132:マジ、村長をコントロールする。
「はぁはぁ……全部で十八個か。あと二個あれば二袋分になったんだが……」
光る木の実をかき集める間に、無駄な技能を習得してしまった。
もちろん――『木登り』だ。
ま、まぁ、木の実集めするときに役立つし、技能レベル上がればIMPも増えるんだからラッキーと思っておこう。
《ぷ! ぷぷぷ!》
「あ? 早く食べたい? 無理。合成剤、持ってねえし」
《ぶ!》
「あイタタタタ。分かった。分かったからやめろっ」
飯の事となるとすぐこれだ。ったく、どんだけ食い意地がはってんだか。
幸い海賊ダンジョン裏入り口は直ぐそこだ。スライムや甲殻類がいるし、材料はすぐ揃う。
早速ダンジョンへと入り、手当たり次第にぼこっていく。
「それにしても、こっち側の入り口から入る人って、まったく見かけないな」
《ぷぷぷぅぷ》
「そりゃそうだ? なんでだよ」
《ぷ。ぷっぷぷぷぅ》
隠れ里から外に繋がる穴が塞がれたままだから?
穴が開通してない今だと、ロッククライミングか俺らみたいにテレポを使って偶然村を発見するぐらいしか手段が……とぷぅが説明する。
な、なるほど。そういえばそうか。
ぬふぬふ笑うおかめたちをトールハンマーの餌食にして先へと進む。
さすがにバルーンボをソロで倒そうとは思わないが……途中の鍵ボス見下ろし窓から顔を出すと、何組ものパーティーが疲れた顔をしてバルーンボへと続く道へと向って行くのが見えた。
戦闘無しでも一時間超え。道中に戦闘も入ればもっと掛かるだろう。
そりゃあ疲れるよな。
鍵ボスが成仏してた事は、せめてもの救いだよな。
まぁおかめどもはぬふぬふ言って元気だが、全員壁際歩いて完全スルーしてるな。
ボス部屋前で休憩し、それから戦闘――下手したら一周二時間ぐらいかかるんじゃ……。
一日で何度もトライする気になれないよな。
正面入り口の壁……壊した程度でも随分と喜ばれてたなぁ。
隠れ里からの出入りが可能な穴を開通させて、裏入り口の事を皆に教えたら……。
もしかして崇められちゃったりするかも!?
――うぉー! マジ神! マジ神!!
なる。きっとそうなる。なるしかないだろう!!
《ぶぅぷぷぷ》
「あ? 早く合成剤作りに行こう? っち、人がせっかく良い気分になってたってのに」
まぁいい。ブリュンヒルデのところで合成剤を作って貰って、合成ペットフード作ったら戻ってこよう。
くくく。岩の壁を破壊できたんだ。穴を塞ぐ岩だって破壊できるだろう。
待っていろよ我が民たちよ!
「はい、できたですの。珍しく材料が少なかったですが、何かあったですの?」
材料を渡してものの数秒で完成品に変わる。なんか依頼するたびに速度が増していってるような?
それとも今日は少なかったからだろうか。
受け取った合成剤は僅か三十四個。
「いや、ぷぅが早く新作の合成ペットフードを作れと五月蝿くてさ。数が揃う前にとりあえずって事で」
「そうだったですのぉ。ふふ、ぷぅさんも早く美味しいの、食べたいですよねぇ」
《ぷ!》
ぷぅさん……いや、こいつは鳥なんだが。
さっそく頂いた合成剤で一袋分を作る。こいつは団子十個|(一袋)に対し、木の実十個と合成だ。これで味が濃くなるはず。
次に団子十個に対し、木の実五個と合成。もう一つ、団子十個に対し、残りの木の実三個と合成。
木の実の数が少なければ、当然味も薄くなる。
が、物によっては若干薄味のほうが良かったりするんだよな。
それぞれをぷぅに食べ比べさせ――結果、
《ぷぷぅぷぷぷぅぷぅぷぅ》
「十個合成かよ……っち。せめて五個合成が丁度良い味付けだったら、まだ作りやすかったんだがな。ま、作った分は全部食って貰うから」
《ぷ!》
ラジャ! とばかり敬礼ポーズを見せるぷぅ。
もしかして五個でも三個でも、美味かったんじゃないか?
しかし発見技能使って、結構時間掛けてこの数じゃなぁ。量産できないとなると、売り物にするのは無理だな。
ぷぅ一羽に食わせるぐらいなら、まぁ時々は拾いに行ってやってもいいか。
「よし、ぷぅ。満足したなら隠れ里に戻るぞ」
《ぷ?》
「穴を塞いだままの岩を破壊しに行くんだよ。じゃ、ブリュンヒルデ、また来るよ」
「ふふ。いつでも待ってるですの」
微笑む彼女に手を振り、テレポで再び隠れ里へと戻って来る。
相変らず村人は……そういやこの連中、穴が開通したら出て行くんだろうか?
裏入り口が賑わうようになれば、この村を拠点にってのもありだよな。なんせ安全地帯なんだし。
「やぁ冒険者さん。またダンジョンへ行かれるのですか?」
汗をタオルでふきふき。爽やかな笑顔を見せながら村長がやってくる。
なんだろう……ちょっと逞しくなっている気がする。
「村長さん。ここから出られたらどうするんですか?」
「考えていませんねぇ」
おい、シンキングタイム無しかよ!
村長ならちゃんと考えとけっ。
まぁ考えてないというなら……
「そもそもここから出て、故郷の大陸に帰りたいって訳でもないんだろ?」
「そうですね。故郷と言っても、ここで生まれ育った我々から見ればこここそが故郷ですし」
「なら、ここに定住すればいいんじゃないか?」
「ていじゅ……――」
あ、シンキングタイムに入った。
構わず話を進める。
「穴をふさいでる岩なら俺がなんとかする。自由に外とこことを行き来できるようになれば、他の村や町との交流も出来るようになるだろう」
「ホ……カノ……交流……」
な、なんか音声がおかしいが、き、気にせずに攻めよう。
穴を開通させれば冒険者もやってくるだろう。その冒険者相手に商売を始めるのもいいと思う。
現状、NPCとプレイヤーとの商売なんて、ドロップ品の売却がメインだ。
が、これがなかなか重要でもある。
ダンジョンに連続トライする場合、ドロップ品がかざばるので整理が必要だ。だが、インベントリ拡張アイテムを買ってなければ、正直鞄がパンクしてしまう。
入り口近くにNPCが居て、アイテムを買取ってくれればかなり助かるんだよな。
一番欲しいのは倉庫システムだが……
「アイテムの一時預かり所とかでもあればいいな。今のところ未実装だけど」
「……預カリ……」
「プレイ――冒険者としては、このまま村が存続してくれる方が有り難いんだけど。行く当てが無いってんなら、このまま村に留まるって選択肢もありなんじゃ?」
「――ナルほど。確かに村人の中には、生まれ育ったこの村を捨てるのは忍びないと、そう思っている者もおります。外との行き来が自由になるのであれば、それはもう囚われの身ではありませんしね」
お、上手くいきそう?
その後、村人とも話し合うと言って村長が踵を返すと、既にそこには大勢の村人が居た。
相変らず、NPCはシステムで繋がってるからっていろいろはしょり過ぎだろ。
車座になって会議が始まるのを見届けると、俺は俺でやるべき事をする為に移動した。
岩の破壊。
外周をぐるりと回れば穴はすぐに見つかった。
確かに岩で塞がっているが、大きな岩じゃなくって大小いろんなサイズの岩が落ちてきて塞いでいる、そんな感じだ。
「さて、やるか」
《ぷっ》
ぷぅが警告する。
背後からバッタモンスターが襲ってきたのだ。
っち。のんびり破壊工作も出来やしない。
「うらあぁぁ! 燃え上がれ、俺の――『ファイア』ソード!!」
ぼぉっと燃え盛る炎の剣を片手に、跳ねてきたバッタを一刀両断!
まぁ本物の剣じゃないし、刃もないので両断出来ない訳ですが。代わりによく燃えております。
杖二本装備で火力が上がったし、脅威では無いんだが邪魔だ。
そうだ。
「おーい、ノームさんや〜い」
足元の地面に向って呼びかける。
精霊の召喚は、その精霊が存在する力場に向って呼びかけるべし――とは、召喚の書にあった文面だ。
力場ってのは、風の精霊なら風の吹く場所。火の精霊なら、火そのものという感じだ。
土の精霊ノームなら、土そのものが力場となる。なので地面に向って呼びかける訳だ。
その効果はすぐに現れた。
ぼこぼこと土が盛り上がり、ミニチュアドワーフが一人出てきた。
《の!》
「よっ」
片手を上げてお互い挨拶をする。
「ノームさんや。俺は今からここの岩を壊していくから、その間、ちょっと後ろを見ててくれないか。モンスターが普通に襲ってくるから面倒くさくてさ」
《のーむ!》
任せるでやんす、と、なんとも頼もしい返事だ。
とはいえ、ノームの戦闘力は決して高くない。モンスターが襲ってくれば俺も戦闘に参加する。いきなり後ろから襲われるリスクを下げるのが目的だ。
同時にノームのレベル上げにも丁度いだろう。
「さて、やるか。『ロック』パーンチ!」