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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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終章 2.5



「だいたい二人で旅をするということ自体、僕は納得できないが今回のオマエの不始末を片付けるためだ。

この際仕方ない。で、旅の計画はあるのか?」


 クリスは悠然と椅子に座り直して、テーブルの上のドラゴンを睨んだ。

 ドラゴンも不機嫌そうに尻尾をバシバシとテーブルに叩きつけ喉の奥でぐるぐると唸った。


 このドラゴン、番として惚れ込んだエリスに抱かれる(抱っこされる)ためだけにこの小さなサイズになっている。クリスとしては最早呆れるしかない。


「・・・まったくの無計画なんだな?」


───ふん、長老には会いに行くと連絡はとった。返事は、是だ。この城の周囲を見回ってルートも確認している。何も問題はない。


 ふんぞり返って、嫌そうに答えるドラゴンは偉そうだ。


「で、長老の元へはどれくらいで着く」


───エリスとの二人旅だ。のんびり愛を深めながら蜜月を過ごすのだ!ははは!


 クリスの眉間にくっきりと皺が寄った。


「のんびりだと?そんなことが出来るものか」


 今度はドラゴンが怪訝そうに聞き返した。


───なんだと?


 クリスは眉間の皺を深くしてため息をついた。


「物珍しいドラゴンを連れていては目立ち過ぎる。人目を避けての旅になるはずだ。街に入れば宿も食事も簡単に手に入れられるが、オマエがいれば街に混乱をもたらすかもしれない。エリスさんはそう考えるはずだ。そうすると人気のない山や森を選ぶことになる。オマエとの二人旅は、宿にも食料にも困るだろう」


 クリスはそこで言葉を切って、ドラゴンが理解しているか窺った。

 ドラゴンは小さな腕を組み、むむむと唸り半眼になっていた。

 一応聞いてはいるようだ、と判断し続けることにした。


「考えてもみろ。エリスさんは料理が作れない。火は起こせるだろうがまともな食事は無理だ。この季節なら野生の木の実や果物は見つけられるかもしれないが僕が危惧しているのはそこだ」


 じっとドラゴンを見据えると、はっとしたように瞬いた。


「彼女はこれまで冒険者として依頼をこなしてきてはいるが、日帰りで(僕の手作り弁当持参で)済む件を優先して選んでいる。遠出する場合は必ず数人のメンバーで行動し、遠征計画を綿密に立ててきた。野営する際にはメンバーの誰かに食事を作ってもらい自分はテント設営や力仕事を担ったと聞いている。のんびりと旅を楽しむつもりなら、オマエもどこで休憩を取ってどこで何を食するのか、就寝の予定地だとか必要な物品を書類にまとめて提出してもらおうか」


 ドラゴンはがーん、とショックを受けていた。

 どうせ頭の中は彼女との桃色な二人旅でいっぱいで大した計画などないだろうとは予想していた。

 人には食事も睡眠も必要だ、なのにこのドラゴンはスッパリそこを見落としている。


───エリスに不自由などさせぬ!獣ならわたしが仕留めるし夜も危険がないか見張る!大丈夫だ!


 何をもって自信たっぷりに言い切るのか、はなはだ疑問だがこいつは元は野生生物だ。多分、彼女のためならどうにかするだろう。


「主食はどうするつもりだ」


───主食?


「パンだ。いくら固く焼いても環境によっては一週間しかもたないぞ」


───む、足りなくなれば街に買いに行けばいいではないか。わたしは隠れて待つか、荷物の中に(ひそ)み姿をエリス以外に見せなければいいのだろう?


 意外と考えた答えだった。

 クリスはそれに対して返事をせず、別のことを口にした。


「で、実際どのくらいの期間で長老の元へ辿り着く」


───わたしだけなら3日もあれば着くだろう。エリスと一緒なら7日といったところか。


 ドラゴンは嫌な顔をしながらも正直に答えたようだ。

 クリスは背もたれに背を預け、頷いた。

 

「分かった。できるだけ早く戻ってこい。ドラゴンが人目につくと厄介だ。エリスさんを危険に晒しかねない」


───そうは言っても、エリスが戻りたがらないかもしれないぞ?二人で世界中を旅してくるかもな?


 渋々、頷いたドラゴンだったが悪い顔をしてクリスを見たのだった。


───そうなれば数年、あるいは数十年経つかもしれないぞ。忘れられてないといいな?


 ニタリ、と悪い顔をしたドラゴンだったが、クリスはそれ以上に悪い顔を見せた。


「・・・頭が少々足りないんじゃないか?国外へ出てふらふらしてみろ、軍事力にもなり得るオマエは追いかけ回され捕まえられて研究材料行きだ。エリスさんにも危害が及ぶ。この国でもオマエを危険視する声はあるんだ。だから監察委員会が立ちあがって監視されることになったことを忘れるな。常に最悪のパターンを考えておけ」


 クリスとしては、この少々呑気なドラゴンが危険物扱いされることに違和感を持っていた。 

 一緒に暮らしてきたせいか、お互い憎まれ口を叩きながらも愛嬌のある性格により共存していけると考えるようにもなった。

 これから監察委員会を通して、数年をかけてドラゴンを怖がるだけではなく平和的な共存が可能なのだと

いうことを周知していこうと考えている。

 放っておいても隠しても、いずれはこの国がドラゴンを所持していると国外に知れるだろう。

 そうなった時に、ドラゴンは兵器ではなくペットだと言える環境を用意しなければ周辺の国々が脅威を抱く。最悪、戦争が起きることもあり得るのだ。

 そうならないための監察委員会だ。


「で、旅の間の食事だが、火を使わずに食べられる物も用意しておいてやるがそれだけでは厭きる。温かい料理が出れば、きっとエリスさんも喜ぶと思うのだが・・・?」


 キョトリと首をひねって疑問を呈するドラゴンにクリスはそっと囁いた。


「オマエが作れるようになればいい」


───確かにそれはエリスも喜ぶだろう。しかし、わたしは作り方など知らぬし・・・


 困惑を露わに、ドラゴンの語尾がしぼむ。

 クリスとしては、旅の間のエリスの食事環境が心配で仕方なかったのと、もう一つ理由があった。


「調理法は僕が教える。僕はこれまでエリスさんの身の周りのお世話をしてきたが、僕の方が余程オマエより番らしいな?婚姻に当たって伴侶のお世話は当然だろう。ドラゴンでは違うのか?」


───そんなことはない!よし、良いだろう。わたしがエリスの番に相応しいと思い知るが良い!


 意気込むドラゴンを、またもやわし掴み、クリスは部屋を後にした。

 どこへ行くのだ!とギャアギャアうるさいドラゴンに、これから調理場を借りて料理の作り方を覚えてもらうと宣言した。拒否は聞かない。


───しかし、夜中になるぞ?


「それがどうした。出立は明日だろう。ゆっくり寝ている暇はない」


 冷たく言ったら、しくしくと泣き真似をしてエリスの温かい布団にもぐりこみたかった!と小芝居をするが無視だ。せめて簡単な煮込みや焼き物を覚えてもらわねばならない。


 それに、クリス手製の食事をここ暫くドラゴンに食べさせていないので、いつ人化するかと思うと気が気でない。味見させながら、クリスの負の感情を体内に蓄積させておきたかった。

 素知らぬ顔で、意外と悪いことを考えながらその夜ドラゴンと過ごしたのだった。



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