表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
137/268

137:マジ、本音と建前を使い分けて畑を耕す。

 サイのようにがっしりとした体つきだが、頭の部分は闘牛っぽくも見える。さらにサイにも牛にもない鬣があったり……これがベヒモスなのか。

 三メートルぐらいなんだが、思ったより小さいんだな。もっとこう……怪獣みたいなサイズかと思ってたけど。

 そんなベヒモスの胴にはベルトが巻かれ、荷馬車のようなものを引かされている。

 歴史だったかなんだったかの教科書で見た、牛に鍬みたいなのを引かせて畑を耕す、まさにそれだ。


「おじぃちゃぁ〜ん」


 大きな声でピリカが大賢者を呼ぶ。すると、ベヒモスの向こう側から大賢者が小走りにやってきた。その顔は緩みまくっている。


「おぉ、儂の可愛いピリカ。寂しくなったのか?」

「ううん。勇者様が来たのぉ〜」


 孫であるピリカを緩みっぱなしの顔のまま抱きかかえたが、勇者という単語を耳にした途端、その表情が真顔になる。


「おぉおぉ、ようきたな」

「大賢者様。言ってることと顔が一致していませんけど。しかも棒読みだし」

「うむ。別に儂は会いたいとは思っておらんからな」


 だったら最初からぶっちゃければいいじゃん!


「おじいちゃん、あのねあのね。勇者様もね、精霊さんとお友達になったんだってぇ」


 両手をパタパタ振り回し、ピリカが俺をヨイショしてくれる。

 この子は本当にいい子だ。

 大賢者だろうと、愛しい孫の言葉にはしっかり耳を傾けてくれる。

 精霊という言葉を聞いて若干驚いたような顔の大賢者。俺の足元を見てもう一度驚く。


「お主、以前は精霊使いの技能は……」

「持っていませんでした。ブリュン――ダークエルフの始祖様から本をお借りしまして。それで」


 十回読破したから習得できました!


「始祖とな。ブリュンヒルデ様のことか」

「あれ、知ってたんですか」

「まぁダークエルフの始祖じゃからのぉ、名前ぐらいは知っておるわい。儂を誰だと思っとるんじゃ」


 孫にデレデレじいさん。←本音


「大賢者様です。さすがですね」


 ↑建前。使い分けって大事だよね!

 ご満悦な大賢者の後ろでは、せっせと畑を耕しているベヒモスが。

 なんというか、物凄い光景だよな。


「ん? ベヒモスが気になるのかの?」

「えぇ、そりゃあまぁ」


 こんなでかくていかついナリをしているのに、せっせと畑を耕しているんだぜ。ちょっと笑えるだろ。


「ふん。お主もいっぱしの精霊使いということか」

「はい?」

「いや、言わずとも儂には分かる。お主も儂のようにベヒモスをも、と思っておるのじゃろう」


 大賢者のようにベヒモス使って畑を耕したいと、俺は思っているだと?

 いやいやいや、そんな事思ってないですから。


「教えてやりたいのは山々じゃが、お主はまだまだ精霊使いとしては未熟じゃ。ヘタに教えて術を失敗でもすれば、逆にベヒモスから襲われかねん。そうなれば、決して勝てはせんじゃろう」

「そ、そりゃあ……」


 黙々と畑を耕すベヒモスが、こちらの会話が聞こえたのか、立ち止まって俺のほうを睨む。

 何故そこで舌舐めずりするんだよ。俺は食い物じゃねえぞっ!


「よって、教えてやることは出来ぬ」

「ぐ……」


 教えてやらない。そんな事言われたら教えてほしくなるのが人間ってもんだろ。

 いや、今はダークエルフだけど。

 

「じゃがどうしてもというなら……いや、やっぱりダメじゃ」

「どっちだよ……」


 本当は教えたいのか?

 だったら――


「大賢者先生。ベヒモスのような超難易度の召喚は大賢者先生ぐらいしか出来ませんよ。俺なんて……ふ……」


 ここで哀愁漂う背中をそっと見せる。


「い、いや、そこまで落ち込まんでも」

「勇者様かわいそう。おじいちゃん、ピリカの勇者様虐めちゃダメでしょ」


 よしっ。そこだ。もっとやれピリカ!


「おじいちゃん!」

「うぅぅ、ピリカに嫌われてはいかん……しかしのぉ、こやつのためでもあるのじゃよ、ピリカ」

「大賢者先生。ベヒモスはきっぱり諦めます。ですから、是非他の属性技能を教えてください。例えば重力とか無重力とか」

「おじいちゃん、おっきな精霊さんじゃなくてもいいんだってっ。よかったね、おじいちゃん」


 にっこり微笑むピリカを見て顔を緩めた大賢者は、そのままうんうんと頷いて技能講習を確約してくれた。

 ただし条件付で。


《ブモオォォォォォ》


 突然俺の背後に鼻息の荒いベヒモスが立つ。

 な、鳴き声は牛なんすね。


「おぉおぉ、お疲れ様じゃったのぉ。ゆっくり休むといい」

《モオォォォォォォ》


 一声鳴くと、ベヒモスの体はすぅっと消えていった。

 消えたベヒモスの代わりに現れたのは、鍬を持った村人達だ。彼らの背後に見える畑では、小さな芽が育っているのが見えた。


「パルカスさん、いつもすみませんねぇ」

「あんたが畑仕事を手伝ってくれるから、大助かりだよ」


 ベヒモスを使って畑を耕す事に違和感を持たないのかここの村人たちは。


「いやいや、こんな年寄りに出来る事といったら、このぐらいしかないからのぉ」


 年寄りが皆ベヒモスを召喚できるとでもいうのか!?

 何かがズレているぞっ。


「という訳でな、お主よ。残りのうね作りをせい」

「どういう訳なんですか。説明をはしょらないでください」

「面倒くさいのぉ。お前も精霊使いなら知っておろう。精霊の召喚可能時間を」

「はぁ、まぁ」


 つまりベヒモスも制限時間がある、と。しかも上位精霊級になると、一度召喚すると再召喚までの時間が長いらしい。

 下級精霊は連続召喚可能なのにな。

 で、制限時間内にベヒモスが耕せなかったうねを……


「ノームと協力して耕すがよい。ノームのレベルも上がるじゃろうし、そうする事でノームとの絆も深まるはずじゃ」

「ノームと?」

《の!》


 うぉい。やる気満々ですよノームさん。

 土の精霊なだけあって、土いじりは好きなんだろうか。


「そうか。そんだら冒険者さん」


 と言いながら村人の一人が鍬を差し出してくる。

 え……マジで?






 その後、ノームを四度再召喚し、やっとの思いでうねを完成させ俺は、農家さんの大変さを学んだのであった。

お読み頂きありがとうございます。

ちょっと更新時間を捻ってみました。暫く不規則な更新時間となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ