129:ぷぅ、姐御になる。
《ジャ……ジャアァァッ……ク……》
「はぁはぁ。や、やっとか」
最後の最後までバルーンボは、ジャックの幻を見ながら消えた。
あの分だとまだ成仏しなさそうだな。これで海賊ダンジョンも暫く安泰だろう。
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、無事に倒せてよかったですなぁ」
「ノーム、活躍した、な」
《の!》
胸を張ってドヤ顔を見せるノーム。そのポーズのままノームの体は土色に変わり、崩れ始める。
え? どゆこと!?
「お、おいノーム? し、死ぬなっ」
《の? のののーむ。のむのむむむのーむ》
「は? 十五分経ったから、帰る? どこに」
《の》
と言って地面を指差し、そのままノームは崩れて土に戻った。
十五分って……精霊の召喚制限時間があったのか。
「い、いやぁ、それにしてもマジさんのヒール、マジなだけにマジ助かりましたわぁ」
「い、いや……タンカーに死なれると、次に死ぬのはこっちだし」
けど正直、筋肉あんまん氏の防御力が高かったからこそ、持ち堪えられたんだと思う。
聞けば彼、上半身と下半身両方の装備を合成してて、それぞれ二着装備中なんだとか。
「で、パンツ一丁になって自警団に怒られましたんですわ」
「マジか……それでなんでふんどしに?」
「他の衣装アバターは10万ENとかですし、合成貧乏中なんで手が出せないんだけど、こっちは10ENだったんで」
「やすっ!」
「しかも筋肉をみせびらかせるし」
「やっぱソレか!」
水着でもよかったじゃん! まぁ価格的には上がるが。
「ココネ、マジックさんの変わりに攻撃に参加してよかったでしょ? マジックさん属性魔法使いさんみたいだったけど、ココネは神聖魔法使いだから、幽霊さんには強いんですよ♪」
いやいやいやいや、言ってる意味、サッパリ判らないし。
そもそも俺、ヒール使ってたじゃん? ってことは神聖魔法も使えるんだぜ?
聖属性の攻撃魔法だって持ってたし。
つつつっと筋肉あんまん氏が寄って来て、
「ダメっすわ。彼女、天然なのか真性なのか分からないけど、たぶんヒーラーの意味すら理解してないと思う」
「……やっぱり?」
「前回、全滅、したと」
ぼそりときざくらさんが呟く。
確かに彼女は道中、『前回は途中でパーティーが全滅した』と言っていた。
その言葉を思い出した瞬間、俺たち三人に戦慄が走った。
もし道中、雑魚戦があったなら……俺たちも同じように……いや、俺がヒール使えたし、全滅はしなかっただろう。
寧ろ雑魚戦があったほうが、バルーンボ戦でこんな疲れる戦いをしなくて済んだのかもしれない。
俺たち三人が見つめる先で、ココネさんはドロップしたアイテムをインベントリから取り出して喜んでいた。
まぁ……結果オーライって事にしておこう。
ただ今後犠牲者が増えないように、彼女には――
「ココネさん、ヒーラーって知ってる?」
「はい。ヒールのスキルを持っている人の事ですよね?」
「うん、ちょっと違うんだなぁ。ヒーラーってのはね――」
パーティーを組んだ際、仲間のHP管理を行い、ダメージを受ければ回復させる役目を言う。
まぁ俺も初体験だったし、必死だったから無駄ヒール打ちまくったけど、本来はヘイト調整の為に、HP残量と自分のヒールの回復量なんかを考えて使ったりしなきゃならない。
あとバフスキルで戦闘を有利にするってのも定番だな。
そんな話をすると、彼女は目を白黒させて知らなかったと呟く。
「船の上でライトを使って戦ってたとき、知らない人に『神聖魔法を持ってるならヒーラー志望なんだね』って言われたから、ココネ、ずっとヒーラーだと思ってました。ごめんなさい、勘違いしてて」
そうだったのか……右も左も分からない完全初心者なんだな。そしてそんな初心者に、スキルのスタイルだけで決め付けてそう思わせこんだ奴、出て来い!
「うん。君は神聖魔法使いの、火力職――だと思うよ」
「そ、そうだったんですね! ココネ、次からは火力さんの募集に参加する事にします!」
うんうん。理解してくれたようだ。これで全て解決。
はぁ、疲れた。
ダンジョンを出て露店の並ぶ岩肌に腰を下ろす。
ココネさんは自分のプレイスタイルを理解し、意気揚々と次のダンジョンパーティーを探しに行くんだと町に戻っていった。というか俺のテレポートを使って送ってやった。
同じく筋肉あんまん氏も町に戻ったが、こちらは一休みしたいから、だそうだ。
残った俺ときざくらさん。
無口な人と二人だけとか、話題が無いんですけど!?
《ぷぅぷぷ》
《ピ、ピピピッピ》
《ぷぅ! ぷぷぷぷぷっ》
鳥族の二羽は話題があるようだ。というか、腹を空かせているとかなんとか言ってるな。
「もう飯の時間か?」
《ぶぶぶぶ。ぷぅぷぷ!》
「あたちじゃない? ピッピか?」
その会話を聞いてきざくらさんがペットフードを取り出す。
おや、ノーマルのペットフードだな。
《ぶぶぶぶぶぶぶぶっ》
「あー、ぷぅがこう申しております。あたちとダーリンが仲人してやったのに、そんな不味いご飯を食べさせてるってどういう事? え、どういう事?」
「す、すみま、せん。合成ペットフード、なかなか、買えなくて」
「え? い、いやそう言う意味じゃなくって」
俺とぷぅが仲人した?
その意味が分からない。
「あ……やっぱり、俺、影……薄いですしね」
「いや、ある意味濃いと思いますけど?」
酒瓶を二本ぶら下げ、戦闘時にはその酒瓶でバルーンボをど突きまくってたしな。
で、この喋り方だ。濃いといえば濃いだろう。
あの酒瓶はアバター衣装なんだろうけど、あんなものまでガチャから出てくるとか?
《ぷ!》
「あ? ご飯を寄こせ? あぁ、分かったよ」
ぷぅ用の合成フードを一つ取り出し手渡すと、なんとぷぅの奴がそれをピッピに譲った!?
お、お前……自分の飯を人様に譲るような、そんな心の広い奴だったのか!
受け取った合成フードを嬉しそうに啄ばむピッピ。
「す、すみません」
「あぁ、いいから。ほらぷぅ、お前の分」
《ぷ》
「本当は、マジックさんの合成フード……買ってやらなきゃいけないのに、見かけた時、もう売り切れで……」
「えっと、さっきから話がよく見えないんですけど」
「あぁ……えぇっと――覚えてない、ですかね? 草原で、ピッピの封印の――」
草原でピッピの封印?
おぉ、そういえばピッピ討伐に来た人たちだと勘違いして、ピッピを守ろうとした事があったっけ。
で、実はペットにしたくて探しに来てただけだったと。しかも全員。
「あれ? きざくらさんって、その時にいたプレイヤーの一人だったり?」
こくりと頷く。
まぁ人数多かったしなぁ。全員の顔とか覚えてないな。
「そっか。合成ペットフードを食わせるって、変な約束をさせられてたんだっけ」
「いや、でも、ピィが、合成フードを、嬉しそうに食べてたし。出来れば、買ってやりたいんだけど」
「すんません……数を用意できなくって」
「あ、いや……」
しーんっと静まり返る俺たちの足元で、ぷぅとピッピが世間話している。
このピッピ、ペットモンスターとして孵化したのはぷぅより後だってのに……大きさはぷぅとそんなに変わらないな。
ぷぅだって数日で一回りでかくなってるんだ。ペットの成長は早いなぁとか思ったりもしてたんだが。
そう思っていると――
「き、木の実。いろいろ、集めてるんだ」
「あ、じゃあ合成するよ。一度町に戻りますか。ペットフードも用意しなきゃならないし」
そしてファクトの町へと向かい、きざくらさんから受け取った木の実とペットフードを合成する。
しかしまぁ、随分と溜め込んだなぁ。
ペットフード五十袋に対し、木の実余り過ぎ!
「余ったのは、使って」
「お、いいんですか? じゃあ、またフード必要になったらチャットでもメッセージでもいいんで寄こしてくださいよ。いつでも作るんで」
「ほ、本当に!? ピィ、やったな」
《ピ!》
ピィと名付けられたピッピがきざくらさんの頬にすり寄っていく。
あぁ、可愛いなぁ。
《ぷぅ〜》
ぷぅが飛んできて俺の頬に顔をすり寄せる。
嘴が当たって痛いんだが。
「けど、あの時の人ならもっと早く言ってくれればよかったのに」
「あ……うん。でも、俺……人と面と向って、喋るの、苦手で……」
でもチャットなら平気、と。
それからぽつりぽつりと話し出す。
ゲームは好きだが、人との会話は苦手。だから基本はソロなんだけども、装備素材を集めるためにはボスに挑まなければならない。
なので頑張ってパーティーに参加もしたが、結局バルーンボの裏切りビームのせいで失敗。
凹んで居たところに俺の募集を見つけたらしい。
「マジックさんとなら……行けるかな、と、思って」
「おぉ、行けた行けた。ちょっと想定外な出来事もあったけど」
「ヒール、ね……俺も、想定外、だった。マジックさんの強さ、見たかったのに」
「いやいや、俺の強さとか、同業者と比べたら普通だよ、普通」
寧ろINT極の魔法使いと比べると、火力は落ちるだろう。AGI上げてるし。
そろそろまたINTに振らないとなぁ。
「はは。でも攻撃も出来て、回復も出来て、壁も壊せる強さ……マジックさんは、強いよ。きっと、間違いなくトップ、クラスだ」
「いやいやいやいやぁ〜。はははは」
ちょ、トップクラスとか言われちゃったよ!
「おかげで、レア武器、製造依頼、出来るだけの素材集まった」
「あ、短剣だったら鍛冶だろ? 知り合いに鍛冶職人いるよ。紹介しようか?」
「え? い、いいの!?」
「いい、いい。ほら、製造依頼ってさ、素材だけ渡してトンズラされるリスクもあるじゃん? 俺、前に他のゲームでやられたんだ」
「……俺も」
再びしーんっと静まり返る俺ら。
気を取り直してフレンドリストを開くと、都合の良い事に奴がログインしていた。
メッセージ画面を開き、奴――ドドンに連絡をする。
『召喚! ドドン』
と。
おはようございます、こんにちはこんばんは。
ゲームで疲れた心と体を癒す憩いの空間、受付ロビーのスタッフ『シンフォニア』でございます。
本日はプレイヤーの皆様から頂くご質問を一つご紹介し、その疑問にお答えいたします。
えぇ……ドワーフ鉱山在住の肩からのご質問です。
「公式サイトのペットページでは、ペットは直接戦闘に参加することは無いと書いていますが、実際にPTMのペットが他のPTMを攻撃しているのを見ました。これはどういうことなんですか?」
というものです。
お答えしましょう。
ペットには喜怒哀楽の感情が細かく設定されております。嬉しければ踊ったり歌ったり尻尾を振ったりしますが、怒れば攻撃もします。
ただし、その攻撃はプレイヤーに対してであれモンスターに対してであれ、NPCに対してであれ、ダメージを与える事は出来ません。
痛覚という点では痛いと感じる事はありますが、それがダメージに繋がる事はないのです。
例えば、ゲーム内で躓いたり、何かに当たった場合、痛いという感覚はあっても、それがダメージになる訳ではございませんよね?
あ、もちろん落下に関してはダメージを設定しておりますが、それはMMOとして無くてはならない要素ですのでこちらに関しては例外とさせていただきます。
話を戻しまして……。
要はペットによる攻撃は、オブジェクトが落ちてきて当たった、と認識してください。
ご理解いただけましたでしょうか?
えぇっと、追加の質問が届きました。
「ではペットの攻撃によってプレイヤーの行動が妨害されるのは、仕様なのですか? だったら最初からペットに攻撃能力を持たせたほうがいいんじゃないですか?」
だそうです。
……でもそうすると、テイマーを選択された方が……死にます。
皆様だって可愛い動物と共に冒険をするほうが楽しいですよね?
ユーザー様の中には、ゲーム内で気のあう仲間を見つける事が出来ず、ずっとぼっちプレイを続ける方もいらっしゃいます。
孤独を感じるようになったユーザー様はゲームを楽しむ事も出来なくなり、やがて去っていくでしょう。
ユーザーが去ることで課金者が減る。売り上げが減る事で開発にかける費用も削減される!
開発が手抜きになればユーザー離れが加速する!
そうならないために、ぼっちユーザー様が少しでも孤独を感じずに済むよう考えられたのが、このペットモンスターシステムなのです!
はぁはぁ……
み、皆様も是非、愛らしいペットたちとの冒険をお楽しみください。
尚、今後は続々とペット専用アバターなどが登場しますのでご期待ください!
引き続き、【Imagination Fantasia Online】をお楽しみください。