125:マジ、ブーメラン。
「いやぁ噂には聞いていたけど、凄い格好ですなぁ」
いやいや、町中でふんどし姿の男には言われたくないよ。しかもあんた、ぷぅと同じハートのサングラス掛けてるじゃん。
「目立つ……」
ぼそりと呟く酒瓶男。その腰の酒瓶がなければ、確かにあんたは普通かもしれない。
頭の丸い球体はペットのピッピだった。
「えへ。なんだか仮装パーティーみたいですね」
まったくその通りだよ魔法少女さん!
何その魔女っ子ステッキは。
《ぷ》
「あ? 似た者同士が集まったのね? おいおい、似た者って……」
彼らと俺を一緒に――
はたと建物の窓に映る自分の姿が目に入る。
頭――派手な飾り羽根の付いた鳥の巣、inぷぅ。
体――上半身裸マントに斜め掛けしたギター。上半身防具はマントと合成中。ズボンは黒光りする生地で、腰からお尻にかけて黒白の羽根と九本の派手な孔雀の尾羽が垂れ下がって……
おぅ……俺が一番おかしな格好をしていたぜ。
「『テレポート』」
やってきました……ぷぅが風に飛ばされた海岸へ。
隠れ里に一発テレポしようと思ったら、俺以外の全員が未進入エリアだったというオチ。
「あれ? マジックさんは海賊ダンジョン初挑戦?」
筋肉あんまん氏が辺りをキョロキョロしながら訪ねてくる。
「いや、初では無いんですが、皆が隠れ里未侵入だったし、一番近い場所がここだった訳で」
「えぇ〜、隠れ里ってなんですか? ちょっと楽しそうです」
「隠れ、里……ニン」
チャットじゃ普通の応対だたが、このきざくらって人、口数少ないなぁ。なんだよ最後のニンって。
しかし、この反応からすると、三人とも隠れ里の存在を知らないみたいだな。まぁ未侵入だったし、それもそうか。
じゃあ……別の入り口がやっぱあるって事だな。バルーンボを連れて来たシュミットだって、どこからか突然沸いて出たわけじゃないんだろうし。いや、有り得そうだけど。
「結論から言うと、たぶん俺が知る海賊ダンジョンの入り口と、三人が知ってる入り口と、別だろうと思います」
「ほほぉ」
「でもそっちの入り口に行くためには、ロッククライミング技能か、ダメージ覚悟で飛び降りるしか無いんだけども」
「えぇ〜、それ嫌です」
「ロッククライミングは持ってないなぁ」
「同じ、く」
という事で俺の知らない方の入り口へと案内して貰った。
ぷぅが風に飛ばされたところから歩いて十分ほど。
海岸の砂浜が消え、岩で覆われた波打ち際にそれはあった。
ぽっかりと空いた洞窟。
海水が流れ込むその洞窟の周囲には、多くのプレイヤーの姿が。
そして――
「へいいらっしゃい! 攻略前にポーションの準備は出来てるか?」
「風属性付きの武器あるよ〜」
「ふんどし〜。ふんどしはいらんかえ〜」
露店出てるし!?
「あ、あれが入り口なのか?」
「そう。一見すると歩く場所なんか無さそうな感じなんだが、実は壁一枚隔てた向こうに徒歩用の通路があるんだなぁこれが」
「上手く渡らないと、落ちるんですよ」
落ちる?
頭にクエスチョンマークを浮かべた瞬間、まさに『どぼんっ』という音が聞こえて歓声があがった。
見ると、海に向って流されるプレイヤーの姿が……。それを助けようと手を伸ばす仲間らしき姿も見える。
「波、引いた瞬間、行く」
ぽつりぽつりと話すきざくらさん。
お、おう。波が引いた時な。
入り口には列が付き、最後尾に並ぶ。
これ、一人ずつしか入れないのかよ。面倒くせぇなぁ。
壁一枚向こうだってんなら、その壁をちょっと壊して広げたり出来ないのか?
ほら俺、魔法で壁ぶち壊した前科持ちだし、出来そうじゃね?
「ちょっと並んでてくれ。試したいことあるから」
とパーティーメンバーに告げ、最前列へと向う。
「あのぉ、一瞬だけ待って貰っていいですか?」
「は? 割り込みかよ――お、放電の人?」
今まさに壁を跨ごうとしていた人の言葉で、周囲が突然ざわつき始める。
いや、割り込みじゃないですから!
「ちょ、ちょっとだけ、もし上手く行ったらもっとスムーズにダンジョン入れるようになるかも……『ロック』」
唱えて浮かんだ岩を掴み、目の前の壁に叩き付ける。
ずがごっという轟音と共に、壁の一部が壊れた。
い、行けるかも!?
「おおおおぉぉぉ」
「か、壁を壊してるぞ!?」
「そ、そうか。壁を壊せれば直接ダンジョンに入れるのか」
「いいぞもっとやれ!」
ふ、ふふふ。俺の意図を理解してくれたようだ。
声援を受け、俺の拳にも熱が入る。
もう一度だ――
「『ロック!』」
拳をイメージしたその岩は、まさにその形になって壁を削る。
なんか拳を掴んでるみたいで、違和感あるが、まぁいいか。
CTが半減されているのもあって、連続でガンガン打ち出せる。これ、両手で握ってガッツンガッツンやれればなぁ。
すると俺のイメージが反映されたのか、浮かび上がる岩の数が二個に増えた!?
おぉ、俺はやるぜぃ!
「すげぇー。正拳突きで岩を砕いてる……」
「岩をも砕く拳……また伝説が一ページ刻まれたか」
意味不明な声援も混じっているが、細かい事は気にしない。
ガッツンガッツン岩で壁を破壊する事数分、ついに穴が空いた!
二人ぐらいが通れる程度の穴だが、海にどぼんするかもなさっきよりはマシだろう。
「おおぉぉぉ、放電の人マジすげぇ!」
「これからは岩の拳を持つ放電の人だな」
「あんたは海賊ダンジョンを目指す冒険者にとって、英雄だぜ!」
「殴り最強!!」
ふ。人から感謝されるって、いいもんだな。
こうしてダンジョンへの入場がスムーズになり、その結果――
「横殴りすんな!」
「そっちこそもっと離れろよっ」
「得物が全然いねえええぇぇぇ」
「どさくさに紛れて誰か私のお尻触ったでしょ!」
破壊した壁の向こうには下り階段があり、それを下りた先は大混雑になっていた。
プレイヤーの姿しか見えず、モンスターのモの字すら見えない。
「ダンジョン内が大混雑……」
「こりゃ早々に奥へ行ったほうが良さそうですなぁ」
筋肉あんまん氏に言われるまでもなく、目指すはバルーンボである。
人ごみをかき分け、先へと進むのであった。