111:マジ、輝く拳で悪を打つ。
《ぶひひひひっ。死ねっジャックウゥゥ》
幽霊にも関わらず、どすどすと地響きを上げながら、案外ゆっくりと走ってくるバルーンボ。
太り過ぎたんだろう。幽霊になってまでその業を背負わなきゃならないなんて、不憫だ。
そんなバルーンボに対しジャックは、
《いや儂等、もう死んどるから》
と真顔で答えている。
天然か? 天然キャラ設定なのか?
そこへ――
「喰らうがいいっ『グランドエッジ・ブリリアントヘルファイア!』」
魔術師――確かシュミットとかいったっけ?
これまたなんつぅスキル名だよってな魔法が炸裂する。
エフェクト効果も凄い。
炎が渦巻いて出現したかと思うとパーンッと弾け、何故か薔薇の形に。次の瞬間、花びらが舞って鋭利な刃物のように海賊ジャックへと飛んでいく。
《あじじじじじじじっ》
《ぶぎぎぎぎぎぎっ》
運悪くというか、ジャックの傍まで走ってきていたバルーンボも巻き添えを食らっている。
「っぷぷ。おいおい、仲間を攻撃してるぞあいつ」
「フレンドリーファイアは未実装ではあるが、そもそもバルーンボはモンスターであり、魔術師のシュミットはプレイヤーだからな。こうなるのは目に見えている」
「インディーさん、あの魔術師さんをご存知なんですか?」
「ん? まぁな。ちょっとした有名人だからな」
ほぉほぉ。有名人なのか。
唐突に始まったジャックvsバルーンボ&シュミットの戦い。
呆然と見ている訳にもいかないか。
きっとここでジャックを助ければ、お礼にお宝をくれるはずだ!
「皆、ジャックを助けるぞっ!」
高らかに宣言すると、セシリアはキラキラした目で頷き、他の連中は唖然としている様子だった。
おいおい、キリキリ働こうぜ?
「助けるといっても、どうやって?」
「決まっている! あのバルーンボと悪の魔術師を倒せばいいのだ!」
「いや、セシリアさん……。バルーンボのほうはともかく、魔術師はプレイヤーだし、倒せないぜ?」
確かにな。
だがバルーンボは倒せる訳だ。
まず俺たちが全力で奴を倒す。この際シュミットは無視だ。
バルーンボを倒してから今度はジャックが全力でシュミットを倒せばいい。
中ボスに完敗したような奴だ。ジャック一人でも倒せるだろう。
「という訳なんだ。ジャック、お前はなるべく後ろのほうに後退していてくれ」
《それしかないのか……バルーンボよ、今からでも遅くは無い。仲直りしよう。な? お互い幽霊の身じゃし》
《お友達面するのはやめろっ。貴様はいつだってそうだ。良い人面しては女どもにキャーキャー言われ、デブな俺に優しい言葉を掛けては仲間からの信頼を集め――全部演技だったんだろう! 人気者になるためのなぁっ》
その言葉を聞いてジャックは首を傾げる。
だから可愛くないんだしやめろよ!
どうやらジャックは素でお人好しっぽいな。
いや、海賊やってたんだからお人好しってのも変だけれど。
《お前のそのしらばっくれた顔、俺様は嫌いだったんだよ!》
そういってバルーンボの体が膨れ上がる。正真正銘、バルーンになった訳だ。
《おぉ、いかん。奴が怒りに任せて転がってくるぞ》
「え? 転がって?」
と言う間にも、奴がその場で高速回転しはじめ、ギュルギュルと音を立てながら転がってきた。
って、あぶねっ!
間一髪のところで回避できたが、間に合わなかったのが約一名いた。
「し、死ぬ……」
「気をしっかりもて、フラーッシュ!」
「いや、そうじゃなくって……ヒールミープリーズ」
「うわぁぁぁ、フラッシュゥ〜」
「だから、ヒール……」
僅か一撃でフラッシュが死んだ。
いや、死にかけた。
俺とルーン、ノーリスの三人でヒールを掛け、なんとか命を繋いだフラッシュ。
やばいな。
あの攻撃を食らったらセシリアとインディーさん以外は、恐らく一撃で瀕死になるぞ。
いや、装備によるHP補正の事を考えると、軽装であるフラッシュは布装備の俺やノーリス、ルーンよりは高いだろう。
ヘタしたら即死!?
《やるなら今の内だ! バルーンボのあの攻撃は、自分も目を回すという諸刃の剣技だからの》
「え? マジ?」
見てみると、壁に激突したバルーンボがそのまま目を回して頭上にヒヨコを浮かべている。
だったら――
「はっはっはっ。この日の為に作った、俺の最強最大魔法――とうっ『シャイニングゥー……」
だだだだっと走り、全力で跳躍する。
光という光を掻き集めるかのごとく右拳が輝き、熱すら感じるほどに。
「フォース……」
弧を描き跳んだ俺が、その頂点に達したとき――集束された光が解放された。
《あいだだだだだだだだ》
「フィンガァァァァァァ!!』」
落下しながら今だ目を覚まさないバルーンボに向って右拳を突き出す。
だがここは「フィンガー」なので、拳を解き、奴の――えーっと、顔面を掴みたいがでかすぎてそれは無理。
なら……鼻! そう、鼻なら丁度いいサイズじゃないか?
突き出た鼻をもにゅっと鷲掴みすると、光が炸裂して奴にダメージを与える。
《ぬおおぉぉぉぉぉぉっ。ひ、光だ。光があぁぁぁ》
さすがに目を覚ましたようだな。
鼻から手を離して奴の顔面を蹴り、地面へと舞い降りる。
ふ、決まったぜ。
「マジック君。さっきの攻撃でジャックにもダメージがいったようだぞ」
「え!?」
「彗星マジック君……さっき俺が言ったばかりじゃないか」
振り向くと、ジャックが俺を見てすこぶる怯えていた……。
そういやさっき悲鳴が聞こえてたな。バルーンボは目を回していたし、悲鳴はジャックからだったのか……。
「す、すまん」
《ダークエルフ怖い。ダークエルフ怖い》
「いやいやいや、怖くない。な? 怖くないから。今度から気をつけるからさ。お前も少しバルーンボから離れててくれよ」
ダークエルフ怖いと連呼しながら、ぷるぷる震えるジャック。
そんなにか、そんなに怖いのか!
「はーっはっはっは。仲間割れか。見苦しいな! さぁ、朽ち果てろっ『クールダンシング!』」
「お前が言うなっ」
シュミットが再びジャックを狙って魔法を放つ。
が、広範囲攻撃のようで、これまたバルーンボを巻き込んでいた。
《さむさむさむさむっ》
《つべたっ!》
「ああぁぁぁぁ、しまったぁ」
「っぷははははは。お前も学習能力が無いな」
「だ、黙れ! 狙っているのはジャックのみっ。バルーンボ、邪魔だ!! 『ライトニング・ローズ!』」
青い稲妻が線となってジャック目掛け飛んでいく。そしてジャックの目前で薔薇の形を描いていった。
だが薔薇を細かく描き過ぎている。
遅い。
「ジャック、今のうちに逃げろっ」
「というか、バルーンボを盾にすればいいんじゃね?」
「ジャーック、バルーンボを抱えて薔薇の前に立たせるんだぁー」
皆が叫ぶとジャックは我に返って素早くバルーンボと位置を入れ替える。
当のバルーンボのほうはその太った体のせいか、反応がやや鈍い。
ようやく完成したっぽい閃光の薔薇が光り――
「あ、マズい! おい、卑怯だぞっ」
「いやいや、そんな発動時間のかかるようなスキル作るほうが悪いんであって」
「ボクの華麗な技にケチを付ける気か!」
とか言い争っている間に、
《ぶぎやあぁぁぁぁっ》
バルーンボの悲鳴が聞こえた。