143:マジ、村人に囲まれる。
翌朝。六時半に目を覚まして飯食ってログイン!
がっつりVRやってるな。ま、夏休みなんだし、今の内にガッツリ遊んでおかないとな。時間が勿体無い。
『おはようございます、彗星マジック様。昨夜は称号イベントにはご参加になられなかったのですね』
「あぁ。キラキラしたくなかったからな」
『……あら』
俺を迎え入れたシンフォニアが、何故か後ろに回りこんで――
『彗星マジック様』
――と呼ぶ。
「なんだよ。わざわざ後ろに周りこむ意味があるのか?」
答えて振り返ると、彼女のにんまりとした顔が見えた。
……やられた!?
後ろに周りこむ意味があったんだよっ。俺を振り向かせて、キラッキラしてるのを見て笑ってんだ、こいつ。
『キラキラでございますね。ふふふ』
「う、五月蝿いっ。おい、このアイドルの称号、まさか永久版なのか?」
『左様でございますよ。おめでとうございます』
めでたくないいっ!
どうにかならないのか、このエフェクト。
『それでしたら、システム設定でエフェクト効果をオフに出来ますが』
「おぉ、出来るのか! じゃあ早速」
システム画面で各種設定項目を開く。その中にエフェクト効果のON、OFFのチェック項目があった。現在はONである。
これをOFFに――
『しかしそうしますと、魔法のエフェクト効果も見れなくなりますが、よろしいですか?』
「え……まさかこのオフって」
俺から見れないってだけで、他人からは見えている?
そう尋ねると、シンフォニアはまたもやにんまり笑って『そうですよ』と嬉しそうに答える。
……それじゃあ意味無いんだよ!
魔法はド派手じゃなきゃやり甲斐がないだろ。
くそう、このキラッキラどうにかならないのか? こんなに目立ってたんじゃ、モンスターに狙われるだろ。ほら、光物とか好きそうじゃん?
『うふふ。お似合いですよ、彗星マジック様。そのぐらい派手なほうが、目立ってよいのでは?』
「目立つせいでモンスターに狙われやすいとか、そういうの無いんだろうな」
『そこはゲームですから。服装によるヘイト概念などはございません』
「本当か? ならまぁ、ちょっと安心か」
ヘタに振り向いたり笑ったりしなきゃいいんだよな。
よし、頑張ろう!
『彗星マジック様』
「あ? なんだ?」
『うふふ。お呼びしただけです』
……くそうっ!!!
ログインしたのは村の中。丁度夜が明ける時間帯だ。
ゲームの夜明けは高速だ。地平線から登る太陽が、あっという間に昇っていく。
日の出の映像を高速再生で見ているようだ。
朝日を背に受け立つ俺。今ちょっとかっこいいかも?
「見つけたぞっ。先日の襲撃の際に居たダークエルフの仲間だ!」
「おーい、こっちに居たぞっ」
ん? なにやら村が騒がしいな。
鎌だ鍬だのを持った村人がぞろぞろ出て来て……
「何故俺を取り囲む!?」
ぐるっと取り囲む村人たちが怖いんですけど?
「一昨日の収穫祭でお前ェ、オーク共を村に寄こしただろ?」
「オーク共と一緒にいたダークエルフと、仲良さそうにしてただな」
はい? 何のことですか。
もしかして……
「肩ぽんぽんの事か?」
と答えると、村人達は一斉に顔色を変えてざわつきだした。
改めて手にした農具を構え直す村人たち。
あの、えっと、話が見えないんだけど?
「やっぱり奴等の仲間だったのか!?」
「ダークエルフは邪神崇拝者だどいう話は、本当だったべな」
「子供たちを返せっ」
こ、子供? 邪神崇拝? もう何がなんだか分かんねえよ。
「夜中にのこのこやってきたもう一人もどこに逃げただっ。正直に話せっ」
「も、もう一人って誰の事だよ!?」
そう怒鳴ると、全員がシンキングタイムに突入。
い、今の内に逃げるか。
「マジックさん、こっちへっ」
テレポを唱えようとしたがその前に聞き覚えのある声に呼ばれて駆け出した。
近くの茂みに隠れていたトリトンさんだ。
「いったいぜんたい、どうなってんですか?」
「とにかくまずはこちらに」
シンキングタイム中の村人に背を向け、そのまま林の中へと進んで行く。
しばらくしてトリトンさんが足を止め、そして必死な形相を俺を見た。
「マジックさん! 娘を……ピリカを誘拐なんて、していませんよね?」
「はいー?」
「一昨日の収穫祭でオークやホブゴブリンが村を襲撃したのはご存知ですよね?」
「はぁ、そりゃあ。戦闘に参加してましたし」
「どっちの側でですか!?」
え? え? ど、どっちって、どっち?
もしかして俺、オークの仲間だと思われてるとか? はは、まさかぁ。
「まさか、俺があの醜いオークの仲間だと?」
「違うんですね? 違うとハッキリ仰ってください!」
ずずずいっよ顔面ドアップで寄って来るトリトンさん。
いつもは温厚な人なのに、今日はどうしたっていうんだ。それにピリカが誘拐がどうとか……
「ちょ!? ピリカが誘拐されたのか!?」
「マジックさんじゃないんですね!?」
「違う違うっ。そんな事したら大賢者様に殺されるだろ! ってか俺がピリカを誘拐して、なんのメリットがあるんだよっ」
語気を荒げてそう答えると、トリトンさんはほっと胸を撫で下ろして一度深呼吸をした。それから収穫祭での出来事を一つずつ説明していく。
「ピリカに料理を運ぶよう言ったあと、マジックさんが後を追うのを見ました」
「そりゃあ、一人じゃ大変だろうと思って」
「その後、オークが現れたのです」
「オークなら家にも居ましたよ」
「なんですって!?」
ぐわしっと、トリトンさんが胸ぐらを掴みかかってくる。学者だっていうけど、あ、案外パワーあるじゃん……ぐえっ。
「はっ。す、すみません、取り乱してしまって。家にオークが居たというのは?」
料理をガツガツ食ってたこと、そのオークと戦うため外出たが、他にモンスターの姿も無かったのでオークの事をみんなに知らせてくれと、ピリカに頼んだ事を伝える。
話を聞くトリトンさんの顔が、どんどん青ざめていくのが分かる。
「もしかして、ピリカは戻ってきてなかったんですか?」
俺の問いに頷くトリトンさん。
……嘘だろ。じゃあピリカは行方不明!?
「ピリカだけではありません。他にも数人の子供たちが行方不明でして。連れ去ったのはダークエルフだそうです」
「それで俺が疑われたのか」
「はい。村人の中にあなたが襲撃に加わっていたダークエルフと仲良さ気にすれ違う姿を見たという者がいまして」
肩をぽんぽんと叩かれたが、まったく知らないダークエルフだと話す。
もしかして罪を擦り付けるため!?
「そうかもしれません。あなたと一緒に居たもう一人のダークエルフさんにも疑いが掛かっておりますし」
「もう一人……あぁ、ござるの人か」
名前は……忘れた。
「義父が今、北のダークエルフの集落に行っております。何か知っているかもしれないからと」
「分かりました。俺もピリカを探す手伝いをしますよ。まずは情報集めに――」
「義父が今、北のダークエルフの集落に行っております。何か知っているかもしれないからと」
「あ、はい。だから俺は情報を集める為に、近くの町や周辺の村に――」
「義父が今、北のダークエルフの集落に行っております。何か知っているかもしれないからと」
……ダメだこりゃ。
どうやっても俺をダークエルフの集落に行かせたいらしいな。
「海に行きたいなぁ〜」
「義父が今、北のダークエルフの集落に行っております。何か知っているかもしれないからと」
「山はどうかな〜?」
「義父が今、北のダークエルフの集落に行っております。何か知っているかもしれないからと」
「ログアウトしようかなぁ〜」
「……」
え、無反応!?
いや、表情だけ動いてる。
な、なんだよそのすがる様な目は! やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれっ。
「分かった。行く。行くからぁ!」
「そうですか! 行って頂けますかっ」
途端に表情がぱぁっと明るくなる。
このゲームに登場するNPCは、どうしてこうも押しが強いんだ。
まぁピリカが行方不明になったのは、俺の責任でもあるんだし。相手がNPCとはいえ、このまま何もしないで後味の悪い結果とかになったら……。
ゲームを楽しむ為にも、ここはスパっとピリカを助けて大勇者様とか呼ばれようじゃないか!
〔クエスト【開拓村の収穫祭1】を完了しました〕
〔クエスト【開拓村の収穫祭2】を開始します〕
更新する予定じゃなかったんです。
なかったんですけど、Gzゲーム小説コンテスト最終選考候補?とかいうのに残ってまして
嬉しくて更新です><