126:マジ、精霊と触れ合う。
やっとの思いで人ごみを抜けたが、それでもかなりのパーティーが同じ方角に向って進んでいた。
先行するパーティーがいるせいで、まったく戦闘状態にならない。
「これなら楽してボスの所までいけそうですなぁ」
「うんうん。ココネ、前回はボスの所まで行く前に全滅しちゃって、ボスと戦うのは初めてになりますぅ」
「まぁ俺も一回しか行ってないし、結局攻略できなかったんであんま変わらないですなぁ」
「……裏切り、対策、どうする?」
「裏切り?」
道中、戦闘も無くただただ喋りながら歩くだけの工程。
俺の頭上ときざくらさんの頭上では、ぷぅとピッピがなにやら賑やかだ
ぷぅの言葉は分かるが、ピッピのほうはサッパリ。
分かる方の会話だと――
《そう、あなたはあの時のピッピなのね》
《ピ》
《それで、今のご主人ちゃまと仲良くやれてるの?》
《ピ》
《そう、よかったわねぇ》
と、なんとも姉さん的なぷぅの会話である。
そして人間の方の会話というと……
筋肉あんまん氏もきざくらさんも、バルーンボの所までは行った事があるらしい。だが二人とも、バルーンボを倒すには至ってない、と。
あいつ、そんなに強くなったのか。
「バルーンボのHPが一割削れるたびに『裏切り者光線』ってのを全身から放つんだよ。三百六十度なんで回避するには、障害物に身を隠すしかないんですわ」
「身を隠す、場所……少ない」
身を隠す、か。
確かに椅子と壊れた小船ぐらいしか無いもんなぁ。
しかし光線って、なんなんだよ。
「その怪光線を浴びると体が勝手に動くようになってね。パーティーメンバーを強制的に攻撃するようになってしまうんですわ」
「うげ。マジかよ。抵抗は?」
「でき、る。LUK、高いと、抵抗可」
LUK?
1ですが何か?
ただ装備の関係で状態異常の耐性はある。あったところで他のメンバーが裏切り者状態になれば攻撃されるし……。
「ココネ、盾持ってますけど、盾に隠れたりは出来ませんか?」
「ココネちゃん、スモールシールドでしょ。無理だねぇ、小さいから」
猫耳獣人のココネさん。今手にしているのは杖|(魔女っ子ステッキ)だけだが、盾も持っているようだ。つか、いつでも装備してようね。
だが今の筋肉あんまん氏の返答ぶりだと、大きい遮蔽物を自分で用意するのはありみたいな?
確認してみると、
「出来る。俺がこんなでかい盾を用意しているのも、その為なんですわ」
え、じゃあ行けるじゃん?
「一人、正気でも、意味、無い」
「あぁ、そういう事か」
「じゃあ、全員で筋肉さんの後ろに隠れましょう」
いやぁ、それは正直無理があるような。
「俺が椅子の近くに誘導するんで、俺と椅子に隠れて貰えればいいですわ。まぁそれも結構難しいと思うけど」
「ココ、ネ、さん。最悪、君だけ、隠れて」
「はい! ココネ、隠れますっ」
最悪彼女と筋肉あんまん氏が無事なら、俺ときざくらさんはココネさんからの状態異常解除のスキルでって事か。
まぁそうなるだろうな。
俺も装備効果でなんとか凌げればいいんだが。
結局、雑魚戦を一度もしないまま元ジャックルーム現バルーンボルームへと到着してしまった。
ただ歩いていただけだが、なんか疲れたな。
道中の鍵中ボス部屋に到着すると、見慣れない通路をぐねぐね上って来たんだが、地底湖を通らずここまできてる。ってことは、別のルートがあったのか。
「歩くだけなのに、まさか一時間以上掛かるなんて思いもしなかったよ」
「え? 戦闘が無い分十分早かった方だけど。マジックさんが知ってるっていうもう一つのルートだとどんくらいなんです?」
「えっと……戦闘込みで三十分ぐらい? もうちょい掛かったかな」
戦闘も無く、歩くだけなら十五分もあれば来れそうだ。そう話すと筋肉あんまん氏ときざくらさんが身を乗り出して羨ましがる。
ロッククライミングを習得するから、そのルートを教えてくれと頼まれた。
でもあれを登って下りてしてたら、結局時間掛かりそうだけどな。
そういや……
隠れ里から外に通じてる通路って、岩で塞がったままなんだよな。
もしかしてロックの魔法でぶち壊せるんじゃなかろうか。さっきみたいに。
今度やってみよう。
そんな事を話ししていると、他のパーティーの会話が耳に入って興味を惹かれる。
「穴掘り技能あるから、事前にいくつか浅い穴を掘っておくよ。怪光線のモーションが出たら、そこに飛び込んでくれ」
ほほぉ。穴掘り技能ね。
そういうので攻撃を防いだりもするのか。
「本来は物理攻撃防御用のスキルなんだけど、氷の壁だから光を屈折させれて怪光線対策にならないかしら?」
ほほぉ。氷の壁ね。
それも良さそうだな。
皆いろいろ考えて攻略をしてるんだな。
が、そのどちらも使えないパーティーのほうが圧倒的だろう。
かく言う俺も穴掘り技能ないし、氷属性の魔法だって――いや、氷属性の魔法なんかはそもそもなかったはず。
何かとの合成だろうか。
氷といえば精霊魔法にはあったな。
精霊魔法……おぉ、そうだ!
「ちょっと、少しだけ待っててくれないか?」
「ん? どうしたマジックさん」
「怪光線対策のスキルを作れるかもしれないんだ」
慌ててインベントリから本を取り出し、しおりを挟んだページを開く。
流し読みではカウントされないのはこの三日間で検証済みだ。慌てても、しっかりと目で文字を追わなければならない。
興味津々な様子で三人が覗き込んでいるが、真剣に、脇目も振らずに読まなければ。
注目されているというプレッシャーの中、遂に十回目となる召喚の書読破が成功した!
【『召喚魔法』技能を習得しました】
【『魔物使い』『精霊使い』『死霊使い』から一つ選んで下さい】
迷わず『精霊使い』を選択。
【初期スキル『スピリットコミュニケーション』を習得しました】
メッセージを見ながらガッツポーズを決める。
よしよしよし、これで氷の精霊とお友達になれば!!
って、どこでお友達になれますか?
辺りをきょろきょろして探してみると、足元に掌サイズのドワーフが居た。
いや、ドワーフはドワーフでも、おとぎ話に出てくる七人居るあれのような奴だ。それを更にデフォルメした感じかな?
これ、モンスターか?
「『ロック』」
岩を浮かせ、万が一に備えて構えてみる。
《のーむ!?》
のーむ? 変な鳴き声だな。
ビクっと震えたミニドワーフだが、すぐに興味津々といった様子で俺の周りをくるくるしはじめる。
「マジックさん、どうしたんですか?」
「いや、こいつがさ、モンスターなのかなと思って」
「こいつ?」
足元の奴を指差して説明するが、ココネさんは首を傾げて不思議そうな顔で俺を見ている。
いや、その、なんていうかさ。同情するような、可哀相な生き物を見るような目を向けないでくれよ。
「こいつ、見えない? このドワーフみたいな……」
《のーむ!》
「のーむって鳴いてる奴」
「のーむ? マジックさん、ノームって言ったら、大地の精霊さんじゃないですか!」
大地の精霊、さん?
足元でピョンピョン跳ねてる奴に視線を送ると、こくこくと全力で頷いている。
こいつ、精霊なのか?
召喚の書だともっとこう……ダルマみたいな体型だったような。まぁドワーフもダルマみたいだと言えば、見えなくもないが。
「なるほど! ノームを召喚して、地面に穴掘ったり土壁作らせたりして怪光線対策なんですな!」
「え……そ、そう! ノームならやってくれる!! な?」
《のーむ!》
さっきからのーむしか言ってないから、どう返事したのかサッパリだ。
だが拳を見せてアピールしているし、やってくれるんだろう。
よく分からないが怪光線対策はこれでバッチリだ!