138:マジ、新たな芸を身につける。
俺はいった何をしにこの村へ来たんだっけか?
慣れない鍬を持たされ、村人のおっちゃんたちに使い方を習いながら必死に畑を耕した。
種や苗を植えるために土を盛って作ったものを「うね」と呼ぶことも初めて知った。ゲームをプレイしながら農業の勉強しちまったよ。
そして『農耕』という技能を習得したよ。
俺の目的はなんだっけか?
「よう働いたの。まぁ儂のベヒモスなら、こんなうねぐらい五分もあれば終わるんじゃが」
「だ、だったらベヒモスに……」
「あと一時間後じゃ」
一時間……ノームの再召喚が四回だったし、約一時間半のCTなのか。長いな。
「どれ、約束通り技能を教えてやるかの」
「え……」
「なんじゃ? 気が変わったのか?」
技能を教えて、くれ、る、だと?
そ、そうか! 俺の目的は新しい魔法技能を教えて貰う事だったんだ!
……あれ? そうだったっけ?
まぁいいや。教えてくれるってんなら、いくらでも教えてもらおうじゃないか。
「教えてください、大先生!」
「うむ。では教えてしんぜよう! 水の属性魔法をっ」
「重力じゃないんかぁーい!」
「じゃからその重力魔法を教える為に、基本属性全部を習得して貰わねばならんのじゃ」
「へ?」
重力魔法……本当に高難度の技能らしい?
このゲーム――NPC的には世界――には『火』『水』『風』『雷』『土』という基本五大属性というのがある。神聖魔法は神の奇跡ってことで、属性魔法には分類されないらしい。聖属性なのにな。
実は属性魔法は他にも二つある――というのを大賢者に教えて貰った。
「一つは『光の属性』じゃ。エルフ族に伝わる技能での、教えを乞うにはエルフの集落に行かねばならぬ」
「ダークじゃなくって、普通のエルフ?」
こくりと頷く。そして俺では絶対に教えてもらえないという事も。
まぁ、俺ダークだし? 無条件で嫌われそうだよな。ダークエルフの起源設定からして。
「もう一つは光と相対する『闇の属性』じゃ。こちらは――」
「ダークエルフからってことですか」
「うむ。飲み込みが早いようじゃの。まぁこっちはいずれお前自身が行って、教えを乞うがよい。さて重力じゃがの。基本五大属性を習得したうえで、光か闇、どちらかも習得せねばならぬ」
光と闇、どっちも――ではないあたり、種族による救済処置なんだろう。ありがたや。
五大属性、プラスαの技能習得、更にそれぞれの技能レベルが30を超えていないとダメらしい。
現時点でもレベル30を超えてる技能は無い。雷が28なので、もうすぐってところだな。水と風はまだ習得すらしてないし、闇も同様だ。
こりゃあ道のりは長そうだ。
「という訳じゃからして、水と風を教えてやるから、闇はダークエルフの集落に行くがよい。そして属性魔法の技能が全て30以上になったら、また来るがいい」
そう言って大賢者は杖で俺の額を突く。
これで基本五大属性習得だぜぃ!
「じゃあ早速――」
「えぇ〜。勇者様もう行っちゃうのぉ?」
ぐいっと孔雀の尾羽を引っ張るピリカ。
そ、それ引っ張られるとズボンが……お兄ちゃんのパンツ見えちゃうから、やめようなピリカ。
「明日は収穫祭があるんだよ! 一緒に行こうよ」
「収穫祭? いやでも、畑はついさっき……ふぁっ!?」
にっこにこ顔のピリカの後ろでは、耕したばかりのうねから何かの芽が出ていた。大量に。
それ以前に耕されていたうねでは既に野菜が育ち、早くも村人達が収穫に取り掛かっている。でもさっきそっちの畑は、それこそ芽が出たぐらいだったんじゃ。
い、いや。これはゲームなんだし、こんなもんなのか。うん。
「ねっ。ピリカの勇者様。収穫祭にはたくさんのお客さんも来るんだよ」
「収穫のお手伝いを冒険者ギルドにも依頼しておりますから、大勢の冒険者さんにもそのままお祭への参加をお誘いしているのですよ」
「あれ、トリトンさん」
本日初めてとなるトリトンさんは、学者とは思えないもんぺ姿に野菜を入れる籠を背負って立っていた。
この人も畑仕事を手伝っていたのか。
「ねぇ、勇者様ぁ〜」
「マジックさん、ご一緒しませんか?」
「お主、儂の可愛い孫の誘いを断るのか? 嫁にはやらんがの」
「冒険者さんもどうですか?」
「冒険者さんもさぁ」
な、なんだ……何故にじり寄って来る……こ、これは……
「わ、分かりました。ご、ご一緒させて頂きます」
恐怖に敗北しそう答えると――
《クエスト【開拓村の収穫祭1】を受諾しました》
というシステムメッセージが浮かぶ。
お、おい……これクエストなのかよ!?
収穫祭は明日の朝からだという。といっても、ゲーム内の朝な訳で。
現在のゲーム内時刻は八時過ぎ。十二時間で一日設定なので、この時間はもう夕飯時だ。NPCたちは帰宅し、俺は暇なので新しい属性技能を使って遊んでいる。いや、働いている。
「『ウォーター』」
水属性の基本スキル『ウォーター』。水弾で攻撃するスキルだ。
ただ今は攻撃するわけじゃない。この水を形状変化で霧吹きみたいにして畑にまこうとしているのだが……上手くいかず俺がビショビショになっているだけだ。
うーん、掌の上で水球を作り、それを霧状に……もっと上手くイメージできないものかなぁ。
「そこの人、さっきからなに遊んでるんだ? 水をまくならそこのジョウロを使えばいいじゃん」
俺の行動を見ていたほかのプレイヤーがやってきて、ジョウロの水をあっさりまいていく。
他の畑では野菜を収穫している冒険者も。
彼らは冒険者ギルドで受けたクエスト目的でやってきた連中だ。そしてお祭にも参加するんだろう。
こちとらお祭を名目に畑仕事させられてるっていうね。
だから遊んでなんかいません!
「水芸の練習? 飲み会でやる一発芸みたいな」
「飲み会? いや、俺未成年なんで……」
水芸ってなんだよ。
アレか。扇子から水をピューっとだしたり、風呂場でやるような、組んだ手から出すアレみたい――風呂場!?
ばっと両手を組んで「『ウォーター』」と唱える。
すると、組んだ親指の間から水が勢いよく噴射される。
風呂場でやるそれより、一回りも二回りも高く水が飛び出していく。
「「おおおぉぉ」」
そこかしこから歓声を拍手が飛んできた。
ふ……まだまだこれからだぜ!
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ」
噴射させたままうねを駆け抜けていくと、勢いよく飛び出す水がいい具合に畑へと撒かれていった。
水が出なくなればCTを待ち、詠唱できるようになればまた走り出す。
繰り返し続ける事で、水属性魔法の技能が上がっていった。更に――
【『脚力』技能を習得しました】
なんですか、これ?
技能ページにはこう書かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『脚力』
足場の悪い場所でも通常と変わらずに行動できるようになる。
レベル1毎に移動速度+1%。
レベル5毎にAGI+1。
跳躍力+10%。
足を使った攻撃に対し、追加ダメージ+1% (*レベルが上がるたびに上昇)
◆◇◆◇◆◇◆◇
陸上選手になれってことか!?
最初のサブタイトルでは「マジ、新たな魔法技能を手に入れる」でした。
でもインパクト重視にして現在のものに。
こっちのほうがマジック君らしいよね!?