァァァァっ。

 なんか拳を構えて仁王立ちしてるんですけど、後ろの壁、穴空いてません?

 いやなんか、二人ともオーラが凄いんですけど。


「可愛い孫娘を誘拐しようなぞ、儂の目が黒いうちは断じて許さんぞっ」

「私たちは心を入れ替え、人に優しく親切にをモットーにしているです! 優しくない、親切でない悪いダークエルフは、元同族といえば許さないですの!」


 そう叫んだ二人は、次々とド派手な魔法をぶっぱしはじめた。

 呆気に取られる俺たち三人。


 大賢者が乗ってきたベヒモスが暴れ砦は崩壊。

 ブリュンヒルデも負けじと全身氷のお姉さんを召喚したかと思ったら、オーク、ホブゴブリンが一瞬で凍りつく。

 俺たちは――見えないバリアでもあるのか、落下してくる瓦礫にも当たる事無く、ただただ呆然と立ち尽くしていた。


 数分後、ここは荒野と同化した。

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