103:マジ、類友という言葉を知らないらしい。
ポーションを買い込み皆と合流してテレポで村へと戻る。
戻ってからいくつかのポーションを合成し、緊急用にストックしておいた。
「マジック氏って、合成技能持ってたのか」
「あ、ああ。内緒な」
「オッケーオッケー。俺にも合成ポーション作ってくれないか?」
「口止め料か。お安い御用だ。ただしポーションは自腹な」
「あ、ボクもお願いします。それってCTが通常のポーションと別だから、緊急用にいいんですよね」
「よくわからないが、私も合成して欲しい。あとウミャーの新しいフードも」
そう言ってセシリアは赤いペットフードを寄こしてきた。
合成剤のストックが少なくなるな。またブリュンヒルデに頼まないとなぁ。その為にも材料を集めなきゃならないが。
合成をしている間も、背後の岩壁では村人たちがロッククライミングの技術を磨いていた。
時折悲鳴が聞こえる。その度にぎょっとなって振り向くが、一メートルかその程度の高さから落ちているので、たいした怪我もしていない。
十五メートルを登って下りれるようになるのはいつの日だろうな……。
そんな中、違うタイプの悲鳴が結構上の方から聞こえてきた。
「も、もう止めましょうよぉぉ」
「はっはっは。まだまだーっ」
見上げると、少年を背負って岩壁を下りてくる男の姿が……。人一人を背負って登ってきたのか、あの岩壁を。
マジか。
「おぉ、見ろノーリス君。他にもロッククライミングに励むプレイヤーがこんなに……ん? 彼らはNPCかな?」
「え? NPCが壁登りしているんです――わあぁぁぁっ!?」
あ、背中にへばりついてた少年が落ちた。
五メートルぐらいの高さかなぁ〜。かなり痛いだろうなぁ〜。
そんな光景を合成しながら俺は見ていたが、ルーンが駆け寄ってヒールをしてやっていた。
《っぷぷ》
「あ? 今落ちてきた奴、海岸で見た? いつだよ」
《ぷっぷぷぅ》
昨日らしい。
昨日……称号イベントの時か?
そう言えば――
わはわはと笑いながら下りてくる男の方は、彫りの深い濃顔メンバーにいたような?
「大丈夫だったか、ノーリス君」
「死ぬかと思いました」
「元気そうでよかったな。はっはっは」
いや、その子、顔真っ青ですけど?
濃い顔のプレイヤーは、さっきまで背負っていた少年の背中をばんばんと叩き、それからルーンに頭を下げてお礼を言う。
「いやぁ、どうも助かったよ。ところでここは何処かご存知か?」
「えーっと……」
助けを求めるようにこちらに視線を送るルーン。
そういやここの名前、知らないな。何処だと説明すればいいのだろうか。
とりあえずこの人達が海賊の子孫で、ここから出れない状況だという事を説明する。
「それでロッククライミング、なんですか?」
と真っ青な顔がようやく生気を取り戻しつつある少年が言う。
濃い顔のおじさんの方は納得しているようだ。
「それ以外に脱出する術はないのだろうっ。肉体を鍛える事は良い事だ!」
意味分からないし。
「しかし、海賊の子孫が暮らす隠れ里か。ノーリス君、どうやらダンジョンの匂いがするぞ」
「僕にはしません」
「行くぞ!」
「止めましょうよ! 僕とインディーさんの二人でダンジョンなんてっ。明日、他の人達がログインしてからにしましょうよ。ね?」
「お宝が待っているのだぞ? 誰も知らない冒険が、今すぐ目の前にあるのだ! 行ってみたいを思わないか。それが漢ってものだろうっ」
「前衛後衛のペアで新ダンジョンなんて、行くもんじゃないですってばぁっ」
なんだかよく分からないが――苦労しているようだな、あの少年。
同情をしつつ、ふと自分のパーティーメンバーを振り返る。
肉壁前衛1。
プチヒーラー兼前衛物理火力殴り1。
後衛物理火力1。
前衛魔法火力プチヒーラーマジ1。
四人パーティーだ。
純ヒーラーは居ないが、俺の高INTヒールもあるし、ルーンのヒール量も悪くない。きっとヒールのレベルが高いんだろう。
十分なポーションもあるし、この二人を加えれば安定間が増すんじゃないか?
「あのぉ――「よかったら我々と一緒に来ないか?」
そこで俺のセリフ取りますか、セシリアさん!?
「インディーだ。スピードファイター系でレベル28。短剣使いなのでシーフ系にも間違われるが、俺としてはリアルな冒険家を目指している」
と自己紹介するのは、彫りの深いおじさん顔の方だ。
リアルな冒険家ってなんだろう。
「え、えっと。ノーリスです。レベル25です。後衛魔法職です。使えるのは神聖魔法と火、風、土です」
「神聖魔法使えるって事は、準ヒーラー?」
とルーンが尋ねると少年――ノーリスは首を横に振る。
「いえ、その……聖属性の攻撃魔法が使いたくって……か、かっこよさそうですしっ」
と目を輝かせて言う。
それに頷くのはセシリアで、彼の肩に手を置き、
「その気持ち。分かるぞ!」
とこちらも目をきらきら輝かせている。
理解者が居て嬉しいのか、ノーリスもうんうん頷いたりしてるよ。毒されなきゃいいな、あの少年。
六人フルパーティーになったこのメンバーで、海賊ダンジョンを目指す。
まずはピーコックエリアに行って、奴の巣があるという北西の岩壁に向った。
「野球場程度の大きさだから、そんなに時間掛からないだろうな」
「そうですね。ただ道が真っ直ぐとは限りませんし」
というルーンの言葉通り、楽して歩けそうな道は一旦は真っ直ぐ奥へと続いたがすぐに枝分かれし、しかもどちらも北西ではない方角に伸びている。
さて、どうしたものか。
「マジック君の杖を立てて倒れた方に進むというのは?」
「セシリア……そういう運任せでいいのかよ」
「いいと思う」
即答ですね。
他に誰も反対しないので、仕方なく杖を置いて……倒す。
真っ直ぐ正面に向って倒れた杖。
「どうするんですかセシリア先生。道じゃなくってジャングルに向って倒れましたけど?」
「じゃあ行くぞ!」
「行くのかよっ!」
「運命がそう告げたのであれば行くしかあるまいっ」
「なんでインディーさんも楽しそうにジャングルん中入って行くんだよっ」
セシリアを先頭に、インディーさんが生い茂る草木の中へと入っていく。その後ろをノーリスが溜息混じりについて行き、チラっと振り向くと――
「言っても聞きませんから」
と諦めたような顔をしている。
ダメなのが二人になった!?
俺の肩にぽんっと手を置いて、冷めたような顔で笑っているフラッシュと、やれやれ顔のルーンがその後ろに続く。
……俺か? 俺が悪いのか!?
《ぷっぷぅ〜》
「分かってるよっ。行けばいいんだろ、行けば」
ザックザクと草を分け入り入っていくと、前方では既に戦闘が始まっていた。
ジャングルのほうが絶対エンカウント高くなるよな。より危険が増すよな。
とか考えていたら、徐に後ろから何かに攻撃された。
「痛てっ。この野郎!」
「マジック氏、大丈夫か?」
「後ろからも来ましたっ。僕、彗星さんの援護、入ります」
気づいてくれた後衛二人組みが俺の窮地を救う為に駆けつける。
敵は――サル?
全体的に白っぽい毛に覆われた、体長百二十センチほどの手足の長いサルだ。尻尾もかなり長い。
その尻尾がぶんぶん振り回されると――
「おぶっ――ぶべっ――へぶっ」
尾っぽによる往復ビンタ!?
痛い。痛いけど、一瞬だけふわもこな感触が……。ちょっと癖になりそうな攻撃だ。
いやいや、ちょっと危ない方向に進もうとしているぞ俺!?
早く抜け出さなくてはっ。
と思っていたら、
《ウキャッ》
とサルが悲鳴を上げたかと思うと、そのまま痙攣しはじめた。
フラッシュかノーリスが助けてくれたのかと思い振り向くと、何故か二人とも笑っている。
なんで?