108:マジ、悪魔になる。
《ぬふ》
投げ落とされたのはパイレーツの背後。水深一メートル程しかなく、落下によるダメージで俺のHPは半分程吹っ飛んだ。
そこへおかめが出迎える。
なんていうか、地獄に落ちたような、そんな精神ダメージだ。
「ぬおおぉぉぉつ『雷神の鉄槌・トールハンマー!』」
立ち上がって真っ先にトールハンマーを食らわせる。
「ふひーっ。『ヒール』、それでもって『ロックっ』」
ノーリスの声が聞こえると、後ろから小粒の石が飛んできておかめの顔面を強襲する。
おかめの顔が腫れても、おかめに変貌はないな。それ以上腫れさせようがないのか。
なんて感心している場合じゃないな。
早いところおかめを倒さないと、パイレーツをどうこう出来ないからな。
背後を振り返ると、パイレーツ――『彷徨えない鍵守の中堅パイレーツ』と対峙している四人が見える。
と言っても、四人はまだ上の通路にいて、パイレーツの気を惹きつけているだけだ。
パイレーツが大きいのもあって、弓や遠距離からの魔法攻撃なら当たるだろう。
だがそれをすると、あっという間にダメージヘイトでフラッシュが死ぬ。
なんせ前衛の三人、特にセシリアとインディーさんはヘイトスキル以外使えないからな。インディーさんに至っては、ヘイトスキルそのものを持ってないし。
だからって下で戦えば、おかめの状態異常の餌食になってしまう。
比較的抵抗力のある俺とノーリスで先におかめを倒さなきゃならないって訳だ。
「絆創膏『ヒール』。そして『サンダーフレア!』」
水属性のおかめに火属性攻撃はほとんど効かない。
が、トールハンマーのダメージヘイトで集まってきたおかめを、まとめて雷属性の餌食にするにはサンダーフレアが効果的だ。
バリバリバリっと音を立て燃え上がる火柱におかめ達が突っ込んでくる。
見た目が完全に『火』だからな。余裕かまして突っ込んできたおかめ達は、次々と感電していった。
そこに小石が降って来て顔面を直撃。
ノーリス。随分とおかめの顔ばっかり狙っているな。だがナイスだぜ。
よし、俺も――
「『ロック!』」
呪文を唱えると、湖底から石がぼこっと浮かび上がり、その石を鷲掴みして目の前の感電したおかめに振り下ろす!
がすっという音と共に、おかめが光の藻屑となって消えた。
よし、残り四匹だ。
「す、彗星さん……なんですか、その魔法……」
「ん? ロックだが?」
掴んだままのロック石をそのまま次の得物に向って振り下ろす。
が……やっぱり単体魔法だから二匹目までは殴れないか。
直前で石が砕け散り、石の代わりにおかめの顔面を鷲掴みしてしまった。
ダメージは85か。鷲掴みの固定ダメージと怪力による二倍効果で結構出るもんだな。
塵も積もればなんとやらだ。ちょいちょい鷲掴みも挟むかな。技能レベルが上がれば、固定ダメージも増えるしな。
「ってことで、食らえ! 毬栗『サンダー!』からの――」
毬栗でおかめを殴り飛ばし、そのままぐわしっと顔を掴む。
これで残り三匹。
ファイア――はさすがに効果が薄いので使わず、ロックとサンダーを交互に使って二匹を倒す。
その間、後ろからの援護は飛んでこない。
「おいおいノーリス。お前も殲滅手伝ってくれよ」
「へ、あ、すみません。彗星さんの戦い方がその……いろいろと予想外でして」
「予想外?」
再びロックを唱え石を掴む。
お、なんか岩が少し大きくなったような?
ノーリスの言葉に思い当たる節といえば、やっぱりゼロ距離から魔法をぶっぱするスタイルだろうか?
まぁ珍しいよな。普通は後衛火力職なんだし。
それが前衛よろしくってな程、敵と至近距離で戦ってんだもんな。
でもな……
「俺、ノーコンだからこの距離からしか当たらないんだ」
「ノーコン……ですか?」
首を傾げるノーリスに頷いて見せると、最後に残ったおかめに向って毬栗サンダーをお見舞いする。
全てが光の藻屑となると、振り返って仲間に声を掛けた。
「よぉし。では行くぞっ」
「うむ!」
「あの、でも、ボクはどうやって下りれば?」
とか言っているルーンを、インディーさんがひょいっと担ぎ上げる。
「フラッシュ君。君はここから攻撃したまえ。届くだろう?」
「え? いや、まぁ、崖撃ちが可能なら――」
「出来なかったときは俺が迎えに来よう。とうっ!」
「あああぁぁぁぁぁっ」
ルーンの悲鳴が聞こえる。
インディーさんはルーンを背負ってそのまま崖を下りて来た。
下りてすぐに短剣を引き抜くインディーさんだったが、その攻撃はあっさりと海賊をすり抜けてしまう。
「しまった。こいつはアンデッドはアンデッドでも、実態を持たないゴースト系か!?」
「じ、じゃあ……せ、聖属性を、ふ、付与、しま、す。『ホーリーシンボル』」
ふらふらのルーンがインディーさんの短剣に触れると、その刃がぱぁっと白く輝きだす。
ほほぉ。エンチャント系のスキルを持っていたのか。もしくは作ったか?
「よぉし。これで行けるっ」
「持続時間は三分です。アイコンにカウントが表示されていると思うんで、残り二十秒ぐらいで教えてくださいね」
おうっと掛け声を掛けるとインディーさんが再び攻撃を開始する。
今度はしっかりヒットし、数回斬り付けたところで海賊のターゲットが彼に移った。
「よし、行くぞウミャー!」
《ウ゛ミ゛ャー》
ウミャー、凄く嫌そうである。
震えるウミャーを乗せたまま、セシリアは物凄い速さで崖を降りてきた。
そして再度、ヘイトスキルで海賊のターゲットを戻す。
上手く立ち位置をくるりと変え、壁際に海賊を押し付けた。
海賊の正面にセシリア。右に俺とインディーさん。左にはルーン。セシリアの斜め後方はノーリス。そして崖の上の窓からフラッシュの卑怯な崖撃ち。
トライアングル、プラスアルファ陣形!!
『彷徨えない鍵守の中堅パイレーツ』レベル26。アンデッドモンスター、不死属性。
アンデッドモンスターってことで、聖属性や火属性が苦手になる。
不死属性だと純粋な物理攻撃が効かない、いわゆる幽霊モドキだ。
魔術師である俺には関係ないけどな。
ルーンはセシリアの大剣にも聖属性を付与し、更に自分の巨大十字架にも属性を付与。
あの十字架で幽霊ぼこるとか、どんだけカッケーんだよ。
まずはファイア・ソードでぶった斬り!
ダメージ四桁は無理か。いくら火が苦手とはいえ、聖属性に比べると幾分か耐性があるもんな。
「とおぉぉっ、やあぁぁっ」
横から気合が入っているのか、抜けているのかよく分からない声が聞こえてくる。
身の丈ほどもある大きな両手剣を振り回すセシリアだ。
いいなぁ。聖属性が付与されてて。
通常攻撃でも俺のファイア・ソードと同等。スキルを使えば四桁ダメージだ。
まぁ海賊の残りHP見る限り、四桁ダメージでも1%削れたかどうかだけどな。
こうなりゃ手数で勝負だ!
毬栗サンダーにロック、サンダーフレアとトールハンマー。
あ、そういやライトって攻撃魔法だったんだっけな。懐中電灯代わりに使ってたもんだから、すっかり忘れてたぜ。
「うおおぉぉぉっ『ライト!』」
《オオォオォォォォオォォッ》
懐中電灯の先端で、奴の踝あたりをゴツっと殴りつけると、意外なほどに効いた。
聖属性だからだろうか。それとも踝だったからだろうか。
だが頭を抱えて呻いているあたり、ダメージはそっちにいったのか?
「彗星マジック君。今君の尾羽の――八番目が……」
「八……え、禿げ?」
《オオオォォォォォォォォッ》
頭を抱えている海賊の頭頂部が……禿げている!?
半透明だけど、はっきりわかるぞ。
まるで落ち武者のような感じで、てっぺんだけが禿げている!
「こ、これって、人型モンスターにはこういうグラフィック効果があるのか」
「な、なんてえげつないっ」
「禿げただけではないか。ドロップが増えるほうが私は嬉しいな」
鬼がいる!
海賊に同情しそうだ。
でもまぁ、確かに禿げただけなら、デバフとして何の効果も無いよな。
「そんな事ないぜ。こいつのMP見てみろよ。毎秒で減っていってるぞ」
「「え?」」
頭上から卑怯な崖撃ち戦法のフラッシュの声が聞こえてきた。
言われて見てみると、確かに海賊のMPが少しずつだが減っていっている。
これって……
「精神ダメージってことなのか?」
「禿げる上にMPがゴリゴリ減るとか、本当にえげつないデバフだなぁ」
雑魚戦では気づかなかった。
いや、たぶん雑魚のMPが少なすぎて一瞬で空になったとかで気づけなかったんだろうな。
これ、なかなかいいじゃん!
「くふふふふふ。さぁ、海賊よ。禿げさせてやるぜ!」
《ノオオオォォォォォッ》
*セシリアの容姿に関する描写不足がありましたので、第3話セシリア登場シーン、第105話のセシリア水着チェンジシーンに加筆を加えました。
現在のダンジョン回が終わりましたら、登場人物紹介を書こうと思います。