124:マジ、コスライムを手にいれ……損なう。
「じゃあ行ってくる」
『はい。十分以内にお戻りになられない場合は、強制的に接続を終了いたしますのでお気をつけください』
晩飯を食い終え、お腹を休めるのも兼ねて別荘で読書に励んだ。
その甲斐あって、あと数ページで読破完了だ。残りは明日に取っておこう。
ログイン状態を維持したままヘッドギアを外し、トイレへと向う。
済ませた後、急いで部屋へ戻ろうとしたら――
「彰人、荷物届いてるわよぉ〜」
というお袋の声が一階から聞こえてきた。
荷物? 俺に?
ネット注文した覚えもないし、誰かから何かが届くなんてこともないだろうし。
いったい何だろう。着払い――なんてことはないよな?
「はい、これ。何買ったの?」
「いや、何も買ってないけど……」
「ふぅーん。結構軽いんだけど、なんだろうね」
リビングで荷物を受け取る。
後ろでつけっぱになっているテレビからは、何かコント番組でもやっているようだ。
こんなマズイ飯食えるかーとか言って茶碗を投げるおっさん。それをちゃぶ台返しで防ぐ女装おっさん。。今時そんなネタで笑う奴なんかいねえよ。っぷぷ。
一瞬だけ視線をテレビに向け、直ぐに荷物を確認する。
差出人名義のところには――
「え? う、運営会社?」
差出人名義が株式会社AQUARIaになってる?
い、いったいどういう事だ?
「なになにぃ、お母さんにも見せて」
リビングで荷物を受け取る
がさごそと箱を開ける横でお袋が興味津々そうに覗き込む。
ぱかっと開けた箱の中には、和紙のような物に包まれたピンク色の物体と、ぷちぷちに包まれた小さな硬い物体とが入っていた。
「ぬいぐるみ?」
「え? 人形なのか、これ?」
「そう見えるけど?」
お袋が掴んで包み紙を捲ると、そこにはなんとなく見慣れた物が……
ピンク色の、コスライム!?
「え? なんでコスライムが?」
「あ、手紙入ってる。はい、どうぞ」
渡された手紙には、【Imagination Fantasia Online】チーフマネージャーだという人からの詫びだという内容が書かれていた。
どうやら公式画像掲示板での一件と、劇的のプロモーション動画でうんピー騒動の件でのお詫びらしい。
しかも手書きで、読みやすい字だ。
あとお詫びとは別に、劇的ロビー案のお礼やプロモーション撮影協力のお礼として、商品として用意した物と同じ物をお贈りします――とかも書いてある。
なんかマメな運営だなぁ。すっげぇ好感が持てる。
贈られてきたこれって、1/1サイズのコスライムクッションか!
野球ボールよりちょい大きいぐらいのビーズクッションだな。
うん。尻に引くにはあまりにも小さすぎる。
でも鷲掴みした感触はいいな。
これを――投げる!
「ちょっと、アキト、なんでいきなり捨てるの!?」
「……一発でゴミ箱に入った……いや、捨てないから」
捨てる気はまったくないのに、思わず投げたらゴミ箱っていう。
お袋がゴミ箱から拾上げると、そのままポケットの中に入れやがった。奪い取る気満々だな……。こうなるともうダメだ。お袋の物になってしまう。
「こっちは?」
と言って今度はぷちぷちに包まれた方を所望しはじめる。
中身はコスライムキーホルダー。
レッド、ブルー、グリーン。そして五色のコスライムキーホルダーと、全種類揃っている!?
「お母さんこれがいい!」
と言ってグリーンを掴み取るお袋。
そうですね、あなたは緑大好きですもんね。
「車のキーに付けたいから、頂戴」
「はいはい、どうぞ」
「じゃあお父さんは青ね」
親父、まだ帰って来てないし。つか持たせる気満々だし。
手元に残ったのは赤と五色のコスライム。
手紙と二つのキーホルダーを手にし、自分の部屋へと戻った。
どうせならプレイチケットも同封してくれればよかったのになぁ。
「よいしょっと」
カポっと被ったヘッドギアの画面は暗く、【強制切断いたしました】という白い文字だけが表示されていた。
『お帰りなさいませ。長いお手洗いでございましたね』
「ちげーよ。荷物が届いていたんだ」
『荷物?』
届いた物を説明すると、『あぁ』と納得した顔。
『チーフさんがお礼のお手紙を添えて、販売物を贈ったそうですし』
「やっぱり売り出す気満々かよ!」
『よろしければお手に取った感想など、レビューを頂けると販促にも繋がりますので、よろしくお願いいたします』
どこまでも商人根性丸出しだな。
だいたいどこに感想を書けと。
まぁいい。お袋に取られたし、感想なんて特にないさ。
掴んだ感触はまぁよかったけどな。
「じゃあゲームに行ってくる」
『いってらっしゃいませ』
ログインしたのはファクトの町の中。
再び冒険者ギルドへ向かってパーティーの募集を再開する。
【海賊D攻略パーティー募集】
【募集主:前衛魔法火力職】
【募集内容:タンカー、ヒーラー、他火力】
よし、登録っと。
ドキドキしながら貯まったペットフードを委託販売へと持っていく。
売り出す傍から売れていくペットフードたち。安定して売れるなぁ。
完売通知がシステム音と共に流れるが、パーティーのほうはうんともすんとも言わない。
はぁ。フレンドリストから誰か誘うかなぁ。
って見たら、ログインしてるのはシースター一人だけ。
あいつは生産メインだし、ダンジョン攻略に誘っても迷惑だろうな。
あ、杖のお礼あんまりできてないわ。
レジェンド製造で禿げさせたし、なんかお礼しとかないとなぁ。
その為にもバルーンボを攻略して、素材ゲットせねば!!
でも誰も来てくれなぁ〜い。
はぁっと肩を落として冒険者ギルドを出ると、唐突にその時は訪れた。
ピコンっというシステム音と同時にチャットウィンドウが開く。
『筋肉あんまん:今大丈夫ですか? パーティー募集を見たんですけど』
おぉ、第一メンバーきたこれ!?
しかし筋肉あんまんって、食いたくないあんまんだな。
大丈夫だと返答を返し、待つこと数秒。
再びピコンと音が鳴り、別のプレイヤーからのチャットが入る。
『きざくら:短剣使いですが、パーティーオケですか?』
『彗星マジック:okです。今別の人からもチャット来てるんでちょいお待ちください』
最初に反応のあった筋肉あんまん氏に、職業を尋ねる。
『筋肉あんまん:防御特化のタンカーです。武器は斧ですが、盾持ちです』
という頼りになる返答が返ってきた。
盾持ちか。いい肉壁になりそうだ。筋肉なだけに。っぷぷ。
程なくしてネトゲ初心者だというヒーラーもゲット。まぁ俺も回復できるし、カッチカチもあるから大丈夫だろう。
昼間と違い、アッサリ揃ったな。
ふ、やっぱり昼間のはたまたまだったんだよ、たまたま!
システムのコミュニティーにあるパーティー募集掲示板状況。ここから参加表明した人にパーティーを飛ばすことが出来た。
いやぁ、楽だな。
パーティー専用チャットを使えば、メンバー全員が見る事が出来る。
『彗星マジック:じゃあ冒険者ギルドの裏手あたりで集合でいいですか?』
『筋肉あんまん:ok』
『きざくら:その辺にいます』
『ココナ:は〜い』
俺も急いで建物の裏手に回ると、そこには――
右手にやや小ぶりの斧を持ち、やたらでかい盾を背負ったふんどし姿の男と、
頭に青い球体を乗せ、一升瓶を左右の腰にぶら下げた軽装備の男と、
どっピンクなふりっふりな服を着た、魔法少女が、
何故かこちらに手を振りながら立っていた。
俺、仮装パーティーを募集したつもりは無いのになぁ。