131:マジ、木を破壊する。
早朝から俺は頑張った。すこぶる頑張った。
昨日やらなかった宿題を、三十分頑張った!
「一教科一日分の量は消化できただろう。よし、ログインだ」
やり遂げた感を胸に、残りの宿題がどれぐらいかなんて考えるのは野暮ってもんだ。
先日結構やったし、実際はそんなに残ってない。
ただ厄介な事に数教科は登校日ごとに宿題を渡されるので、次の登校日にはまたどかっと増える。
まぁいい。気にするな。
今は心置きなく遊ぶぜ!
ヘッドギアを装着してベッドに横たわり、スイッチオン。
『おはようございます、彗星マジック様』
「あぁ、おはよう」
読書週間も終わった。
正直、魔物使いと死霊使いには興味が無い。特に死霊使い。
ゾンビとかスケルトンと仲良く冒険とかやりたくないわ。魔物使いに関しては別の意味もある。
昨日、ドドンときざくらさんと別れてから精霊使いの技能やノームのスキルを確認した。あと召喚の書もだ。
それによると、精霊もモンスターも死霊も、何か行動をさせるためにはIMPの消費が必要だという事。尤も、最初の設定時にだけ消費するので、逐一減っていくって訳ではない。
けど、これから他の精霊を召喚できるようになれば、そいつらにも行動用にIMPを消費する事になる。
魔物使いになってモンスター一体一体にそんな事してたら、俺自身のスキルが作成できなくなっちまう。
よって、精霊使いだけに絞ることにした。
あと欲しい精霊は、やっぱ火だな。水も欲しいし風も欲しい。そして雷も。
結局属性は全部欲しいっていうね。
はぁ、IMP全然足りねえよ。
『――様。彗星マジック様』
「ん、あ、なんだ?」
『公式サイトのお知らせ、ご覧になりましたでしょうか?』
「お知らせ?」
そういや明日は定期メンテナンスのある水曜日……もしかして、アップデートの告知とか!?
『その分ですとご覧になっていませんね』
「なってないなってない。何のお知らせだったんだ?」
そう言うとシンフォニアが顎をくいっと上げて、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
いいから早く言えよ!
『では口頭でお知らせいたしましょう』
「おう、早く言え」
『お知らせ。明日八月五日の水曜日は、定期メンテナンスとなります。メンテナンスは十時から十五時を予定としております。メンテナンス開始時までに事前にログアウトしていただくか、安全地帯までお戻りくださいますよう、よろしくお願いいたします。メンテナンス中はゲーム内へのログインが出来ませんので、予めご了承ください。尚、受付ロビーは十三時より解放いたします。また【『ロビー大改造劇的計画』の応募は次週のメンテナンス開始時までとなっております、奮ってご応募ください』
シンフォニアが息継ぎ無しで、まるで台本でも読んでいるかのように抑揚無しの口調で一気に喋る。
「それで終わり?」
『はい。現時点でお知らせできる内容は、以上でございます。何かご不満でも?』
不満っつうか、わざわざ教えてくれなくても分かってる内容じゃねえか!
劇的に関しては、俺は応募する権利ないだろうし。そもそもクッション貰ってるし! プレイチケットは欲しかったけどな。
明日のメンテナンスは特にアップデートも無さそうだ。あるとしても不具合調整とか、そんなのだろう。
ま、サービス開始してまだ二度目のメンテナンスだ。早々あれこれアップデートなんかある訳ないよな。
「じゃあ、向こうに行ってくる」
『はい、いってらっしゃいませ』
旅の扉を開けて一歩踏み出すと、昨日ログアウトしたファクトの町だ。
さて、今日は何をしようかな。
先ずはシースターに製造のお礼用に素材の提供でも……が、フレンド一覧を見ても、ログインしていないのが分かる。
また後ででいいか。
《ぷっ》
「あ? ログイン早々に飯を要求かよ……空腹度18か。仕方な……あ、ペットフード切らせてるわ」
《ぶ!? ぶぶぶぶぶぶぶぶ》
「あいタタタタタタ」
インベントリの中にはぷぅ用の合成ペットフードは無く、それを話すと物凄い勢いでぷぅが突いてくる。
こりゃたまらん。
合成剤は十個ほどある。素のペットフードは……急いで買ってこよう。木の実は昨日、きざくらさんに貰ったから余裕だ。
「す、すぐ作るから突くなっ」
《ぶぶぶっぶぶ!》
いつものより美味ちぃのを作るのよ! だと。
きざくらさんから貰った木の実は種類も豊富だ。一種類ずつ合成すれば、一つぐらい気に入るものが出来るだろう。
合成ペットフードの委託販売で懐も潤ってるし、三百個ほど仕入れておこう。
木の実の種類は九種類。それを各十袋ずつ合成していく。
で、合成完了の木の実inペットフードを一つずつ、ぷぅの前に差し出す。
「どれがいい?」
《ぷぅ〜〜》
腕組みして真剣な眼差しで九つの団子を見つめるぷぅ。
やがて、オレンジ色の団子を持ち上げ、食った。
と思ったら地面に置き、別の団子を一口だけ啄ばむ。
おい、味見すんのかよ。
一度啄ばんでポイ捨て去れた団子は、そのまま光の粒子となって消えてしまう。なのにぷぅの空腹度は1しか下がらない。
なんて無駄食いする奴だ!
最終的には赤い実と合成した団子を完食した。
《ぷっぷぅ〜》
「あぁあぁ、暫くそれを食うんだな」
《ぷっぷぷぅ》
「他にもいろいろ食べてみたい? 贅沢言うな!」
《ぷぷぷぅ》
「あ? チュンたちの巣の近くに、美味しそうな木の実があった?」
それを食いたいと、うちの姫さまが仰っておられる。
我侭な奴だ。
が、ぷぅが美味いというペットフードは、同じ鳥系ペットにも好評らしい。完売速度がケタ違いだからな。
そうだ。今度セシリアんところのウミャーにも、いろいろ味を見てもらう。あいつが美味いと言うペットフードなら、他の猫系ペットにも人気だろうからな。
「よし。新しいペットフードの味開発用に行ってみるか」
《ぷぅ〜》
隠れ里――相変らず村人はロッククライミングに励んでいるな。
そのまま彼らをスルーしてチュンチュンの巣へと向う。
道中にはモンスターが出るが、既に格下扱いだ。まして杖二本によって、今の俺の魔法攻撃力はかなりのものだ。
まぁINT極でレジェンド二本持ちとかいたら、さすがに負けるけどな。
《ぷ》
「お? あの実か?」
ぷぅが反応して一本の木を見つめる。
その木は大きく、上のほうにはブルーベリーのような青紫の実が生っていた。
「うーん。手の届く高さじゃないなぁ。揺すってみるか?」
《ぷぷぅぅ!》
頑張ってと言って、ぷぅが足元で踊り出す。その踊りにバフ効果でもあればなぁ。
さぁ、いっちょやるか。
両手で太い幹を掴み、全体重をかけるようにして押すっ。
――と、メキメキッという音がして慌てて飛びしさる。
今の音、幹が揺れる音じゃない、よな?
は、はは。まさかぁ〜。
も、もう一度――今度は押すんじゃなく、揺すってみよう。
ぐわしっと両手で幹を掴むと、バキャっという音を立てて掴んだ部分が粉々になった……。
お、おう……ゲーム内のオブジェって、予想以上にモロいようです。
《ぶぅぶぅ。ぷぷぷぅぷぅ〜ぷぷ》
「あたちに任せろって……じゃあ最初からそうしてくれよ」
《ぷ》
パタパタとぷぅが飛んでいき、木の実を一つずつ落としていく。下では俺がマントを広げ、落ちてきた木の実をキャッチする。
しっかりキャッチするため、じぃっと上を見つめていると――キラッキラ光る木の実を発見した。
これはもしや、発見技能によるものか?
「ぷぅ、お前の右手に光る木の実が見えないか?」
《ぷぅ? ――ぷ》
見えないわよ、と返事をし、光ってない木の実をどんどん落としてくる。
そろそろもういいだろう? 木が禿げるぞ。
が、どうしても光っている木の実が気になる。木だけに。
ぷぅには見えないし、こうなったら俺が登るしかないのか!?
……ふ。木の一本や二本、子供の頃には登れてたんだ。今だって登れるさ。それにここはゲームなんだぜ? 落ちたところで死にはしないんだ。安心して落ちれる! いや、出来れば落ちたくないけど……。
幹に手をかけ力を加えると、ミシっと再び嫌な音がして掴んだ部分が砕ける。
あ、ここに足をかけて上ればいいんじゃね?
砕いた後は加減して幹を掴み、砕いた部分に足をかけて少しずつ登っていく。なかなかいけてるじゃん。
《ぷ、ぷぷぷっ》
「お、おう。今集中してるから、声掛けるな」
俺の周囲をホバリングしながら心配そうにしているぷぅ。だが集中の邪魔だ。
力を込めて幹を破壊し、次は破壊しないよう掴む。力加減が難しいったらありゃしない。
ようやく光る木の実まで到達すると、それを摘み取ってみる。
この瞬間、ついにぷぅにも見えるようになったのか――
《ぷ!? ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ》
淡い光を放つブルーベリーモドキに全力で飛び込んできて、頬ずりをしはじめた。
興奮しすぎである。
しかし、この木の実一個だと団子一個にしかならない。他にないものかとあちこち枝を見てみると――
「あった……けど、他の木じゃん」
《ぷぅぅ!!!》
ぷぅ、歓喜である。
だが俺はげんなりだ。
周辺の木、一本につき一個、光る木の実が見えた。