101:マジ、運営の罠を知る。
まずログインしたら装備を探しに町へ行こう。ポーションの残りも少ないし、補充しておかなきゃな。
装備といえば……
「シンフォニア、要望を出しておいてくれ」
『畏まりました。どのような内容でしょうか?』
素材のドロップ数を増やして欲しい。
現状だとドロップするのは一匹につき一つだ。幸い、ドロップ率は高いし、モンスターによっては一匹で複数種類をドロップしたりもするが。
ドロップ率は今のままでもいい。一種類につき複数個ドロップするようになればいいなぁと。
あとは製造や分解、合成で失敗したゴミ屑の再利用だ。ゴミ屑を分解する事で、素材に戻せるようにして欲しいんだよな。
そうすりゃあ分解技能の活性化にもなるし、素材不足の解消にもなる。
『ドロップ数の調節を願う要望はたくさん頂いております。素材が少ないため、需要に対して供給が追いついていないと。それ故素材販売者も高額で素材を提供するといった負の連鎖により、高騰が続いているのでどうにかして欲しいと』
「素材数が増えれば価格も下がってくるだろ」
『左様でございますね。要望を出しておきます』
「頼む。じゃ、行ってくるよ」
『はい、行ってらっしゃいませ』
旅の扉からゲーム内に入ると、海賊の子孫の村からスタートだ。
村人はまだ残っているんだろうか。既にセシリアから学んだロッククライミングで旅立ってたりして。
周辺に目を向けると、人影がまったく見当たらない。
はぁ、もう誰も居なくなってしまったのぁ。じゃあこの村って、ゴーストタウン?
いや村だからタウンってのはおかしいか。えぇっと、村を英語で……
「や、マジック君」
「村を英語で……」
「ヴィレッジだが?」
「そうか。じゃあゴーストヴィレ……おわ! セ、セシリア。居たのかよ」
「うむ。居たぞ」
突然声を掛けてくるし、そのうえゴーストだなんだのと考えていたからちょっと心臓バクバクだぞ。
しかし、すぐに英語が出てくるとは……ダメな子だと思っていたのに、実は学力高いのか?
「そうだマジック君、聞いてくれっ」
「お、おう」
にっこにこ顔でセシリアが駆け寄ってきて、村人全員にロッククライミングの技能を習得させることに成功したと報告してくる。
「村人の中に子供も居たが、十歳以上の子ばかりだったからよかった。しかし、三時間ぐらい訓練しているが、レベル2になっている者はゼロなのだ」
「そんなもんなんじゃ?」
「いや、私の場合は三時間ほどで今のレベルの10まで上がったぞ。ちなみに教えている間に12になった」
同じ時間レベリングしたなら、レベルの低い奴のほうが先に上がっていくはずなんだがなぁ。
もしかすると、プレイヤーとNPCとでは仕様が違うのかも。
本来NPCって、そういう成長要素とかは無いはずだし。
と説明するとなるほどと納得し、あとは自主トレーニングに任せるかと自己完結させている。
やっぱりスポ根女だな……。
がさがさと彼女の背後の草が揺れ、出てきたのは村長だ。
額にはきらりと光る汗。そして爽やかな笑顔。
「やぁ冒険者さん。ロッククライミングとは実に楽しいものですね」
毒されてる。NPCがセシリアに毒されているぞ!
不具合案件で報告するべきだろうか。
「なんてな。ふふ」
「マジック君、どうしたのだ?」
「いや、なんでもない。ところで村長」
「なんでしょう?」
どこから取り出したのかと突っ込みたくなるタオル片手に、額の汗を拭き取っている村長に、村の今後を訪ねてみる。
当然の事ながらシンキングタイムが発生し、長いこと汗を拭く爽やかな笑顔のまま固まった。
尋ねるタイミングが悪かったな……なんか凄く目を背けたくなる。
ようやく動き出した村長は、汗を拭くのを止め「今後とは?」と尋ね返してくる。
たったそれだけの為に何十秒止まってたんだよ。
「村人全員がここを出て行ったら、ゴーストヴィレッジになるだろ?」
「――はぁ、そうなりますね。まぁアンデッドモンスターが住み着いたりはしないでしょう。はっはっは」
それはシャレのつもりなのか?
一瞬想像したじゃないか。
ゾンビやスケルトンが田畑を耕して、ゆる〜い生活を営む姿を。
「しかし、まだまだあの岩壁を登れるようになるには時間がかかりそうです。少なくとも十日は必要かと」
「そっか。じゃあそれまではゴーストヴィレッジにはならないんだな」
「はっはっは。そうですね。無人の村になると、何か不都合でも?」
「いや、これから海賊のお宝が眠るダンジョンを探そうと思って。誰も居ない村より、誰かいたほうが寂しくなくていいかなと」
「なるほど。では一つ分かった事を――」
お、情報があるのか。
「実は父に聞いたのですが、昔、ロックンピーコックの隙を見て岩で塞がれた通路の状態を調べに行った事があるそうなんです」
「おい、あんたの親父さん、生きているのか」
「えぇ、まだまだ健在ですよ」
爽やかに笑う村長。
四十代ぐらいにしか見えないこの人が村長なんだし、先代は既に死亡しているとかそういう設定だとばかり思っていた。
その先代の話だと、ロックンピーコックの巣の真後ろに妖しい洞窟があったらしい。
「いや待て。ロックンピーコックの隙を見て通路の様子を見に行ったのに、なんで巣を見に行ってるんだ?」
「――きっとその洞窟が子孫のお宝が眠るダンジョンでしょう!」
スルーしやがった!
ログインしてきたルーンとフラッシュにダンジョン入り口が判明した事を報告し、俺達は一度ファクトへと向った。
装備だの消耗品だのを補充するためだ。
「じゃあ三十分後にここで」
といい一旦解散。
まずはこの上半身裸をどうにかするぞ!
プレイヤー露店を見て周り、ハイクラスでもいいから上半身装備がお手ごろ価格で売ってないか探す。
うぅん。こんな事ならザグに作って貰った装備を、無駄に合成してゴミ化させるんじゃなかったな。
歩いている間、どうにも視線を感じて仕方が無い。
くるっと振り返ると、ささっと視線を逸らすプレイヤー達。
気のせい――なのか?
再び目的の品を探して歩き出す。
ひそひそ――じぃー……
やっぱり見られてる!?
ババっと振り向くと、女の子が一人ぽつーんと立っていて、俺を目が合うなり顔を赤らめる。
「あ、あの……ふん……いえ、王子様っ。ス、スクリーンショット、お撮りしてもいいですか!?」
「はい?」
「な、なんだか凄くお似合いの格好をされていて、思わずその、記念に」
お似合いのかっこ――ダチョウ孔雀か!?
さっきから視線を感じていると思ったら、これかよ。
そうだな、目立つよな。俺だってこんなズボン穿いてる男いたら、ガン見してしまうわ。しかもギター背負ってるし。
「ほ、本当に似合ってる?」
と尋ねると、間髪入れず彼女が「はい!」と元気よく頷く。
「王子様は完璧な外見をされています。それ故に普通のデザインの服だと、地味に見えてしまうと思うんです」
「ほほぉ」
「なのでそのぐらい思い切った派手さがあったほうが、王子様を引き立たせてくれると思うんですよ。ネタ的な意味でも」
「ネタかよ!?」
「あははは。はい、でもここはゲームなんですし、王子様ぐらいぶっ飛んだスタイルのほうが面白くて良いと思いますよ」
面白くて良い、か。
そうだよな。もうこうなったら色物キャラとしてぶっ飛んでやろうじゃないか!
そして全力で楽しんでやるよっ。
「よぉし、スクショ撮りまくってくれ!」
「ありがとうございますっ」
こうか、それともこうか?
杖をついてキリリと立つ紳士のポーズに、腹筋を余すことなく晒すポーズ。マントをばささっと靡かせるポーズや村長を参考にした爽やかスマイルを披露する。
音の鳴らないギターを振り回してロックに決めてみたり、しんみりと弾く真似をしてみたり。
そしていつの間にか出来上がるカメラマンの列。
「しかしこうしてみると、俺みたいに上半身裸ってのが少ないなぁ」
「そりゃあ脱いだら防御力落ちますし」
「いや、そうじゃなくって。装備を合成したら片方の外見は無くなるじゃん?」
と撮影隊の一人と話していると、別の人が、
「課金アバター着れば解決しますよ」
と言う。
……それがあったか!
さっそくアイテムモールを開く。
「でもこうなると、装備が合成できるのって、課金アイテム買わせるのが目的なんじゃないかと思えてくるよな」
「思いますねぇ〜」
は!?
これは孔明の罠だったのか!!
しかも課金アバターの最安値は1000AQだった。つまり千円。
アバターガチャは300AQだが、ペットフードを買っているので残高不足だ。しかもふんどしが出る可能性もあるし、武器アバターだったりポーションだったり期限付きだったりする可能性だってある。
合成は運営の罠だ!