134:株式会社AQUARIaの中の人達その5とマジの中の人。
本文下部にエリアマップを掲載しております。
画像ですので表示が重くなるやもしれません。
某都会のビルの一室にて。
「チーフ、大変です!!」
「どうした、守山君」
女性スタッフにして、社内では毒女と囁かれている守山が叫ぶ。
「海賊ダンジョンの正門の壁が破壊されました!」
「は?」
「いやだから、破壊されたんです。ガスガス殴られて」
「はい?」
「だーかーらー!」
面倒だとばかりに守山は記録された動画を再生する。
それを見るためやってきたのは、何もチーフだけではない。他の運営スタッフも集まったのだが、基本、男が多い職場である。
中には泊り込みで帰宅せず、つまり風呂に入っていない者もいる。
「昨日、入浴していない人は私の半径三メートル以内に近寄らないでください」
表情一つ変えず、守山はそう言った。
集まった男性スタッフのうち、五人ほどが遠ざかる。
そんなにいたのかと、チーフはじめ、きちんと風呂に入っている面々は思った。
守山のパソコンに映し出された映像を見つめる入浴済み清潔軍団。
そこには――
「また彼か!」
「またなんちゃって殴りマジ」
「これ鷲掴みと怪力の効果を『ロック』に乗せてぶん殴ってますね。まぁだから、今回はちゃんとした殴りマジかも?」
男達は口々に映像に映るダークエルフを解析する。
だが守山の言いたいことはそこではないのだ。
「海賊ダンジョンの入り口を狭くしたのはわざとですよね。ダンジョン内が混雑しないようにする為に」
「ま、まぁそうだな」
既に棘ありまくりな口調な守山に対し、チーフはこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
「どうするんですか、これ! さっそく中は大混雑ですよっ」
「ま、まぁレベリング目的での入場者にとっては嬉しい結果だろう。こういう事もできちゃうのもVR故だと思えば……」
そう。
以前のMMOでは破壊できるオブジェというのは、そもそも何かの仕掛けであったり、そうさせるために用意されたものだったりした。だがVRの時代が到来し、リアリティーを追及させるために、わりといろいろ出来るようにしちゃったからさぁ大変。
案外、プレイヤーは予測困難な行動をするものだと、VR初期から開発運営に携わるものは思った。
だからして開発運営は、それが不正行為でない限り「もう好きにしちゃって」という結論に達したのである。
「はぁ……好きにしちゃっての精神ですか」
「うん。まぁ不具合ではないからね。狩場が混雑すれば、そのうちプレイヤーも新しい狩場を探しに行くだろう」
「そうですけど……」
「チーフ! 大変っすっ」
「池田。メイド喫茶のバイト店員さんが勤務に付く時間だからといって、外食は許可しないからな」
池田。お昼時になると外食と言って二時間近く帰ってこない前科もちである。
「昼はとっくに食いましたよ。チーフに監視されながら……」
「そうだったな。で、何だ」
「呪いのアイテムを解除して、元の入手前状態に戻すなんてスキルを作ったプレイヤーがいるんです」
「ぶふっ」
チーフは思わず吹き出した。幸い、飲み物を口に含んでもいなければ含もうとしてもいなかったので、周囲に被害が及ぶ事はなかった。
「創作スキルか!? でも何故ゴミにならない?」
「それが……」
プレイヤーが創作するスキルは、何も突然プログラム内に生まれているわけではない。
ある程度開発陣が予想し、一つひとつの要素をブロック状にして、それを組み立てるような感じで作られるものだ。
なので、呪いの解除スキルというのも想定された創作スキルである。
「元々状態異常の呪い解除用にと想定されたスキルだったので、解除が成功したら『元の状態に戻す』という設定になってたんですよ」
「ならデバフではないアイテムの解除が何故出来る!?」
「いや、だから……スキルの効果範囲を設定していなかったもので……」
アイテムまで呪いの解除が出来てしまった……と。
「成功率は決して高くはないようです。そもそも呪いのアイテムに掛けられた呪いレベルが高いので」
「成功したらどうなったんだ?」
「アイテムが地面に落ちて、盗みたい放題状態に」
頭を抱えるチーフ。
プレイヤー優待用合成100%成功アイテムであったはずなのに……。これではプレイヤー同士でいざこざを引き起こす為のアイテムになってしまうではないか。
どう対処したものか。
「チーフ。アイテム盗難防止用のマグネットを使えば、盗まれないんじゃないですか?」
「それだっ! 守山君、素晴らしい!」
盗難防止用マグネット。
プレイヤーの持つアイテムを盗み取る事が出来るスキルがある。このマグネットを使用しているアイテムであれば、スキルを使われても一度だけ、確実に戻って来る仕様なのだ。
尚、スキルが失敗した場合はカウントされないので安心してくれたまえ。
もちろん課金アイテムであり、消耗品であれば大量販売が可能になるだろう。
という上層部の汚い考えだ。
十個セットで100AQ。
「課金販売のみだと不満の声も上がるでしょうし、冒険者ギルドでのクエスト報酬に加えるという案。あれもあったほうがいいんじゃないですか?」
「うぅん。個人的にはそうしたいんだがなぁ」
上層部が金の亡者なのですぐにはokサインは出ないだろう。
が、想定外の仕様が発生したのだ。仕方あるまい。
さっそくチーフは直近の上司に相談しにいくこととなる。
それはまさに、禿が進行するやもしれない所業であった。
「――きと〜っ。早く起きなさぁい。彰人」
起きてるよ。今まさにログインしようとしてたところなのに。
「起きてるよ」
階下のお袋に短く返事をしてからヘッドギアを装着――しようとしたら、再びお袋の呼ぶ声が。
「起きてるんだったら、早くご飯食べて学校行く準備しなさいよぉ〜」
は? 学校?
今夏休みだぜ。学校なんて――
「あんた、今日が登校日だって、忘れてないぃ〜?」
……。
慌てて部屋にかけてあるカレンダーを確認する。
八月五日……赤いペンで丸をつけ、その下に『登』と書いてある。俺の字で。
「ぎゃ〜っす!」
ヘッドギアをベッドに置き、急いで制服をクローゼットから取り出し装備。ネクタイを装着して……そういやネクタイってアクセサリーになるんだろうか?
ダメだ。ゲーム脳に犯されている。
階段を駆け下り、時計を確認。七時十五分。
バスの時間は七時四十一分。バス停までダッシュで三分だ。まだ間に合う!
「朝飯!」
「ご飯味噌汁。食パン。シリアル。さぁ、どれがいい!」
「シリアル!」
牛乳ぶっかけてお終い。飲む、食うを一度に行える、時間節約メニューだ!
チョコ味のシリアルをお皿にざざざっと盛り、牛乳を適度に注ぐ。まだシリアルに牛乳が染み渡る前から、バリバリと食っていく。
残った牛乳を胃に流し込めば完食っと。
「行ってき――おっと、タブレットタブレットっと
「定期切れてるでしょ。小銭持っていかないと」
そういや夏休みだからバスの定期はとっくに切れてるんだった。
小銭を持っていけというなら――
「ん」
と言ってお袋に右手を差し出す。
金、くれ。
ものすっごいじと目で見るお袋。ここで引いたら負けだ。
「ん」
再び催促する。
溜息を吐きながら自分の財布を取りに行くお袋。よし、勝ったぜ!
貰ったのは五百円玉。
片道二三〇円なので、往復五百円で足りる。だが千円欲しかったな。そしたら残りを課金に――
「ほら時間っ」
「おっと。んじゃ行ってくる」
鞄を手にダッシュでバス停へと向った。
教室に到着したのはホームルーム開始一五分前。余裕だ。
誰にという訳でもなく、とりあえず「おはよう」と言いながら入れば、誰かが「おはよう」と言い返してはくれる。
が、これといって仲の良い連中がいるという訳ではない。だからといって誰とも口を聞かないわけでもない。
だが今日はいつもと違っていた。
席に座るや否や――
「おはよう、水村君。今日がメンテナンス日でよかったね」
背後から声をかけてくる人物が居た!?
振り向くと、そこにはクラスの女子の七割ぐらいが黄色い悲鳴を上げるイケメン男子、星見が立っていた。
そ、そうだ。こいつ、俺と同じ『Imagination Fantasia Online』やってるんだった。
「お、おはよう、星見、くん」
「アップデート、何かあるかなぁ」
「ど、どうだろうね。先週あったばっかりだし。まだサービス始まって十日ぐらいしか経ってないじゃん?」
「うん。そうだよねぇ」
「バランス調整とか、そういうのはあるだろうけど」
「IMPの調整、入るといいね」
IMP? あぁ、そうか。オープンベータからのプレイヤーと正式からとでは、差が出てたんだっけな。
確かに調整が欲しい。精霊使いの技能を習得したのはいいが、まさか精霊を動かすためにIMPを消費するとは思ってもみなかったからなぁ。しかもノームのスキルまでこっちのIMPが消費されるとは……。
IMP消費をケチった場合、召喚した精霊って、ただそこに存在しているだけになるのか?
な、なんて死に技能!?
生かす為にはIMP消費……しかも精霊ごとにだからなぁ。
IMP調整、入るといいな。
「そ、そう言えばさ、星見くんは生産組だったよね? IMPって、生産だと何に使うのかな?」
「デザインかなぁ」
デザイン?
さっぱり意味が分からない。
「生産、やったこと無いんだ?」
「技能は持ってるけど、成り行きで……」
木工技能。まったく使ってません!
自分で杖をと思ったけど、やっぱり狩りと生産の両立は難しい――と思う。
やりたい事いっぱいあって、そっちまで手が回らないのが本音だが。興味があまり無いってのもあるかな。
その点ドドンは、よく両立できてるなと思う。まぁ両立させるためには、狩りスタイルが限定されるからな。
DEXとLUK、この二つが生産の成功率を左右するステータスだ。それらのステータスを上げる事で優勢になるスタイルといったら、現時点じゃ弓しか無い。
そう考えると、俺が木工技能を今更あげたところで、杖なんか作れる気がしねぇ。2ENのゴミを増やすだけだろう。
しかし、生産職の場合、IMP消費がデザインって、なんのことだ?
「えっとね、何かを作る為にはまずその形をデザインするところから始めなきゃならないんだ。裁縫だと型紙っていうのがあるんだけどね」
「へぇ。なんか実際に作るのと似ているんだな」
「そうでもないよ。型紙は作っても、それを針で生地に固定してとか、そういう作業はしないみたいだから」
じゃあなんの為の型紙なんだ……。
「ぼくの場合、木工技能で弓を作ろうと思ったら、型紙の代わりみたいな『製図』ってのを作るんだ。NPCから買う専用の紙でね」
「製図……」
その紙に作りたいもののデザインを描くらしい。絵心が無い人は、文章で書くのでもOKなんだとか。
出来上がった製図を『デザイン習得』するときに、IMPを消費させられるらしい。
「え、それって、製造するたびにIMP取られるってこと?」
「いやいや、最初にデザイン習得するときだけだよ。一度習得してしまえば、同じデザインで性能の違う物を作っても、IMPは減らないから」
「ほぉほぉ。じゃあ、例えば一つのデザインしか習得しないで、見た目が同じ物を量産ばっかりしてれば、IMPは余りまくるってことになるとか?」
「なるなる。まぁ作るからには、いろんなものを作りたいと思うわけで」
あぁ、そうなるか。
他にも製造する際に、作業時間を短縮したいだとか、もっと上質なものを作りたいとか、そういう時にはスキルを作成して対処していくんだと星見は言う。
生産組もIMPはいるもんなんだな。
「「IMP欲しいなぁ」」
そう二人でぼやいた後、担任がやってきて会話は終了。
怖いイメージがあったけど、コンビニの時といい……星見くんって、実は結構普通だったり?
自分の席につき、出欠確認の名前が呼ばれるのを待つその間――後ろの方の席にいる星見をチラりと見ると、すっげえ不機嫌そうな顔で黒板を凝視していた。
や、やっぱり星見は怖いです。
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以下に現在までに登場しているエリアMAPを載せて置きます。
地図はオンライン地図作成サイト「Inkarnate Worlds」で作成しております。
紫の▲:農村 / 黄緑色▲:コールの町 / 黄色い▲:開拓村(大賢者在住)
水色▲:ダークエルフ集落 / オレンジ●:遺跡ダンジョン / 赤い●:海賊D裏口&隠れ里
前半の運営の中の人話は、前話の矛盾した設定を正当化させる為にさきほど加筆した部分です。
かなり切りの悪いところで場面転換しておりますがご容赦ください。