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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
107/268

107:マジ、落ちる。

《ぶぶぶぶぶぶぶぶ》

「――という訳で、壁に穴が空いた」


 事の成り行きを説明している間、ぷぅは俺の肩に乗って突きまくっている。

 翻訳すると――あたちが居るのにハーフエルフの小娘見て鼻の下伸ばしてるなんて許せない!――だそうだ。

 お前の方が明らかに小娘だろうと言い返したが、あたちはもう立派なレディーよと更に突かれる始末。


「つまり、俺たちが流されてたのはマジック氏のせいだ、と」

「おかめも流された。俺のおかげでな」

「ものはいいようですね」


 おかめ達はあっさり流されてくれたお陰で、今は水中でも安全が確保されている。

 壁に空いた穴のところまで水位も下がったので、水の流れも止まった。これで安心して横穴まで歩けるぞ。


「おーい。こっちの穴の向こうにも通路があるぞーっ」

「え?」


 空いた穴の所でインディーさんが叫ぶ。

 ばしゃばしゃと歩いて行くと、そこは若干深くなっていて腰の少し上まで水が来た。


《ウ゛ミャー》

「こ、こらウミャー。暴れるな! うぶっ」

「大変そうだなセシリア。お前、身長低く作り過ぎなんだよ」

「う、五月蝿い! これは私の素の身長だ! もう少しで百五十センチなんだからなっ」

「そ、そうか。と、とりあえずウミャーはこっち来るか?」

《ウミャ!》


 あっさり俺の肩に乗るウミャー。よっぽど安定感が無かったんだろうな。

 肩の荷が下りたことで、セシリアもほっとして歩き出す。彼女の場合、肩のあたりまで水がきているから、ウミャーを抱えて暴れられると水を飲みそうだった。

 ようやくインディーさんの下にやってくると、確かに穴の向こう側が通路になっていた。

 こちらも壁にランタンが掛けられているが、なんとなくだけど器の形がこう……オシャレというか豪華みたいな?


「なんだかこっちの道って、今までのと比べると明らかに造りが違いますね」

「そうだな。ここから先はまさにお宝に通じる道! そんな気がしないかねっ」

「インディーさん、楽しそうですね」

「冒険家の血が騒ぐとか、そんな感じか?」


 この中で一番老け顔……いや寧ろ唯一老け顔と言ってもいいインディーさんが、一番子供っぽい反応だ。彼はうきうきしながら通路に足を踏み込むと、辺りをキョロキョロしはじめる。


「よし、罠は無さそうだ」

「罠?」


 罠探知スキルでも持ってるのか?

 そういやぁ、発見の技能って罠を見つけたりとか、そういうのは出来ないのかな。

 地底湖から通路に出る手前で周辺をじぃーっと見つめてみる。

 あ、インディーさんが罠は無いって言ったんだし、見つかるわけないか。

 はっはっは――あ、なんか小さく光ってる所発見!?


 わ、罠か!?


 ゆっくり近づきよぉーく見てみると――


「鍵穴? なんだろうな、これ」

《ぷっ》

「え? おい、ちょ! 置いていくなよっ」


 鍵穴に気を取られているうちに、他の五人は既に通路に出て歩きだしてるってもうねっ。






 通路はそれまでの作りと大きく変わっていた。

 今までは土がむき出しで、ランタンも受け皿にガラスで蓋をしただけに見える質素な物だった。が、ここは違う。

 床は石畳だし、壁は下部が煉瓦でその上はコンクリートっぽく見える土壁だ。ランタンとか、これ盗んで売ってもお金になりそうな、綺麗な細工の施された物になっている。

 インディーさんじゃないけど、お宝の匂いがぷんぷんするぜ。


「なぁ、これ雑貨屋に売れないかな?」

「フラッシュ君。そういうのを泥棒というのだぞ」

「……すみません、セシリアさん」

「わかればよろしい」


 危ねぇ。俺が言おうとしたことをフラッシュがフライングしてくれたお陰で、俺が説教されずに済んだぜ。


 暫く歩くと奥から物音が聞こえてきた。

 鉄と鉄とがぶつかるような音から、何かが爆発するような音……先客でもいるのか?


 道は一本しかなく、どこにも枝分かれしていない。

 なので音の方向に向って必然的に進むことになる。


「あ、あそこ」


 ルーンが見つけたのは、通路にぽっかりと空いた窓――というか穴?

 まるで外を覗いてくださいと言わんばかりのその穴を覗き込むと、窓の向こう側は広い空間が続いていた。

 俺たちの目線はその空間の天井付近にある。下を見ると、十五メートル以上ありそうだ。

 窓の直下は小さな湖になっていて、その中でやや大きなモンスター一体と、それと戦うパーティーが見える。


「あれってボスモンスターだったり?」

「大きさからするとそうだろうな……。先を越されていたとは、残念無念である」


 はぁ……マジかよぉ。ここまで来てボスが食われるのをただ見てるだけとか……。

 でもやる事も無いので、六人して窓から下で行われている戦闘をじっと見るしか無かった。


「ちょっと遠いからモンスター情報も見えませんね」

「んー、ネームド部分が漢字だから判別できんが、名前だけなら……パイレーツ、だな」

「うわぁ、やっぱ海賊ボスじゃん!」

「っていうか、よく見えるなあの文字が」


 他人と戦闘モードに入っているモンスターの頭上には、そのモンスター名とレベルが無条件で表示される仕様になっている。

 これで他人と得物が被らないよう、ちゃんと確認してね☆ミ という開発の意図があるらしい。

 が、文字の大きさなんかは固定だから、遠くから見れば当然小さく見えるわけで。


「『鷹の目』という技能を使っているからね。離れていてもそこそこ見えるものだ」

「あぁ、なる」


 そういやザグがそういう技能持ってたな。楽して習得できる方法も教えてもらっていたけど、俺もそのうち取ってみよう。


 眼下に広がる大きな水溜りとも言える大きさの湖で繰り広げられる戦い。

 パーティーのほうは膝ぐらいまで水に浸かって戦っているが、全員普通の装備だ。

 ふんどしに着替える前、ルーン達が言った「鈍足効果」ってのが作用しているんだろうな。見るからに動きが遅い。

 水から出ているのは後衛の魔術師とヒーラーの二人だけで、普通に動けているみたいだな。


「全員、水着を持っていないのだろうか?」

「まぁオープンベータやってなかったら、福袋ガチャを貰ってないだろうしね」

「課金してガチャ回すか、アバター買うか、もしくは露店で買うかしないと手に入らないしなぁ」

「ボクは露店で海水パンツ買ったけどね」


 そこはなんでふんどしじゃなかったのか……と思わずにはいられない。

 結局、ルーン以外はオープンベータプレイ記念のガチャで手に入れたふんどしだの水着だのを持っていた。

 ルーンも、称号イベントの件で持っていたほうがいいだろうと判断して購入したという。


 実際水域での戦闘において、行動制限が解除されるという性能があるなら持っておくべきだよな。

 見た目はこの際おいといて。


 しかし、パーティーメンバー全員がそれを持ち合わせていないってのも、悲しい偶然だったよなぁ。

 既に前衛四人は息切れしてるようだ。

 見ている限り、誰もスキルを使ってないようだから、MPが枯渇しているのかもしれない。

 ポーションがあれば飲んで回復するだろうし、そんな様子すら見られない。

 ありゃあ決壊するだろうなぁ。


「――ぱり、アレ着ましょうよ」

「馬鹿者! ボクがあのような醜い格好など、出来る訳ないだろう! 貴様等もだぞっ。あんな姿になってみろ、追放だからなっ」


 洞窟内を木霊する魔術師の声は、どことなく聞き覚えのあるような声だ。


「でもシュミットさん。このままじゃあ俺たちがまともに動けませんし」

「五月蝿い黙れっ。そこをなんとかするのがプレイヤースキルだろう!」


 いや、鈍足はプレイヤースキルでどうこう出来るものじゃないと思うぜ?

 ん? シュミット?

 なんだろうな、この聞き覚えのある名前は。


《ぬふふふふふふふ》

《ぬふぅっふふふふふ》


 あ、湖ん中からおかめさんたちが出てきたぞ。あいつら、上から落ちてきてこっちに流れ着いていたのか。

 よく見たら右手奥のほうに川が見えるな。なんだ、こことさっきの地底湖は繋がってたのか。


「くそう! 急に水かさが増えるわ、ブス人魚が流れてくるわっ。なんて酷い仕掛けなんだっ」

「つべこべ言わず、しっかりヘイトを稼げっ。ボクが大魔法を使えないだろうっ」

「「すみませんシュミットさんっ」」

《ぬふふふふふふふ》

「五月蝿いデブブスおかめっ!」


 あ、それ禁句だぜ。


《ぬふっ!? きいいいぃぃぃぃぃぃぃっ》

《きいいいいぃぃぃぃぃぃいっ》


 あぁあ、ほらきた。

 幸いこっちは範囲外なようで、声は聞こえるもののデバフを貰うことはなかった。

 罵声を飛ばしている魔術師と、ヒーラーっぽい二人を除いて前衛四人は気絶し、立っている二人にもデバフが何か入ったようだ。

 ノーリスの時には耳鳴りが入ってたし、たぶん同じものだろう。


 気絶した四人には問答無用でパイレーツが止めを刺していく。

 焦った魔術師が逃げようと走り出すと、遅れたヒーラーが次の餌食に。

 そして……


「や、止めろっ。デスペナなんて、ボクは嫌だっ」


 半べそ状態の魔術師は、そのまま洞窟の奥にあった通路へと逃げていってしまった。

 残された屍が五つ。

 やがで倒れていた奴等が一人、また一人を消えていく。セーブポイントに戻ったんだろうな。

 そしてパーレーツも湖の中へと戻り、俺たちの眼下で立ち止まる。


「水かさが増えたとか、おかめが流れてきたとかって……」

「マジック氏のせいだよな」

「……奴等は仕掛けだと思っていたんだ。そう思わせておこうぜ。な?」


 冷めた目で俺を見るルーンとフラッシュ。

 俺のせいだとか言わないでっ。


「ま、それにしても元々は水場だったのだ。準備を怠った彼らにも非はあるさ」


 そう言いながらインディーさんが窓の縁から体を乗り出す。

 何をする気だ?


「マジック君、ノーリス君。まずは君たち二人でおかめを撃退してくれ」

「だな。でなきゃ俺らもさっきの連中みたく、気絶している間にぬっ殺されてしまう」

「幸い、奴は我々の真下だ。ヘイトを取ってここに張り付いておくから、その間に――」


 いや、その間にって……ロッククライミング技能だって無いのに、どうやってここから下りれと!?


「パイレーツの『ばぁぁかぁぁっ!!』」


 というセシリアの間抜けなヘイトスキルが開幕の合図となった。

 更に俺とノーリスが――


「さぁ、行ってこぉーい!」


 と、インディーさんが眼下の湖に向って、俺とノーリスを投げ落とした。

 いやぁぁぁっ、たすけてぇーっ!

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