122:マジ、魔王になる(嘘)。
「『テレポート』」
やって来ました隠れ里!
今日もせっせと岩山を登る練習をしている村人。彼らがここから脱出できるのた、いったいいつの日なのか。
未だ十メートルも登れてないし。
頑張る村人を横目に、俺はロックンピーコックの巣へと向う。
正しくはチュンチュンの巣、だが。
「よ、チュン」
《チュンチュンチュンチュン》
「はっはっは。そんなに俺と会えて嬉しいのか。はっはっは。はは……はぐぶっ」
チュンチュン数十羽によって全身を覆い尽くされた俺は、一瞬、死んだじいちゃんが見えた。
《ぷ! ぷぷぷ、ぷぅ〜ぷぷぷぷ!!》
《チュン!?》
《チュチュン!!》
ぷぅの一喝によって俺が窒息死し掛けているのに気づいたチュン達が、慌てて俺から離れていく。
あぁ、ちょっと気持ちよかったんだがなぁ……ふふ、俺ってマゾいんだろうか。
チュン達の大合唱を背に、海賊ダンジョンへと入っていく。
レジェンドとレア、二本の杖による破壊力を確かめる為にだ。
あと、ボスが本当に配置されているのか確認をする為に。シンフォニアは別のボスが君臨すると言っていたが、本当かどうか気になるし。
もし居なかったら、俺たちのせいだもんな。
そう、別に俺一人のせいじゃないし!
階段を下りて一番に目にしたものは――
「コスライム?」
《ぷ》
「え? 違う? うーん……あぁ、確かに違うな。けど、前回来た時ってこんなのいたか?」
地面をもぞもぞ動くゼリー。コスライム――よりでかい、ゼリー体。
たぶんこいつがスライムなんだろうな。大きさはコスライムが野球ボールよりちょい大きいぐらいだが、目の前のはバレーボールよりちょい大きい。
じっと見つめてモンスター情報を出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇
シースライム / LV:30
◆◇◆◇◆◇◆◇
うん。スライムだ。色は水色で、シーと付くから水属性だろう。
毬栗サンダーの餌食にしてやるぜ!
こちらに気づいたスライムが動き出す。どうせぬるぬるとやって来るんだろ。
待っててやるよ――って居ない!?
「ふごっ」
みぞおちに強烈な頭突き(?)を食らってしまった。
ぐ……こいつ、早い!?
全然ぬるぬるではないスライムは、すすすぅーっと動いてはばうんっと弾んで、今度は顔面に向って来やがった。
「二度も食らうかあぁぁっ!」
ぐわしっと鷲掴み……わ、わし……
「うぉっ。意外とでかくて掴み難い!」
《ぶるるん》
《ぷぷぷぅ〜》
何? 掴む事に拘るな?
いやいやいや、コスライムシリーズとのタイマン勝負はこうでしょ。
あ、こいつコスライムじゃないんだった。
だが慣れた戦闘スタイルを今更変える気はない。
意地でも掴んでやる!
ぎゅっと掴むと――ぬるんっと抜けてしまう。
軽〜く掴むと――するんっと抜けてしまう。
「く……奥が深いぜ鷲掴み!」
《ぷふぅ……》
地面に降りて呆れ果て座り込むぷぅ。
ハートのサングラス掛けて大きな腹に羽を沿え座る姿は、ビーチでバカンスを満喫するおっさんみたいだ。
だが残念ながら、海には近いがここは洞窟。
モンスターだって出てくるし、バカンスどころではない。
ん?
大きな腹を左右の羽で抱えている……左右……
「そうか! 片手で掴めないなら、両手で掴めばいい!! ぷぅ、感謝するぜ!」
《ぷ? ぷっぷぷぷぷぅ。ぷぷぅ〜?》
え?
感謝するなら、新しい味のペットフード作ってよ?
お前が美味いっていうから、同じ味のを作ってやってたのによぉ。贅沢者め。
けどまぁ新しい味の開発も悪くないな。いろんなエリアに行って、いろんな物拾って合成するのは、案外楽しい。
たまにゴミになるが。
ま、それはさておき――
「くっくっく。観念しろ、スライムめ!」
《ぶるるるんっ》
ぼよんっと跳ねてきたスライムをドッチボールさながらに両手でキャッチ!
ぐわしっと掴んだスライム相手に、そのままサンダーをお見舞いする。
「どうだっ。逃げられないだろう。くくくく。痺れるがいい!! はーっはっはっはっは」
《ぶ、ぶぶる、ぶるるん。ぶぶぶぶ――》
最後にはぱんっと弾けてデータの藻屑となってしまった。
うん。
なんか俺。
魔王みたいだったな。
ちょっと、か・い・か・ん。
スライムの他、バットンとかいう蝙蝠モンスターとパッカンという二枚貝のモンスターがこのエリアには生息していた。
前回見たミニサハギンの姿は見えない。
もしかして、ジャックが成仏した事で中身のモンスターが入れ替わったのだろうか。
まぁどっちにしても蝙蝠以外は水属性なので、俺の毬栗サンダーは火を噴くぜ!
雷なのに火とはこれいかに! っぷぷ。
され、地底湖はどうかなぁ。
あのおかめ、ビジュアル的にノーサンキューなんだけども。
湖の辺にしゃがみ込んでじぃっと見つめる事数秒。
《ぬふ》
「『雷神の鉄槌・トォォルハンマアァァァァッ!』
《ぬふうぅぅぅぅぅっ》
「うおりゃあぁぁっ、毬栗『サンダァァァァッ』」
《ぬふきゃあぁぁぁっ――》
「きゃあーとか悲鳴上げてんじゃねえぇぇ『サンダアァァァフレアァァァッ!!』」
あ、毬栗サンダーの時点で死んでたのか。
ふ……MPの無駄使いをしちまったぜ。
《ぬふ》
「あ?」
《ぬふふふふ》
《ぬふふん》
《ぬふふふふん》
《ぬふん》
《ぬふんふん》
《ぬふぅん》
《ぬふふふんふ》
《ぬふぅぅん》
《ぬふ――》
「ああぁぁぁぁぁぁっ」
追加十体かよ!
今範囲ぶっぱしたばっかりだってのにぃー。
慌てて後ろに下がって距離を取る。
「『カッチカチ』やぞっ。さぁ、こい!」
……。
……あれ? 来ない?
《ぬふふん》
湖面から顔だけ出してじっとこちらを見つめるおかめたち。
もしかしてこいつら、水から上がれない、とか?
まぁ顔面はアレでも、一応人魚らしいし? 認めたくないが。
「ふふ。ふふふふふ。そうか、お前ら、水から出れないんだな?」
《ぬふ!?》
「ふはーっはっはっは。図星だろう? ええ?」
途端、おかめたちの顔が青ざめる。
くく。水から出れないってことは、近づけないってことだ。
こちとら魔法使いだぜ! 魔法使いってのはなぁ……あれ?
サンダーを唱えてみる。
放電する電気の球は俺の右手掌の上で静止。
おかめ目掛けて投げてみる。
天井に当たった。
同時に【『近魔―命、大事に――』技能がレベルアップするのに必要な蓄積経験値がリセットされました】というメッセージが浮かぶ。
「やっぱり当たらない……そのうえまた経験値がリセット……」
改めて実感する。
俺はノーコンなんだと。
「あぁあああぁっ!」
《ぬふふふふふふふ》
「笑ってんじゃねぇぇぇっ!」
一瞬のうちにふんどしへと着替え、だだだだだっと走って水に入り、渾身のトールハンマーを叩き込んだ。