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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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終章-4

 


 連れてこられたのは訓練場だった。

 それはそうだ。

 元の大きさに戻ったスーが収まる場所なんて、ここしかない。滞空するせいで起きる暴風のことも考えたらぴったりの場所だ。

 しかし人が多く集まり過ぎている気がしてならない。


「騎士団全員来てるぞ。あと王族も」


 石段の上でぼそり、とアインが呟いた。


「なんで!?」


「見たいだろドラゴン」


 簡潔過ぎる答えだった。後を引き取ったのはクリスだった。


「昨日の夜中にうちの家族と騎士団と主だった貴族連中にお知らせをいれたんですよ。いやぁ意外と集まりましたね」


「なんで!?」


 またしても芸のない同じ悲鳴を上げたら、クリスが悪い顔をして笑っていた。


「お披露目ですよ」


 そう言ったクリスに強く腕を引かれ、エリスはあっけなくクリスの腕の中に囲われた。

 何の警戒もしていなかった。

 ぎゅうっと抱きしめられ、いつにないその力の強さに驚く。


「僕にも別れの挨拶を下さい」

 

 そっと腕の力が緩められたので、少し距離を取り感謝とお礼を言おうとしたらクリスの唇がそれを押し留めた。温かくて柔らかい感触に、エリスの思考は完全に停止した。


「忘れないで下さいね。僕はずっとあの家で待ってますから」


 ぎこちなく頷いたエリスの耳にざわめきが届いた。

 はっ、と意識が戻り瞬時に恥ずかしさが全身を駆け巡る。


 衆人環視の元に何やってんだ私───────!!!!!


「怒らないんですか?」


───永遠の別れになる挨拶だからな!広い心で許してやる。


 しかもクリスの家族に見られた!?


 若干パニック気味のエリスをよそにスーが元の姿を取り戻した。

 いきなり訓練場に現れたドラゴンに歓声とどよめきとほんの少しの悲鳴が同時に湧き起こる。


 エリスは荷物を背負い直し、すり鉢状の訓練場に向かって階段を一気に駆け下りた。

 滞空状態のスーの巻き起こす風で砂埃が舞い、ほんの少し衆人の目からエリスを隠してくれる。

 出発前に、知っている顔を見ようと思っていたがあんなことをしでかしてしまっては無理だ。


 エリスは勢いそのままにスーに向かって手を伸ばした。

 心得たように、その手を足の爪で掴みスーが上空へと力強く上昇していく。危ういように思えて、実のところしっかりと掴まれているので危険は感じない。少し腕が痛いだけだ。

 まだ集まった人々の顔が見える高さで、スーはエリスを勢いよく宙に放った。

 途端に悲鳴が聞こえる。

 お姉さん方を驚かせてしまったかもしれない。でも大丈夫なのだ。

 すとん、とスーの背に降り立った頃には多少冷静さが戻ってきていた。

 だから、聞こえるように言った。


「行ってきます!!!」


 皆が手を振ってくれていた。

 アインとバートとニコラスの顔が見えた。天幕の近くには閣下とアルバートとブライアン両殿下の姿も。

 エリスも手を振り、最後にクリスを見た。

 

 クリスは、じっとエリスを見ていた。その姿を焼き付けるように。強い視線でエリスの全てを。

 だから声には出さず、クリスに向かって言ったのだ。


 待ってて───と。


 それは届いたのだと思う。驚いた顔をした後で、泣きそうに笑ってくれた。

 多少強引ではあったが、キスをされたことは嫌ではなかった。衆目の中というのは嫌だったが。

 それを許せるくらい好きなのだ。

 

 もしこれがアインだったなら、即座にオマエ何してるんだ!と拳が出ただろう。おそらくニコラスや他の誰でも。


───エリス、そろそろいいか?


 スーが上昇を始めた。

 

「行こう」


 短くそう答えると、スーが歓喜の咆哮を空に放った。聞く人によっては、それがどんな気持ちを含んでいるのか理解しがたい音なのだと思う。

 でも、ずっと傍で暮らしてきたエリスには違いが分かっていた。

 スーは今、とても上機嫌でこれからを楽しみにしている子供のようなものだ。

 だからクリスの不意打ちのキスにも動じなかった。

 その余裕は成長したからなのか、ただの優越感からなのか。判断が難しいところではあるが、あの場で以前のような惨劇を起こさなくて良かったとしみじみ思う。

 

 なめらかに滑空するスーは、あっという間に城から遠ざかり、一緒に暮らした家も越え一直線に長老を目指している。

 どんな結末が待っているのか分からないが、計り知れない未来を明るいものにしたい。

 スーにはドラゴンのお嫁さんを。

 自分には、気持ちを育む時間を。

 エリスも前を見据えそう遠くない未来に思いを馳せ旅は始まった。

                                          (完)


                                            

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