139:マジ、歌う→アンコール→歌う→繰り返して覚醒する。
一度ログアウトし、今日は早めに晩飯を食った。今日はしょうが焼きだった。
「収穫祭って、何するんだろうな」
『クエスト、お受けしたんですか?』
「いや、受けさせられた」
『あぁ……ご愁傷様でございます』
どういう意味だよ。
お腹を休める為にロビーで時間いっぱいまで過ごし、ピリカに聞いた収穫祭開始時刻だというゲーム内四時――現実だと夜八時直前にログインした。
ログイン場所は畑の真っ只中である。
おかしい……ログアウトするときには芽すら出ていなかったはずなのに。今は辺り一面、南瓜だらけだ。
しかもでかい。
踏まないよう足元を見て必死に村まで辿り着くと、そこには既にできあがった村人で溢れかえっていた。
そう。
ここは酔っ払いの巣窟!
「おぉ、お客さんだべぇ、ヒィック」
「ささささ、飲んでくだせぇ」
あっちからこっちから差し出されるコップには、紫掛かった液体がたっぷりと……。これワインかよ!?
「い、いや……俺は未成年だから」
「あぁん? あんちゃん、ダークエルフだろう。なぁにが未成年だ、おおぉう?」
アカン。酔ってる。しかも絡み上戸だ。
未成年に酒飲ませようなんて、NPCとしてそれはどうなんだ?
「あぁぁん、冒険者さまあぁん。私の勧めるものが、飲めないなんていいませんわよねぇ。ねぇ? うふふふふふ、くふふふふふ」
「ちょ、待って。だから未成年――」
お色気担当なのか?
やたらぐいぐい迫ってくる女の人に、とうとうコップを押しつけられてしまう。
そのまま口に誘導され、無理矢理飲まされそうに……あぁ、もういいよ。飲んでやるよ!
ぐいっと一気に飲み干す。
甘い香りと甘い味。シュワーっと喉を通る炭酸……え?
炭酸?
「なんだこれ、炭酸ジュースじゃん」
「やっぱ酒はVR規約に引っかかるからダメなのか」
と、別の方角から俺の言葉を代弁してくれるプレイヤーの声が。
どうやら他のプレイヤーが飲んでいるのも炭酸ジュースみたいだな。
意を決した俺の覚悟を返せ。
そこへとてとてと駆けて来るピリカの姿が目に入る。
「勇者様ぁ~」
「よ、ピリカ。来たぞ」
「うんっ。えへへ」
いつもは赤いワンピースなんだが、今日は不思議の国のなんちゃらの緑バージョンみたいな服を着ている。
スカートの裾を持って、くるっと一回転をして見せるピリカ。
「今日は可愛い(服だ)な」
「本当!? わぁい」
「本当、本当」
「えへへ、えへへ」
よっぽど嬉しいんだろうな、可愛い服を着せて貰えて。
ピリカの頭を撫でてやると、何故か俺の頭に激痛が。
「孫は嫁にやらんぞ!」
《ぶぶぶぶ》
あたちがいるのにぃと、大賢者もぷぅも何言ってるんだ。もしかして二人とも酔ってるのか?
そんな時、システム音が鳴ってチャットウィンドウが開いた。
『GMアキヨ:もしもし、今よろしいでしょうか?』
ふわっ!?
ゲ、ゲームマスター!?
お、俺何かした? も、もしかしてジュースか? 実はやっぱりアルコールでしたとかで、未成年飲酒でYOU BANとか!?
『GMアキヨ:お忙しいですか?』
どどど、どうしよう。とりあず返事しなきゃだよな。
『彗星マジック:いえ、大丈夫です』
『GMアキヨ:よかった。まもなく称号争奪戦イベントが開催されるのですが、今回もご参加になられますか?』
称号……あぁ、キラキラか。
なんだ、イベントか。BANとは関係ないんだな、安心した。
『GMアキヨ:彗星マジック様がお越しくださると、盛り上がるのですが』
『彗星マジック:いえ、もうキラキラしたくないので辞退します』
『GMアキヨ:そんなぁ~』
『彗星マジック:すみません。今クエスト発生中なんで』
酔っ払いの巣窟で絡まれるイベントだけどな。
『GMアキヨ:クエストですか?』
『彗星マジック:はい。収穫祭なんですけどね』
しかしこのクエスト、収穫祭が終わったらクエスト完了になるんだろうか。そして報酬はちゃんとあるんだろうか。
他のプレイヤーなんかは冒険者ギルドでクエストを受けてきてるっぽいけど、クエスト内容は畑仕事の手伝いだと聞いた。報酬はENで支払われると。
あ、俺タダ働きやん。このクエストの後に貰えるんだろうか。収穫祭なだけに、野菜が報酬……なんてな。
しかしゲームマスターのチャットが突然切れたな。サーバーの調子が悪いのか、それともイベントに参加しないんならもうようはねえぞってか。
『GMアキヨ:収穫祭クエストですか。えっと、ご健闘をお祈りします。それではお忙しいところ、失礼いたしました』
ご健闘?
ま、まさか、酔っ払いどもが更にエスカレートするのか!?
うぅ、嫌だなぁ。
健闘を祈られたところでゲームマスターからのチャットは、今度こそ終了した。
視線を周囲に向けると、酔っ払いの輪が大きくなっていた。
げんなりだ。
はぁっと溜息を吐いたところで、ぼろろんっと楽器の音が耳に入る。
見ると、男が噴水の脇に腰を下ろしてギターを弾いていた。
あの噴水、いつの間に出来てたんだ。
「ねぇねぇ勇者様。ピリカたちもあっちに行こうよぉ」
ピリカに手を引かれ噴水のほうへとやってきた。こっちに居るのはプレイヤーが多いみたいだな。
ギターを弾いているのもプレイヤーっぽい? 服装が『装備』だから、たぶんそうなんだろう。
しかしこの曲……俺知ってるぞっ! ちょっと古いアニソンだろ、これ。
いやぁ、懐かしいなぁ。五、六年ぐらい前だっけか。俺が小学生だったもんなぁ。
大好きだったアニメの主題歌を聞き、つい口ずさんでしまった。
ま、まぁこれだけ人がいっぱいいて騒いでるんだ。聞かれやしないって。うん。
目を閉じれば懐かしいアニメの名シーンが浮かび上がる。
熱い男の友情。そして裏切り。最後には親友が命をかけて主人公を守り、死ぬ。
その親友とは一人の女の子を巡って争ったりもして――まぁ今思えば王道中の王道パターンだな。
でも好きだった。大好きだったんだ!
そんな想いを胸に熱唱。
曲が終わり、閉じていた目を開く。
「うぉ、放電の人、歌上手いじゃん!」
「さすが王子様ぁ」
「はぁ……顔良し声良し、そそられる」
拍手喝采!?
え、何? もしかして聞かれてた?
「勇者様、お歌すっごく上手!」
「そ、そうか?」
「うんっ。もう一度歌ってぇ」
「え、も、もう一度……」
恥ずかしい。
いや、褒められた事は嬉しいけど、でもなぁ……。
頭をポリポリ掻いてどうしたものかと考えていると――
「「アンコール」」
「「アンコール」」
「アンコールわっと」
ア、アンコールを求められてしまった。
一人カラオケ行って採点器使ってみたら、確かに90点台後半をよく叩きだしてはいたけど。でも他の人と行った事無かったし、こんなに注目されるとは思ってもみなかった。
「第二期のオープニングは?」
と、いつの間にか横に来ていたギターの弾き手に問われ、もちろん大好きだと答える。
え、弾いちゃう? 弾いちゃうんですね。
あ、はい。じゃあ、歌わせて頂きます。
伴奏が始まり、足でリズムを取って――熱唱!!
更に弾き手の人と話し合って、別のアニソンも熱唱!
いつのまにか村人NPCも集まってきて、大きな輪が出来上がり、その中心で俺は歌った。
歌いに歌ったが、ゲームだからなのか声が枯れることもない。
途中までは棒立ちで歌ってたが、気分のノッてきた俺は、いつしかオリジナルダンスを披露するように。
いやもう、適当だけどな。
でもなんか、気持ちいいよな。
今の俺、きっとキラキラしてるんだぜ。こう、歯を見せればキラってね。そして少女漫画のように、キラキラ背景が――そうそう、こんな風に。
こんな……え?
「おぉ、放電さんの歯が光ってる」
「王子様再び!」
「ふんどし王子にはやっぱりキラキラエフェクトがお似合いですぅ~」
「キャーッ、こっち向いてぇ」
「イケメンっ、是非ふんどしで」
……称号争奪戦には参加してないんだぞ?
もうナンバーワンホストの称号は無いはずだろ?
慌てる俺の視界に、システムメッセージが浮かんだ。
【称号『アイドル』を獲得ました】
なんかきたーっ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
『アイドル』
対象が男性であった場合。
笑顔を作った際、白い歯がキラリと光る。
また同時にキラキラエフェクトが浮かび上がる。
振り向き様にも同様の効果が現れる。
対象が女性であった場合。
笑顔を作った際、可愛い花柄エフェクトが浮かび上がる。
上目使いをした際、瞳がうるうるする。
ウィンクをするとハートが飛ぶ。
美少女美女美少年美男子度倍増間違いなし!
◆◇◆◇◆◇◆◇
期間限定じゃないっぽいのきたーっ!
いったい俺はどこに向っているんだろうか。