140:マジ、罠に嵌められていた。
「勇者様、こっち向いてぇ」
「なんだ、ピリカ?」
呼ばれて振り向くと、そこかしこから黄色い歓声があがる。あと噴出すような笑いも。
「光った」
「おもしれー」
「ここの開発は何考えてんだろうな。もっとやれ」
遊ばれている。俺、思いっきり遊ばれている。
歌うんじゃなかった……そう思いながらも、人前で熱唱する快感はなかなかによかった。
「ピリカ、家から料理を運んできておくれ」
「はぁい」
大賢者に言われてピリカが駆けていく。一人で大丈夫か?
手伝ってやるか。
ピリカの後を追っていくと――
「きゃあぁぁぁ」
布を切り裂くようなピリカの悲鳴が!?
「どうしたピリカ!」
家に駆け込むと、そこには豚がいた。
豚がテーブルの上に置いてあった料理を食べていたのだ。
いや、豚じゃない。服というか、鎧を着てるしな。
「勇者様ぁ」
「ピリカ、こっちにくるんだ」
だだだっと駆け寄って来たピリカを後ろにやり、一心不乱に料理を食べる豚を見る。
これ、オークか?
〔ブギ?〕
おっと、気付いたか。
体長は俺とさほど変わらず、横に広い。鎧を留めるベルトから肉がはみでている。
醜い……。
〔プギィ!〕
あれ、考えていた事を見透かされたか?
オークがテーブルに立て掛けていたらしい棍棒を手に取って襲って来た。
まずい……
「ノーム!」
……来ねぇ。
〔プギァ〕
「今笑ったか? 笑ったのかぁ? うおりゃあ!!毬栗『サンダー』」
バリバリとオークが感電する。その間に――
「勇者様、土の精霊さんはお外じゃなきゃ来てくれないよ」
「はっ! そうだった。よしピリカ、外に出るぞ」
ピリカの手を引いて外に出る。見える範囲に他のオークは居ないな。
「ノーム!」
今度はすぐに反応があった。土が盛り上がり、ノームが出てくる。
直後に土を捲ってちゃぶ台返し。
ごすっという音がして、オークの悲鳴が聞こえた。
ノーム、優秀だな。
「ピリカ、他の人達にオークが出たと知らせてくれ」
「うん!」
たたたたっと駆けていくピリカを見送り、目の前のオークと対峙する。
オークって種族や属性はなんだろうか? 豚だし、動物? いや、ゴブリンとかと同じ系統だろうしなぁ。亜人とか妖魔?
うーん、分かん。適当に魔法ぶっぱしてみるか。
「んじゃまずは『ファイア』ソード!」
両手剣を構えるイメージで手を組むと、いつもより少し大きめの剣が現れた。
おぉ、イメージって大事ですね。
そのまま薙ぎ払うようにして攻撃!
ダメージ約800。
「次っ――っとと、あぶねっ」
棍棒を振りかざしたオークの攻撃を、間一髪回避。AGI上げといてよかったぜ。
が、決して高いステータスではない。
オークのレベルは――32か。格上だな。なら……
「『カッチカチ』からのぉ、毬栗『サンダー!』」
ボコっと殴るが、ダメージは650ぐらい。下がったな。
やっぱり豚なだけに、火に弱いってか?
足元ではノームが駄々っ子パンチを繰り出しているが、こちらは160ダメージ。
ん? 攻撃力、上がってる? それとも相性なのか。
確認する為に俺もロックで殴る。
ダメージは400……更に下がった。
じゃあ、ノームの攻撃力が上がっているってことか。
〔ブギィィィ!〕
解析している間に怒り心頭なオークさまが、棍棒をぐるんぐるん振り回しはじめた。
回転するたびカッチカチバリアに当たって弾かれる。
うおぉぉ、いつ割れるかと思ったら怖いんですけど。
〔のーむ!〕
〔ブギャッ〕
再びちゃぶ台が現れ、オークは顔面を強打。これ以上醜くなることはないだろう。
しかしノームってば、攻守共になかなか優秀だなぁ。この分だと他の精霊も期待できそうだ。
「よぉっし。俺もやるぜ! 『シャイニングゥ、フォース・フィンガアァァァァッ』」
ちゃぶ台の足を蹴って上空に舞い上がり、聖なる光を放ってオークにダメージを与える。
すちゃっと着地して、ダメ押しのフィニッシュブロウ!
〔プギャアァァァ〕
最後のフィニッシュブロウだけでもダメージ1200……あれ? こいつって、もしかして聖属性に弱い?
ってことは妖魔とか、そういう類の種族なのかもな。んで属性が土とか。それなら火のダメージが高く、土がやたら低いのも納得できる。
ま、とりあえず。一匹だけとは限らないんだし、他にモンスターがいないか探すか。
しかし、とんだ収穫祭になったな。
これじゃあまるで――
「きゃあぁぁぁぁ、オークよぉぉぉ」
「こっちにも出たぞっ」
「ホブゴブリンまで居るぞっ」
「た、助けてくれぇっ」
お、おいおい。一気に湧いたのか?
これじゃあまるで、襲撃イベント――
「ってまさか、その為のクエストだったのか!?」
俺、NPCにハメられた!?
通りの向こうから聞こえる悲鳴の下へと駆けつけると、そこには徒党を組んだオークとちょっとでかいゴブリンの姿があった。
既に戦っているプレイヤーの姿も見える。
「ノーム、行くぞっ」
〔の!〕
〔ぷぅ!〕
あたちもいるのよ、と言われてもなぁ。お前、何も出来ないじゃん。
「お前、いつになったら進化するんだよ」
〔ぷ? ぷぷぷぅぷ〕
「何? 経験値が足りない? くそう!」
やっぱり役立たずじゃないか!
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次回更新は木曜日の予定です。たぶん2話更新します。