127:マジ、あの時あの瞬間を思い出す。
《のののの、のーむ!》
バルーンボルームに突入しても、ノームはしっかりとついて来ていた。
もしかして契約成立しちゃってたりする?
「わっ。小さいドワーフさんがいる!?」
「ノーム、だな」
「あれ? 見えるようになった?」
隣のきざくらさんと、後ろからついてくるココネさんが頷く。
契約が完了した精霊は、他のプレイヤーからも見えるようになるんだろうか。まぁそうでもないと戦闘し辛いもんな。
そういえばノームも戦闘に参加するんだろうか? どんな攻撃をするんだろうか。
かなり気になるが今回はこいつをじっと見ている訳にもいかない。
バルーンボのHPを確認しながら、一割削れる毎に飛んでくるという裏切りビームに警戒しなければならないからだ。
まずは筋肉あんまん氏がヘイトスキルでバルーンボの注意を引く。
「ふんぬぅぅぅぅ『マッスルハッスルゥゥ』」
え……それ、ヘイトスキルなの?
ボディービルダーがやるような、ムキッなポーズを数パターン繰り出す筋肉あんまん氏。
それを見たバルーンボが、怒りを顕にして走ってきた。いや、弾んできた。
実に嫌なヘイトスキルだ。
そのまま筋肉あんまん氏は、右手に持った小振りの斧を「ふんぬっ」と気合を込めた声と共に投げつける。
ザクっと見事にバルーンボの足に突き刺さった。
あっさり遠投を成功させるって、すげぇな。
今回俺は、最初だけ少し様子見をしなければならない。
なんたって武器はアンデッド有効杖だからな。ヘイトスキル一回分だとダメージヘイトであっさり奪い取ってしまいそうだ。
だが何もしないわけではない。
「『カッチカチ』やぞ!』
筋肉あんまん氏の肩をポンっと叩き、バリアを張る。
「はっはっは。俺の筋肉はカッチカチですわぁ」
ムキムキと三頭筋を動かしながら応えられてしまった。
ちょっとカッチカチの意味が違う……。
バルーンボと接近戦を開始する筋肉あんまん氏。
さっき投げた斧を回収し――しない!?
バルーンボの足に刺したまま!?
じ、じゃあどうやって接近戦するんだよ。まさかヘイトスキルだけなのか?
い、いや、違う。
盾だ。
彼の身の丈より僅かに小さい程度の、あの盾でガスガス殴ってる!?
た、確かに破壊力ありそうだよ、うん。さきっぽ、尖ってるし。
でもなんか違うと思うんですけどぉ〜?
もう一人の物理攻撃アタッカーであるきざくらさんは――あれ? さっきまで隣にいたのに。
辺りをきょろきょろすると、いつの間にやらバルーンボの背後に。
シュっと消えたかと思うとバルーンボの真後ろで、酒瓶をを逆手に持って――殴った!?
あ、いや、あの酒瓶は武器アバターだろうから、実際は短剣で斬り付けているのか。
高速二回攻撃を終えると、またシュっと消えて二メートルぐらい後ろに現れる。俺のリターンと同じ原理のスキルを使っているんだろうか。
まるで忍者だな。
そ、そろそろ俺も攻撃を開始するかな。
まずは……加減の意味で、属性相性的に良くも悪くもないのからいくか。
「『ロック』」
《のーむ!》
何故か足元でノームの嬉しそうな声が聞こえてくる。同じ土属性ってことで、ロックの魔法が好きなんだろうか?
バルーンボと正面から向き合う筋肉あんまん氏の横をすり抜け、掴んだ岩をバルーンボに叩き込むっ。
《ふごおぉっ》
まるでゴムボールかよってぐらい、岩がめり込む。
続けて毬栗サンダー!
あ、ノームは無反応なのね。
バリバリバリィっと奴の脂肪に電気が走る。そしてギロリと俺を見つめると、攻撃がこっちに飛んできた!
「あぶねっ『リターンオブテレポート』」
《のーむっ》
回避代わりに奴の背後へと飛んで一歩動く。
やべぇ。二発でヘイトが跳ぶ……。杖二刀流、恐るべし。
俺のほうを向いたバルーンボの背中に、大きなタワーシールドが突き刺さる。奴の足には斧が刺さったままだ。筋肉あんまん氏、回収する気はないらしい。いつの間にか盾を右手に持ち替えてるし。
その盾攻撃でヘイトは彼へと戻った。
ガクブル。暫く攻撃は控えよう。
サンダーのスキルレベルが高いからなぁ。属性相性が良いって訳じゃないが、そもそもの基本ダメージがでかいのか。
スキルレベルを調節しないと。
あんまり使われてない『魔力操作』技能を働かせるか。スキルレベルを調整して……
「『ヒール、1』」
バルーンボの背後でヒットアンドアウェイを続けていたきざくらさんにタッチし、回復量の変化を確かめる。
うん、少ししか回復していない。
「HP、減って、ない」
「あぁ、スキルのレベル調整が出来てるかどうか確認しただけだから、気にせんでください」
「……オケ」
スキルレベルの調整はまぁ、使いたいレベルを言えばいいだけだからいいとして……魔力操作ってダメージヘイトの調整も出来るって話だったよな。
スキル作成系か、それとも念じる系か……それとこヘイト下がれって口で言う系?
なんて考えている最中も、皆が頑張って戦っている。
俺は時折ヒールとカッチカチで支援。
本当はヒールでもヘイト発生するし、あんまり使いたくはないんだが……。だってココネさんが全然ヒールしてないんだもんよ!
「えぇ〜い『ライト!』。それからそれからぁ『十字架クロス!』」
十字架もクロスじゃなかったっけ? と思わずツッコミたくなるスキルを彼女が唱えると、一メートル程の光る十字架が飛び出していく。更に直後にもう一つ。
なる。二段構えの十字架な訳ね。
って、思いっきり攻撃魔法ですやん!
更に『オーロラクロス』とかいう、虹色に光る十字架ビームを出したり、『セイントフラッシュ』とかいう、眩しい光を出したり……神聖攻撃魔法のオンパレード。
ヒールは?
ねぇ、ヒールは?
「『ヒール、3』」
「サンキュー、マジックさん。うおおおぉぉ『マッスルハッスルッ』」
《うぎぎぎぎぎぎぎ》
筋肉あんまん氏が被弾するたび、俺はその都度レベルを調整して彼の傷を癒していく。
プチ範囲攻撃を食らったきざくらさんにも同様にだ。
しかしあんなふざけた格好してても、さすがはタンカーだな。あの巨大盾も伊達ではないようだ。
カッチカチが防ぐダメージはスキルレベル毎に固定されているが、其の実、恩恵を受けた者の防御力にも深く関係している。
防御力が違えば、モンスターから攻撃を受けた際に食らうダメージ量が違う。
一発100ダメージしか食らわない人なら、十回分の攻撃を防げる事になるが、200ダメージを食らう人なら五回になってしまう。そういう計算だ。
軽装のきざくらさんが一撃300ぐらい食らってるが、筋肉あんまん氏は80ぐらいだ。
もしかしてあのふんどしは、趣味じゃなくって上半身下半身の装備を二着ずつ合成しているからか? パンツ姿になるのを防ぐためか?
いや、ふんどしもパンツも変わらないか。
などと考えている間にも、後ろの方から魔法がばんばん飛んでくる。
ただし、ヒールは一度も飛んでこない。
おかしいな。
俺、パーティーメンバー募集するとき、前衛魔法火力職って書いたよな?
募集メンバーにはヒーラーって、書いたよな?
「『セイントフラァーッシュ!』」
おかしいなぁ。
「ノームさんや」
《の?》
「お前さん、戦闘に参加せんの?」
《のの?》
こいつの言葉は「の」と「む」しか無いらしい。
なのにだ、段々とこいつの言葉が分かるようになってきた。俺の脳も、もうダメかもしれない。
今ノームは「いいのか?」と尋ねてきたのだ。
「いいに決まってるだろ」
そう答えた瞬間、システムメッセージが浮かび上がる。
【ノームの『自動戦闘』項目が追加されました。IMPを5消費します】とな。
え、精霊に指示出すのにもIMP消費するの?
ねぇ、それ毎回削られるの? そんな訳、ないよな……。
だがIMPを消費した効果だろうか、ノームがドテドテと走ってバルーンボの所まで行き、小さな拳でパンチをし始めた。
ダメージエフェクトは100!
低っ!
ゴミッ!
「ノ、ノームさんや」
《の?》
ドテドテと戻ってくるノーム。その顔はやたら晴れやかだ。
レベルが低いんだろうな。素手攻撃はまったく効かないみたいだ。
だがノームさんを疎かには出来ない。なんたって怪光線の――
「そうだよ、怪光線対策! ノームさん、実はな――」
かくかくしかじかと、バルーンボの裏切り怪光線が恐ろしいのだと説明する。
分かったのか分かってないのか、ノームも腕組みをして頷く。
「穴、掘れるか?」
《む!》
「そうか! じゃあ、土を盛れるか? こう、壁みたいな」
《の?》
ジェスチャーで説明するも、いまいち伝わらない。
《ののの》
「あ? 主のイメージ通りにスキルを作れる? 代わりにIMPをくれ?」
そんな事も出来るのか?
しかしイメージねぇ。
穴を掘る――は、時間が掛かりそうだ。出来れば一瞬で出来る技がいい。
じゃあ、土を盛り上げて壁にする?
盛り上げる程度じゃ怪光線は防げないだろうな。しっかりとした大きさと高さが無いと。
そして一瞬でそれを作り出し、盾の代わりに――
「マジックさん、怪光線だ!!」
「え?」
その時は遂に来てしまった。
バルーンボの目がギラギラと赤く光り、その口からは黒い霧のようなものが吐き出される。
「ノ、ノーム!」
《のののっ》
急いでノームに穴を――いや、それじゃあ間に合わないだろっ。
この時何故か、ログイン前にテレビで見たコントシーンを思い出す。
茶碗をちゃぶ台で防ぐ、あのシーンを。
《お前も一緒にぃぃ、う・ら・ぎ・ろ・う・ぜ!》
ま、まずい!?
ちゃぶ台でもなんでもいい、何か防ぐ方法は!?
《のののののーむ!》
ノーム!?
地面に両手を突っ込んで、何をする気なんだ!?
【ノームの『お任せスキル作成』により、IMPを10消費しました】
何を作ったああぁあぁぁぁぁっ。