133:マジ、ターン!
「これで最後――っと」
スライム大の岩を持ち上げ穴の外へと運び出す。
まだ細かい石なんかは落ちてるが、人が通るには十分な穴は開通した。
しっかし時間掛かったなぁ。
途中、昼飯ログアウトを挟んだせっせと頑張ったが、もうすぐリアル晩飯タイムだぞ。ゲーム内で夜通し破壊工作をするハメになるとはなぁ。
破壊工作に着手したばかりの時は一個ずつロックをぶち当てて壊してたが、ある程度崩すと足元にごろごろと岩が散乱する事態に。
足場確保の為に岩を拾上げて外にポイ捨て。あんがいでかい岩も持ち上げられてたから、試しに穴をふさいでる奴を掴んで持ち上げてみると――これが持ち上がったんだなぁ。
まぁ時々【ウェイトオバーです】というシステムメッセージが出たりしたが、その時はロックで細かく砕いた。
砕いては運び、砕いては運びの、そりゃあもう長い道のりだったさ。
「な、ノームさんや」
《の。のののののーむ。むむのーむ》
「は? オイラに任せてくれれば、そんな穴、直ぐに作れる? どゆこと?」
ドンっと胸を鼓舞するノームは、そのまま開通したばかりの穴の横に立ち、壁に手を付く。
そして《のおぉぉぉぉむ!》と吠えたかと思うと、壁に穴を開けやがった!?
え? 今のどうなってんの? なんか壁の一部が一瞬で砂になって、さらぁっと崩れたんですけど?
《の!》
「いや、の! って、なんでだよ!?」
《ののの、のーむ。ののの》
オイラ土の精霊でやんす。土や岩は友達でやんす。
そう聞こえる。何故かまた変な語尾に変換されているのは、俺の思い込みだろうか。
だがそんな事はどうでもいい。
つまりアレですか。
俺のこの数時間――いやゲーム内感覚だと数十時間――は無駄だったって事ですか!?
「出来るならなんでもっと早く言ってくれないんだよ!」
《の》
「聞かれなかったからでやんす? くそっ、なんてお約束な返事なんだよ!」
所詮はAI。融通というか臨機応変というか、そういうところがいまいちだ。
うぅ、くそう……。
大きな溜息を吐き捨てたものの、収穫がまったく無かった訳ではない。
破壊工作中、ノームを待機させ後ろからの襲撃に備え、襲撃があればいの一番にちゃぶ台返し発動。
このスキル、防御としては結構しっかりしていた。
バリアと違って前方からの攻撃に対してのみ有効だが、モンスターに使われているAIはそれほど賢くない。突然前方に障害物が現れても、そのまま突っ込んでくるのだ。で、衝突によるダメージを与えられる、と。
まぁダメージ食らった後は迂回して襲ってくるんだが、その時には俺の戦闘態勢が整うって訳だ。
更に壁は一撃程度では崩れず、耐久度みたいなのがあるようだ。HPみたいなものだな。それがゼロになったら崩れる仕様。
そして一番の収穫は――
「十五分経過しても再召喚が直ぐに出来るって事だな。これならある意味、出しっぱ可能じゃん」
《のの》
「あぁ分かってるよ。一度に召喚できる精霊は一体だって事ぐらいな」
違う属性の精霊を同時には召喚出来ない。これは確かに辛い。まぁ狩場によって召喚する精霊を変更しなきゃならないって事だな。
尚、俺はまだノームとしか契約出来ていないので関係ない。はぁ、早く他の精霊おゲットしたい。
さて、外と繋がった事だし、村長に報告しておくか。
「『テレポート』」
移動がダルい時はテレポに限る!
さすがにゲーム内じゃあ丸一日経過してるし、会議の結果が出て――
「って、まだ車座になってんのかよ!? え? 徹夜で会議してたのか!?」
思わず大声でツッコムと、気づいた村人が一斉にこっちを見る。
ひぃっ! こっち見んなっ。
更に全員が一斉に立ち上がる。
これ、何かのホラー映画の撮影ですか?
「ようこそ冒険者さん。私達はこの村に留まる事を決めましたよ」
「お、おお。そうですか」
ほっ。反応は普通だ。
というか、立ち上がった村人たちは、蜘蛛の子を散らすようにどっか行ってしまったな。襲われるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしたが取り越し苦労だったようだ。よかった。
「穴が開通したようですし、これからは大勢の冒険者さんが訪れるでしょう。そのためにも、商店などを作る予定です」
「あれ? 俺、岩の撤去が完了したって、まだ言ってないような?」
「――冒険者サンガココニイルトイウコトハ、終ワッタノデショウ?」
「ひぃ! お、終わった。終わりました」
また村長の音声がおかしくなってるよぉ。やっぱりこの村は呪われているんだぁ。
あわあわしている間に、あっちでは家の改築が、こっちでは新しい建物が。村のようすが一変していく。
そ、そこまで大改造しなくても……。
ファクトの町に戻ってきた俺。
日中、ずっとログインしていなかったシースターをようやく見つけた。
メッセージを送って待ち合わせすると、やや疲れた表情の彼が。
「おぅ。どうしたんだ?」
「あぁ、うん。昼間はずっと宿題しててさ」
「しゅく、だい?」
まさかシースターも学生だったのか。
夏休みが始まって今日まで、一度も宿題に手を付けていなかったらしい。
ふっ。俺はやってるぜ。夏休みに入ってから今日と、この前の二日間な!
ただ最初の日に相当頑張ったから半分ぐらい既に終わっている。とはいえ……幾つかの教科は、登校日毎に宿題を配布するんだよなぁ。
宿題はタブレット端末に送信されるんだが、今手元にある奴は八割終わっている。これをさっさと全部終わらせれば、残りは登校日毎の配布宿題だけだ。
配布宿題も早々に片付けたいところだが、こればっかりは登校日を迎えなければどうにもならない。
「明日が登校日なんだよ。提出する分を慌ててやっててね」
「へぇ、明日かぁ。俺のところはいつだったかなぁ。あ、そうだ」
宿題の話なんかして忘れるところだったぜ。
昨日の杖製造のお礼をちゃんとしていなかったから――と切り出して、シースターに取引要請を出す。
「また頼むよ」
っと微笑みながら言うと、シースターの尻尾がバビっとハリネズミのようにトゲトゲになった。
「こ、これを受け取ったらぼく、また杖を作らされるの!?」
にっこり微笑んで、こっくり頷いてやった。
「ひいぃぃぃぃ」
「ふひひひひ」
渡した素材の中にはレアの素材も含まれている。
レジェンド作って貰ったんだ。このぐらい奮発してもいいだろう。
もちろん全部を渡したわけじゃない。
今日一日でレベルもついに30になった。次は32装備の事を視野に入れて、素材を集めなきゃならないからな。
レジェンド武器二本も憧れるが、HP補正とか考えて上半身二着体制を整えたいよなぁ。
確実に合成できるギターとメダルを、武器と上半身とで使って……孔雀のズボンは見た目アレでも、性能は破格と言ってもいい。出来ればもう暫くはあれでいきたい。
となると、防御力補強の為にも上半身二着は必須だな。
「ねぇマジック。一つ聞いてもいい?」
「あ? なに」
「それ、なんだけどさ」
シースターが小声で、背中のギターの事を尋ねてくる。
「情報掲示板で見たんだけど、100%失敗しない合成方法があるって。なんでも片方は装備じゃなく、呪われたアイテムだっていうんだ」
「あぁ、それね。おぅ、これがその呪われたアイテムだ。LUK半減とか、バフスキルがデバフになるとかあるぜ。ま、LUK1だし、バフスキル持ってないから全然関係ないけど」
「ちょっ。やっぱりそれなの? 合成100%って、それもう最強じゃないか」
あれ?
合成って100%だっけ?
破損しないって聞いたけど。
「検証した人がいるんだよ。ノーマルからハイまでを何度も合成しまくたって人。合成は100%。分解の時は失敗してゴミになるのもあるけど、当然呪いのアイテムのほうは無傷だから、何度でも繰り返せるって」
「あぁ、破損しないから何度でも出来るとは聞いた。合成は100%だったのか……」
ごくりっ。
じ、じゃあ、失敗を気にせず合成しまくれるってことか!
ひゃっはー!
俺のターン!!
「マジック。そのギターの事、あんまり人に言っちゃダメだよ。盗まれる可能性もあるからね」
「いや、これ呪いのアイテムだから、俺の体から離せないし。分解して貰ったときもさ、ベルト部分握ってただろ?」
「うん、それがね……。神聖魔法の創作スキルで、呪いを解除するのを作った奴がいるんだよ」
まさか……解除できるのか!?
「解除できた瞬間、持ち主からアイテムが落ちてしまうんだって。そうしたら誰でも拾える状態になるんだよ」
「げっ。盗みたい放題かよ」
「まぁ検証スレでやったら出来たって話だけで、成功率もかなり低いみたいだよ。でもそれ見て盗む目的でスキル作るプレイヤーが絶対出てくると思う」
「くそ、余計な書き込みしやがって」
「うん。検証人たち、相当叩かれてた」
当たり前だ!
くそぅ。なんてこった。
危うし俺のギター!
何か対策を考えないとなぁ。