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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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二人のお茶会



 ルーが魔女ガブリエラの後をどこまでも楽しそうに追いかけて行った後、ボーっとした状態のスーが残された。


「ねえ、これどうするの?」

 

 エリスの問いに誰も答えなかった。


「それ、催眠状態なんじゃねえ?」

 

 バートがじろじろとスーを見て言ったが、やはりスーは何も言わなかった。いつもなら好奇心旺盛に動く瞳が一点を見つめたままだ。


「ルーが戻れば何かわかるだろ」


 アインもスーを遠慮なく眺め、スーの足や腕をちょいちょいと触って遊んでいる。


「ルーはいつ頃戻ると思う?」


 それに答えたのはブライアンだった。


「彼が戻るのを待つより、今できることを先にしておこう。その方が建設的だと思うよ」


「・・・いつ戻るかわからない、ということですね?」


 エリスの問いかけに、肩をすくめてみせたブライアンはアルバートに、ね?と同意を求めた。


「まあ、そういうことだ。やつが戻ればお前に連絡をやる。それでいいか」


 問いかけは実質、答えを必要としていない。エリスは頷いた。


「アイン、バート。お前たちは騎士団に戻り、ジーナ・ウェスト嬢の捜索と保護を優先事項として行うよう報告。私の名前を出せ。書面は後程そちらに届ける」


「了解しました。騎士団に戻り、ジーナ・ウェスト嬢の捜索と保護をアルバート殿下の命により遂行いたします」


 きりっ、と騎士の顔をした二人が敬礼をして即座に踵を返した。


(・・・普段はアレでもいざとなれば騎士になるんだな。中身おっさんなのに)


 駆けていく二人の後姿を見送ったエリスだった。



 スーは置物になったようにじっとして動かない。

 キラキラと輝く虹色の鱗も、心なしかくすんで見える。瞳も一点を見つめたまま。


 エリスは何度も腕に抱いて、名前を呼んでみたが反応はなかった。




※ ※ ※


 

 ルーは三日経っても戻ってこなかった。

 ジーナ・ウェスト嬢はあの日すぐに見つかった。令嬢たちの控室に縛られた状態で眠っていたそうだ。

魔女ガブリエラの仕業だった。幸い怪我もなく縛られた記憶もなく昏々と眠り続けていたそうだが、まったく手荒いことをする。


 元々、魔女たちは自分の欲望に忠実で人の迷惑を顧みない者が多かった。

 それが元で昔は神殿と魔女が対立し、迫害の歴史があったのだが王家先導の魔女協会設立により魔女たちへ人としての良識教育が施され、協会へ所属することで仕事の幅が広がりをみせた。

 もちろん、すべての魔女が協会に所属しているわけではないが、そういった背景があるために問題を起こす魔女は激減傾向にあった。

 今回のことは、アルバート殿下の名で協会へ抗議することになったとクリスが教えてくれた。

 ガブリエラにはお仕置きが待っているようだ。



「そのドラゴンが大人しいと調子が狂いますね」


 優しい日差しが差し込む部屋の窓際で、エリスはクリスと二人でお茶を飲んでいた。

 綺麗なお姉さん方がセッティングしてくれたテーブルには、真っ白なクロスがかけられ三段のティースタンドに軽食とひとくちサイズの焼き菓子、色とりどりの飴やクリーム・ジャムが並べられ見るからに美味しそうだった。ティーポットには紅茶が用意されていて、お姉さんにたくさんお召し上がり下さいねと優しく微笑まれた。

 ありがとうございます、と微笑み返せばパッと頬を染め花のような笑顔を見せて部屋を出て行った。


 エリスの膝には人形のようなスーが微動だにせず居る。 

 そう、ただ居るだけ。

 スーの声を聞けなくなってもう三日。

 愛らしく変わる表情も仕草もなく、エリスには辛かった。

 スーの肩を優しく撫でても、抱きしめても何も返ってこない。

 今は、目の前にある魅力的な軽食やお菓子にも気持ちが向かなかった。


「早く元に戻してあげたいのに・・・」


 何もできない自分が不甲斐ない。供された紅茶のカップから立ち上る湯気を見ながらエリスは小さくため息をついた。


「そんなに心配なら、図書室に行って調べてみますか?」


 俯きがちだったエリスの顔がクリスを捕えた。

 クリスはじっとエリスを見ていて、ゆっくりとエリスの傍に来た。


「そのドラゴンのことばかり心配して、最近食事も睡眠も満足にとれていないでしょう?」


 クリスは椅子に座ったままのエリスを、至近距離から覗き込む。

 細い指先がエリスの頬をなぞり、顎を持ち上げた。

 クリスの緑の綺麗な瞳にぽかんとした自分が映っていた。


「また、そんな無防備な顔をして。いつか悪い男に捕まってしまいますよ」


「・・・私は無防備じゃ」


「唇、柔らかそうで美味しそうですね」


 咄嗟にエリスはクリスの肩を押して距離を取った。


「どうしたんだクリス?」


 心臓がばくばくと音をたてている気がする。


「・・・どうもしません。ドラゴンを心配するあなたに意地悪をしただけですよ」


 クリスがふいっと顔を逸らせた。


「そんなはずはない。何か、苛立っているだろう?」


 緑の瞳が戻って、エリスを映した。


「・・・もしも僕だったら心配してくれますか?」


 反射的にうん、と頷いていた。クリスがとても悲しそうだったので。


 緑の瞳を見つめたまま、エリスは考えた。


 スーのことを心配していたら⇒自分のことが疎かになって⇒クリスがちょっと怒っている

結論。私のことを心配してくれたのかな。


「心配かけてごめん。私にとっては、スーもクリスも家族みたいなものだと思ってるよ」


 エリスにもクリスにも本当の家族がいる。でも、スーには?たった一匹で種族の違う人間の環境へ身を置く変わったドラゴン。彼の仲間がどこにいるのかその生態さえエリスは知らない。周りを振り回しているようでいて、本当の気持ちはどうなんだろうと考えることがある。

 

 この人間の生活に飽きたら(エリスに飽きたら)仲間の元へ戻るのだろうか?それともあの雪山へまた一匹で棲むのだろうか?あるいは番を探しに世界中をめぐるのかもしれない。


 寿命の違う種族だからこそ、いつか離れ別れることになると漠然と感じていた。だから出会ったこと、共にいる今が優しい思い出になればいいと思う。

 そのために愛情を注ぐのは間違っていないはずだ。


 クリスの耳が赤い。

 ゆっくりと近づいた。

 こつ、と額を合わせて、緑の美しい目を覗き込んで誤った。


「心配かけたねクリス。クリスもスーも私には大事だよ」


「・・・家族ならごめんねのキスをして下さい」


 ぐっと腰が引き寄せられて距離が縮まった。珍しく甘えた様子のクリスの頬に優しいキスを贈る。

 もう一度覗き込んだクリスの目にはもう悲しみは残っていなかった。

 ほっとして微笑む。


「僕も仲直りのキスを贈っていいですか?」


 頷いたエリスの頬を壊れ物を扱うように片手が包み、そっと唇が触れて離れた。

 ん?頬じゃないぞクリス。


「・・・これは家族の距離にしては近過ぎないか?」


「家族の距離ってこんなものでしょう?」


 良い笑顔だねクリス。

 まあいいか。




アルバート   何もこんな覗きをせんでもいいだろうに。

ブライアン   可愛い弟を見守りたいという兄の優しさです。

アルバート   ・・・まあ構わんが。だいたいエリスに色気がなさすぎるから進展せんのだ。

ブライアン   だからおもしろ、コホン。せめて男として意識されるといいんですがねぇ。

アルバート   それで二人だけの茶会をセッティングしたのか?

ブライアン   ドラゴンの邪魔が入らない今が進展のチャンスです!

アルバート   で?恋人をすっ飛ばして家族という位置づけになっているらしいが?

ブライアン   あはは、不憫だなぁ。

アルバート   あの距離なら普通の女は落ちるんだがな。押しが足りんな。

ブライアン   初々しくて良いじゃないですか。

アルバート   多少の役得で手を打ったようだな。

ブライアン   あれは家族になった新婚さんの距離ですよね。

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