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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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クリスの事情③

 


 やってきましたクリスのいるというお城。

 

 生まれて初めてそれを見たエリスは、その大きさと美しさに圧倒されてしまった。

 ぽかん、と口を開けている間にするすると連れられ、どこをどう歩いたものかとある一室に送りこまれ、お揃いのお仕着せを着たお姉さん方に風呂・着替え・化粧を施されてしまった。


「殿下がお待ちですので、どうぞこちらへ」

 

 やたらと丁寧だが、実質有無を言わさない強引さでお姉さん方がエリスを囲み連れられる。

 ドラゴンはエリスの肩に留まり、その肩ひもで遊んでいる。

 ここまでドラゴンは大人しくしていた。



※ ※ ※



 またもや、どこをどう歩いたか分からないうちに廊下が広くなり、壁の装飾が豪華なものになっていた。

 お姉さんの一人が両開きの扉をゆっくりとノックすると、それは部屋の内側から開かれた。


「やあ、いらっしゃい。クリスの姫君」


 そこにいたのは、線の細いクリスとは顔しか似ていない、がっしりとした体格の男だった。

 エリスがきょとん、としているうちにお姉さん方は扉を閉めて消えてしまった。


「なんで軍服!?」


 クリスの悲壮な声が聞こえた。

 それと爆笑する誰かの声。

 そう、エリスはドレスではなく白い式典用の軍服を着せられていたのだ。


「・・・クリス、トフ殿下?」


 エリスの前には、顔立ちの良く似た三人の兄弟。


「ああ、まあ楽にしていい。冒険者なら礼儀作法も知らないだろうからな」


「兄さん、エリスさんに失礼なこと言うと黒歴史を婚約者殿に話しますよ。おもにポエムとかね・・・」


 うん。クリスだ。エリスの知っている可愛い顔して毒舌のクリスだ。

 ぎゃいぎゃいと兄弟喧嘩が始まり、すぐに収束した。


「あ~、失礼した。第一王子のアルバートだ。君には聞きたいことがあって呼び出した」


 体格の良い男が言った。


「ごめんねぇ、こっちに来て座りなよ。ゆっくり話そう。僕は第二王子のブライアンだよ」


 さっきの爆笑は彼だった。綺麗な顔立ちに長髪がよく似合っている。

 ここまで流されてきたエリスだったが、ブライアンの誘いは断った。


「いえ、ここで聞きます。おっしゃる通り礼儀作法は市井のものしか知りません。殿下方と同席してもまともに話し合えるとも思えません」


「ふ~ん。わりと利口じゃないか彼女」

 

「・・・だから、僕さっき言いましたよね。黒歴史話すって」

 

 クリスが怖い。そのクリスに対してブライアンは余裕でサラッと髪を払った。


「ポエム?いいよ、僕のは幻想的な情緒と韻をふんだ詩人レベルの仕上がりだからね」


「ポエム暴露して喜ぶアンタには、浮気の数々を披露するよ」


「あ、ごめんクリス。ミリアリアには言わないで!」


 ・・・クリス、君の将来が心配になってきたよ。どれだけ弱み握ってるの。


 アルバートとブライアンの両殿下が椅子にかけ、クリスが傍にやってきてエリスの手を取った。


「ごめんなさいエリスさん。面倒なことに巻き込んでしまいました。本当はこんなところに連れてきたくなかったのに・・・」


 うるうるとした瞳に見つめられた。うん、王子様とわかっても可愛いに変わりはない。

 続きを促せば、申し訳なさそうにしながらも話してくれた。



※ ※ ※



 クリスの迎えが来た日。

 

 玄関の外で、いつものようにクリスの正式な名前を呼ばわったじいのエイブはひどく慌てて出てきたクリスから、家の中には(大好きな)女性がいてまだ自分の身分を明かしていないこと、良好な関係を築いている最中であることを聞かされた。

 そしてほんの少しの好奇心から、再び家に入っていったクリスの肩越しにエリスが見えたのだという。その肩に乗ったスタードラゴンも。


 じいのエイブは驚いた。

 ドラゴンはどんな種類だろうと、人に懐きにくく主従関係を維持できる者などそういない。

 もしそれが実現するのであれば国に届け出て、国の管理下におくべきだ、と判断した。

 クリスにも馬車のなかで諭し、頷かせるのに半日を要した。

 すぐさまとって返しエリスを王宮へ速やかに送り届けたのだという。



※ ※ ※



(あのお爺さん、人のよさそうな顔と柔らかい物腰でまったく警戒しなかったけど、さすがに王宮務め。色々考えてるんだなぁ)


 エリスの感想はそれだけだった。

 特に騙されたとも思わないし、一理あると納得する内容だ。


「それで、私はどうしたらいいんでしょう?」


「ドラゴンとは即刻離れて誰かに引き渡しましょう!」


「・・・それは無理じゃないかなクリス、・・トフ殿下」


 クリスが渋い顔をしている。普通に名前を呼んでほしい、と訴えられるが肉親(兄・王族)を前にして呼び捨てにはできない。


「確かにこのドラゴンとは契約もしていないし、番になる約束もないけれど、これが素直に私の傍を離れるとは思えない」


 アルバート王子の質問がはいった。


「無理に引き離すつもりはないが。意志の疎通はできるのか?」


「できます。ただ、人間の常識に疎いので時には驚くような行動もとります」


 ブライアン王子が優雅に肘をつきながら、じっとドラゴンを見ている。あれは値踏みする目だ。そして短く言葉を継いだ。


「危険は?」


「・・・まったくないとは言えません。実際クリスも私も怪我を負いました。今は回復していますが、今後一緒に生活していくなら手加減と人の常識や良識を教えていかねばなりません」


 正直に答えたエリスの肩でドラゴンはじっと聞き耳をたてている。


「それは可能なのか?」


 またブライアン王子が短く聞いた。


「可能です」


 エリスは言い切った。

 兄王子二人は考えこんでいる。クリスはまだエリスの手を握っている。そろそろ手汗が気になるので離してほしいのだが。


「そのドラゴンは、エリスのどこを気に入っているのだ?」


 アルバート王子からの問いに答えたのはドラゴンだった。


─────全部に決まっている。度胸も性格も胸もわたしが認めた女なのだからな!


 エリスは笑顔でぎゅっ、とドラゴンの口をつかんだ。


「胸は言わなくていいの」


 三王子の視線が胸に集まっているので、虫けらを見る目になったのは仕方ない。

 すらりと伸びた脚に女性らしい胸のふくらみが軍服からも見てとれてしまうのはエリスの責任ではない。


 こほん、と一つ咳払いをして小さく失礼と言ったアルバート王子と、オレンジ二個分かなとサイズを言い当てたブライアン王子をクリスも虫けらを見る目で容赦なく罵った。し・ね、と。


「あ~、ところでそのドラゴンに他の女性冒険者を会わせてみるというのはどうだろう?エリス以外の女性を知らないのだろう?色々な人間がいるという勉強にもなるし、もしかすると気に入った者ができるかもしれないよ」


 クリスの目が冷やかさを増している。さすが浮気常習者って呟いちゃってるよ・・・いいの?


 エリスは何とも言えなかったが、当のドラゴンが乗り気だ。


──────面白そうだな。よし、エリス以外の女に会ってやろう。


 しかも上から目線だ。複雑な気持ちのエリスだった。そしてクリス、そろそろ手を離してもらえないだろうか。




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