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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
106/268

106:マジ、遠距離魔法に挑戦する。

 そうだった。

 セシリアは女の子(・・・)だったんだ。

 バスタオルを腰に巻いた――パレオとかいう水着姿のセシリアを後ろから眺めながら、改めてそう思った。

 ゲームの特性上、性別に関係なく戦闘能力は与えられる。

 運動神経の有無で多少は差が出るらしいが、それは序盤だけだ。戦闘に慣れるのが早いか遅いか、その程度の差でしかない。

 そういうのもあって、男だからとか女だからとかいう違いは出ないもんだから……セシリアをとしてあんまり意識した事がなかった。


「む。少し深くなるぞ」


 と言ってくるりと振り向くセシリア。その肩にはウミャーが必死にへばりついている。

 こいつ、泳げないらしい。

 ウミャーのお陰で後ろから見る分には、大変和む姿になっている。

 が、振り向かれると途端に、生々しい女子の水着がなんとも眩しくて仕方が無い。

 慌てて視線を逸らすと、何故かルーンと目が合った。

 そうか。お前もか。

 はたと気が付くと、フラッシュとノーリスがわざとらしく喋ってたりする。

 そうか。お前らもか。

 唯一、セシリアの前を歩くインディーさんだけは平常心だ。


「さ、さぁ君たち。早く向こう岸まで歩くぞっ」


 撤回。

 インディーさんは振り向く事無く真っ直ぐ、もう一つの横穴に向ってざぶざぶ進んでいるが、その声は上ずっているのがよく分かる。

 真後ろにいる水着姿のセシリアを見れないんだな。

 どんだけ初心なおっさんなんだよ。

 いや、実は中学生だったりして。っくくく。


「きゃっ」


 前を歩くセシリアが黄色い悲鳴を上げる。


「ど、どうした!?」

「セシリアさん、大丈夫ですか?」

「セ、セシさんっ」

「セシリアさん!」


 おい、男共は何をそんなにうろたえて――ん?


「今誰か俺の足、触ったか?」

「は? 何言ってんだ」

「触りませんよ。ボク、そんな趣味ありませんから」

「僕も」

「当然、俺もだ」


 全員真顔で答えるなよ。セシリアとの扱いの差が激し過ぎるだろ。

 そのセシリア当人は、腰に下げていた大剣を抜いて構えたりしている。


「待てまて。もしかしてお前も誰かに足を触られたってのか?」


 こくりと頷くセシリア。

 いや、だからってその剣は……殺す気か!?


「そこかあーっ!」

「うわぁーっ。PKは不可能だってばよぉっ」

「俺じゃない俺じゃないっ」


 必死に弁明しているインディーさんが怪しい!


 が、振り下ろされたセシリアの大剣は湖面を叩いた。


「ぬぅ〜。逃げられた」

「は? 逃げられ、た?」

「うむ。水の中に何かいるのだ。それが私の足を――ふえぇっ」

「ふえ? ぬおぉっ」


 またか! また誰か俺の足をっ。

 と思って湖面を見ると、目が合った。


「うわあぁぁっ、何か居るっ。何か居るぅうぅぅっ」

《ぬふふふふふふふ》


 俺が驚いて叫ぶのと同時に、湖から何かが顔を出す。

 耳に当たる部分には水かきのようなエラが生えており、髪はまるでワカメのようにぐねぐねしている。

 よく見ると、上半身が人間で下半身は魚といった形をしている。

 まぁ所謂人魚というやつかもしれない。しれないが……顔がおかめさんなんですけど!?

 


「うわっ。人魚だ」


 と言う声が後ろから聞こえてくる。

 ノーリス、この不細工面でその幻想を抱くのは止めようぜ。


「人魚ならもっと綺麗なお姉さんであるべきだろっ」

「良い事言うなフラッシュ」


 フラッシュと頷きあい、あれが人魚である事を全否定する。


《むきいぃぃぃぃぃぃぃっ》

「おかめさんがお怒りだぞフラッシュ君」

《きいいぃぃぃぃぃぃっ》

「止めを刺したようだぞ、セシリア君」


 おかめさんが怒りに狂って叫ぶと、その声が洞窟内に大反響する。


《《きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ》》

「うわぁぁぁ、耳が、耳がぁぁぁ」

「これ、絶対状態異常攻撃ですよ」

《《きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ》》


 ヤバイ。マジ耳痛いっ。

 見れば湖面から顔を出しているおかめさんが増えている!?

 ひぃふぅみぃ……五体じゃねえかっ。


「ヤバイ。皆早く向こう岸に――げっ」


 時既に遅し。

 ぷかぁーっと浮かぶ水死体が四つ。

 インディーさん。

 セシリア。

 フラッシュ。

 そしてルーン。

 立っているのは――


「ノーリスと俺だけか」

「状態異常攻撃なら、種類によってはINT値で抵抗できますから……でも頭ズキズキします」

「耳鳴りっていう状態異常を食らってるみたいだな。集中力――つまりDEXにマイナス補正みたいだぞ」


 パーティー簡易画面を見ると、四人は気絶アイコンが、ノーリスには耳鳴りアイコンが付いている。

 俺は――無事だ。

 状態異常耐性のあるロックなパンツのお陰か。もしくは純粋にINT値で抵抗出来たってのもあるかもしれない。


「ノーリス。お前、雷は持って無かったよな」

「はい。正直、水場じゃああまりお役に立てなさそうです」

「とりあえず俺が大技出すから、取りこぼした奴にロックで殴ってくれ」

「あ、はい。……え? 殴る?」


 トールハンマーの詠唱に入ろうとしたが、きょとんとするノーリスに慌てて訂正。


「遠距離からロックを撃ってくれ」

「あ、はい! 分かりました」


 そうだ。彼は普通の魔術師なんだ。俺みたいにノーコンではない。

 遠距離職なんだ!

 いいなぁ。


 よぉし! たまには俺だって!!


 ちょっと離れた場所に居るおかめ人魚を狙って――

 じぃーっと狙って――じぃー……


《ぬふ……ぬ、ぬふぅ》


 はっ!?

 何故顔を赤らめるんだ、おかめ!?


「きめぇっ『雷神の鉄槌・トールハンマーッ!!』」


 バリバリバリィーっと天井から落ちてきた雷を鷲掴みし、何故か恥らっているキメェおかめに向って投げつけ――


「すっぽ抜けたあぁぁぁっ」


 ぐるんぐるん高速回転する巨大放電ピコハンは、弧を描きながら対岸の湖面ギリギリの所に激突。そして壁が一部崩れた……。


 崩れ行く壁を見つめる視界に【『近魔―命、大事に――』技能がレベルアップするのに必要な蓄積経験値がリセットされました】というシステムメッセージが浮かぶ。

 ……しまった。遠距離から魔法使うと、この技能経験値がリセットされるんだったな。

 やらなきゃよかった。トホホ。


 ガラガラと音を立てて崩れ落ちる壁。

 おかめ達もその光景をじっと見つめている。

 そしてくるりと振り返ると、今度は真顔でこっちを見る。


「や、止めろ! 哀れむような目で俺を見るなっ」

《ふぅ……》

《ふぅぅ》

《ぷぅ……》


 あ、ぷぅの奴。どさくさに紛れて溜息吐きやがったな!

 くそう。洞窟に入ってからずっと大人しかったから、寝ているのかと思いきや。こんな時だけちゃっかり反応しやがって。


《ぷ? ……ぷぷぅ!?》

「あ? 流されてる? 何がだよ」

《ぬふっ!?》

《ぬふふふふふ!!》


 おかめ達も突然慌てだした。


「た、大変ですよ彗星さん!!」

「どうした?」

「み、皆が流されてます!」


 皆が?

 仰向けでぷかーっと浮かんだ気絶組が……


「流されてるぅー!?」

《ぷっぷぷぷぅ!》


 だから言ったじゃない! とぷぅに怒られながらも、浮かんだまま左に向って流されていくフラッシュの足を必死に掴み、杖をルーンの海水パンツに引っ掛けなんとか持ち堪える。

 ノーリスはインディーさんを掴み、流されないよう必死だ。

 セシリアは――


《ウミャー、ウミャーッ》

「あぁぁぁ、流されてる!! ノーリス、俺は二人で手一杯だ。お前が行け!」


 ぷかぁーっと浮かんだセシリアにしがみ付き、必死な形相で犬かきならぬ猫かきをしているウミャー。

 セシリアを助けようとしているのか、それとも自らが助かる為にセシリアの上によじ登ろうとしているのかは定かではない。

 が、わかる事は――流されてる!

 俺は既に両手が塞がっているので助けに行けない。だから――


「む、無理です! お、女の人に、さ、触るとかっ」

「恥ずかしがってる場合かよ!」

《ウ゛ミ゛ャー》


 ウミャーの声が物凄く必死だ。

 その時、頭上からパタパタという羽音が聞こえぷぅが飛び出していった。

 どうするのかと思ったら、セシリアの髪の毛を加え、必死に羽ばたいている。


 だが、ぷぅのサイズでセシリアが流れていくのを食い止めるのは不可能だ。実際ぷぅもろとも流されている。

 更に言うと、おかめ達は既に流されてしまってもう居ないようだ。

 っていうか、この流れはどこから!?


 セシリアが流されようとしている方向に目を向けると、さっき俺が開けた穴が見えた。

 ……。


「俺のせいかよ!?」

《ぷぷぷぅっ》


 そうよ! と再びぷぅに怒られ、なんとかしなさいと発破を掛けられる。

 なんとかと言っても、二人を支えるので必死なんだぜ?

 くそう。軽そうなルーンを担いで手をフリーにするか。杖も邪魔だ。


 ルーンの海水パンツに引っ掛けた杖を引き抜き、ふんどしに――刺す!

 んで、フラッシュを一旦浮かばせ、急いでルーンを……


「ふんぬっ!」


 担ぐっ。これが本当の火事場の馬鹿力だ!

 それからフラッシュを流されるがままにしてセシリアを追いかけ――小脇に抱えたところでフラッシュが流れてくるからもう片方の手で……鷲掴む!


「痛ぇっ!」

「お、フラッシュ! 目が覚めたかっ」


 有り難い! てめぇーは自力で立ってろと言わんばかりに水の中にぽちゃん。


「あぶっ――な、なんだ!?」

「お前らが気絶している間に大変な事になってな。壁に穴が空いて流されてるんだ。ノーリス、インディーさんの頭殴ってみろっ。もしかしたら意識を取り戻すかもしれないぞっ」

「え? いいんですか!!」


 何故か嬉しそうなノーリスの声が聞こえる。

 そして杖でぽくっと何かを叩く音が聞こえた後、インディーさんの呻く声も聞こえた。

 気絶って、衝撃を与えると復活するんだな。


《ウ゛ミャーッ》


 ウミャー。まだ必死である。

 今度は俺によじ登って、肩に担いだルーンの辺りでもがいているな。


「痛いっ。な、なんですかここ? え? 猫!? あ、痛いイタイ。爪立てないでよっ」

「お、ルーンも気が付いたか。うみゃー、ご主人にも爪を立てて起してやれ」

《ウミャ! ウミャアァァァ》


 ウミャーがぴょんっとセシリアの頭に飛び乗り、ぺしぺし肉球パンチを繰り出す。

 爪だよツメ! バリっといけっ。


「は……う……ご飯なのウミャー?」


 ちげーよ!

 起きろこのポンコツ娘っ。


「ふえぇぇぇ〜!?」


 正気に戻ったらしいセシリアが、上目使いで俺を見つめて顔を真っ赤にする。

 ……そ、そんな顔されたら……俺が恥ずかしいんですけど?

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