141:マジ、デバフる。
あちこちでプレイヤー対モンスターの戦闘がはじまっていた。大半がソロプレイヤーみたいで、パーティーを組んでいるっぽい人は見えない。
対してモンスターはオーク一体とゴブリンのちょい大きめの奴が二体、セットになっているのが多い。
当然苦戦をしているのはプレイヤー側だ。
人数は結構いるんだ、協力すれば楽勝とまでいかなくても、十分処理できそうなんだが……。
「くっそ。こっちの火力が足りないっ」
近くでオークパーティーと応戦していたプレイヤーから愚痴が零れる。見ればその人は槍と盾を装備した、純タンカー風だった。
ヘイトスキルや防御スキルにIMPを回しているんだろうな。確かに殲滅力が追いついてない。
ど、どうする。助太刀するか?
でも横殴りだと思われたら嫌だしな……。
《のの!》
「なに? ここで行かなきゃ漢じゃないでやんす?」
《の!》
ノーム……お前って奴は……。
「そうだな。ここで行かなきゃ漢が廃るってもんだよな! うおおおぉぉぉぉっみんな俺の歌を聞いてくれぇぇっ!!」
美声を轟かせて注目を集める。
「おい、こんな時に歌ってる場合か!」
「歌でモンスターを倒せるのかよ!」
「いや、あの人なら魅了という手もあるぞ」
……違った。
「ごめん。俺の話を聞いてくれの間違いです」
頭をかきながらそう言うと、何故か周囲の時が止まったような気がした。
「え、えっと、パーティー組んで戦わないか?」
再び時が止まる。
「ま、その方がいいよな」
「そうだな。組むか」
「俺レベル27〜」
「こちらレベ28です。誰か組みませんか」
「じゃあ一緒に〜」
うん。なんかあっさりパーティーが出来上がっていくよ。なんだ、みんなキッカケさえあればパーティー組むんじゃん。
じゃあ俺は――
オークとでかゴブリンの攻撃を必死に耐えるプレイヤーに駆け寄り、まずはお近づきの印に――
「『ヒール!』そして『カッチカチ!』」
HPはそんなに減ってはいない。が、これで友好関係は築けるだろう。
それから端的に声を掛ける。
「レベル30です。パーティーどうですか?」
相手は理解したようで短く頷くと、
「要請くれ」――と答えた。
よっしゃ。これで肉壁――タンカーゲット。
場合によっては俺がヒーラーにもなれるが、そうなると当然火力不足になる。ここは火力かヒーラーのどちらかも仲間に入れたい。
「レベル30前後で火力かヒーラー、パーティーに入らないかっ」
すると反応はすぐに合った。
「弓、レベル29。ソロだときついんで、入れて欲しいです」
「両手剣、レベルは30。ソロ用にヒールも持ってる。まぁゴミヒールだけど」
「オッケーオッケー」
ゴミだろうとなんだろうと、持っている事自体が有り難い。
二人をパーティーに加え、これで四人パーティーに。
いざオークパーティーにと思った矢先、一陣の風ならぬ影が俺の前に舞い降りる。
「あの、拙者、二刀流短剣使いでござるが、まだ入れるでござるか?」
「ござる? あ、ああ。まだオッケー」
その影はダークエルフだった。しかも俺と違い、髪も真っ黒だ。更に服も黒い。見た目は完全に忍者服で、口元をやっぱり黒いマフラーで隠し、全身黒尽くめだ。
長い髪を後ろで縛ってあるが、なんとなく性別が分かりづらい。
足元には子犬のようなペットモンスターが居て、やたら尻尾を振ってて可愛い。
犬もいいな。
五人パーティーになった途端、オークとでかゴブリンの三体セットがまるで雑魚にでもなったかのように、楽々倒せるようになった。
数でも勝ってるしな。これなら――
「二セット、釣ってもオケ?」
俺が言うよりも早く、タンカーがそう口にする。
全員がOKサインを出し、彼はヘイトスキルでオークのパーティーを二つ呼び寄せた。
でかゴブリンを注視し、奴がホブゴブリンというモンスターだというのを確認。レベルは30と、オークより低い。下っ端か。
「パーティー組んだ途端、楽勝になりましたね。やっぱ盾居ると後衛は安心して戦える」
「いやぁ、そう言って貰えると、盾持ちやってた甲斐があるよ」
「タンカー上手いと、ほんと安心して全力だせるよね」
「あはは。でも高火力マジの全力は、あっさりヘイト取られるけどね」
すみません。自重します。
などと思ってはみたものの、ライト一発撃ったらこっちの仕事は終わりなほど、殲滅速度が半端ない。
うーん、これは当たりパーティーだったな。
安心して全力だせると言った両手剣持ちの人も、ちゃんとタンカーのヘイト取りを確認してから動いてるし、弓の人も確実に倒せるぐらいHP減ってる時だけ全力スキル攻撃だしな。タゲ移りも一切ない。
最後にパーティーに加わったござる忍者の人も、ヒッドアンドアウェイで確実に敵を倒していく。回避重視なんだろうが、オークパーティーが増えすぎた場合は一パーティー分を抱えてくれたりしている。しかも三体同時で相手しても、ほとんど躱してるし。
今回俺はヒーラーに徹してもいいようだな。
ま、足元でノームがパンチ繰り出してるし、ちょこっと攻撃面でも貢献っと。
あっちでもこっちでもパーティーが作られる中、突然戦場にギターの音が。
「戦闘補助のバフを掛けるよ〜。音が聞こえる場所まで来てくれ」
さっきのギター奏者か。演奏でバフるのか?
どんなバフだろうと簡易ステータスを見ると、STRとAGIをそれぞれ+3する『宣戦の旗』というバフが付与されていた。
へぇ、楽器ってこういうのも出来るのか。
「歌が加わると追加バフもあるんだけどね。技能持ってなくてもこっちのスキルの相乗効果があるから」
とギターの人が言う。
すると周囲の視線が俺に集まり、歌えコールが湧き上がった。
お前らさっき、歌ってる場合かって怒鳴ってたじゃねえか。
まぁいい。歌ってやるさ!
曲が変わる。
さっき歌ってたアニソンだ。これなら熱唱できるぜ!
気持ちよく歌いだして数秒後――
「おい! デバフになってんぞっ」
「STRとAGIがマイナス3ってどういうことだよっ」
え? デバフ?
確かに俺にもデバフが付いてる……。
ふぁっ!?
ま、まさか……俺がバフったらデバフに変換される呪いのせいか!?
不運技能。プレイヤーに対して行うバフスキルが、全てデバフに変わる。
あわあわと口を閉じ歌うのをやめた瞬間、デバフはバフに戻った。
途端に周辺プレイヤーの視線が集まる。
「「おまえか」」
「すみません。技能のデメリットのせいで、バフスキルがデバフに変換されるの忘れてました」
「あはは。誘ったのは俺だから、悪いね。演奏だけにしておくよ」
とほほ。まさか他人のスキルの相乗効果にまで呪いが反映されるとは思ってもみなかった。
はぁ……。
気を取り直して戦闘に集中。
そう思った矢先だった。
まだ明るいはずの空が一瞬暗くなり、次の瞬間には雲の切れ間から隕石が落下してきたあぁぁっ!?
轟音を轟かせながら広場の方へと落下した隕石。
ま、まさか……。
「確かこの村には、大賢者というNPCが居たでござるな」
「あ、ああ。見た見た。ベヒモス召喚して畑を耕してたじいさんだろ。すげーよな」
「精霊王を使って畑を耕すって、いろいろ規格外ですよね」
皆知ってるんだな、大賢者の事。
そしてたぶん、あの隕石が大賢者の仕業だろうってのは予想通りなんだろうな。
爆発音を聞き、オークたちの動きがピタリと止まった。
そして鳴り響く口笛の音。
《プゴプゴッ》
《プギャア》
なんだなんだ。一斉にオークとホブゴブリンどもがきょろきょろしはじめたぞ。
そして何かを見つけ――って、なんでこっちに来るんだっ!?
あっちのオークもこっちのオークもそっちのオークも……
「なんでモンスターが一斉にこっち来るんだよ!?」
「あの数はむーりーっ」
それでも盾を構え、オーク達の突進に備えようと踏ん張るタンカー氏。
向って来るのは二十体近く。
うん、無理ですね。
もうちょっとでレベル上がるところだったんだけどなぁ。
せめて一発食らわせて散るか……そう思って突進してくるオークの群れを見据えると、その中に一人、醜くない者が居た。
「ダークエルフ?」
つい魔法の詠唱も忘れて凝視してしまった。その間にオーク軍団は――
「うおえぇぇぃっ」
「ひいぃぃっ」
「デスペナアァァァ」
「先なむぅ」
「先なむありぃ」
共に戦った仲間同士で死を分かちあ――あ?
どどどどっと駆け抜けるオーク達。
あれ? 襲って、こない?
それどころか、さっき見たダークエルフがすれ違い様に俺の肩をぽんぽんしていった。
どこの何方でしたっけ?
そういう間もなく、オーク軍団はダークエルフと共に森へと消えた。
な、なんだったんだ、今のは。
「彗星殿、知ってるダークエルフでござったか?」
「え? い、いや。ダークエルフの集落は何度も通ってるけど、見た事ない顔だと思う」
思うだけで自信は無い。なんせ、ブリュンヒルデ以外とはあんまり絡んでないから!
それにダークエルフって皆がみんな美男美女で、しかも男も中性的だから覚えらんないんだよ!
「そうでござるか。拙者も知らぬ奴でござったが、何故か微笑まれたでござるよ」
「ござるさんも? 俺は肩をぽんぽんされたよ」
「見てたでござる。その時に奴と目があったでござるよ」
同じダークエルフだし、仲間とでも思われたのだろうか。
ダークエルフはまだいいとして、オークから仲間だと思われたとかなら嫌だなぁ。
まぁ、デスペナ貰わなかっただけ、結果オーライってことにしておこう。
突然始まった襲撃イベントは終わった。いったいあれはなんだったんだ?
村の建物のうち、二、三軒は全壊。数軒は一部壊されたりして、修理が必要な状況だ。
まぁゲームだし、すぐ直るだろう。
被害は建物だけでなく、村人にも出たようだ。ただ怪我人だけで、死人が出なかったのはほっと一安心。
怪我をしたというNPCに絆創膏を使うと、プレイヤー同様にちゃんと治癒出来た。
「他に怪我人は――」
居なさそうだ。他のプレイヤーも治癒の手伝いをしているし、もう打ち止めかな。
パーティーも解散し、する事もなくなった。
さて、俺はこの村に何の用事があって来たんだっけか。
属性魔法の習得も目的の一つだった気がするが、他にも用事があったような?
ま、いいか。そのうち思い出すだろう。
なんかいろいろ一気に疲れたな。
今日は早々に寝てしまおう。
ログアウトしようとシステム画面を開く。
現れた可視化ウィンドウの向こう側で、何故か俺をじっと見つめる村人の姿があった。
おぉ、そうか! 村を救ってくれた俺に感謝しているんだな。怪我も治してやったし。
にっこり笑顔で手を振り、そのまま、現れた旅の扉を潜ってゲームを後にした。
夜、どこかのタイミングで142話を更新いたします。
次回は掲示板回であり、短いのですが、143話と同時更新はしたくないので本日ということで。
ブクマ、評価、ご感想ありがとうございます。
反応がある事が書いてて一番嬉しい事です。これからもよろしくお願いいたします。