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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
33/41

29-5




 大妃様は聞き上手だった。

 話しながらゆっくりと食べたのでお腹がいっぱいだ。

 スーも取り分けてもらった軽食をテーブルの上に座って片っ端から食べ散らかしている。おかげでティースタンドは完食だ。侍女さんたちが手分けしてテーブルの上を綺麗に片付けてくれるのをエリスは称賛する思いで眺めていた。

 家で食後に適当に皿を下げることは出来てもあんなに綺麗な動作で効率よく片付けることはエリスには無理だ。

 スーの食べこぼしを埃も立てずに刷毛で二、三度掃き清めるだけで取ってしまうなんて神業ではないのかと思ってしまう。

 テーブルの上の物が全て下げられ綺麗になったところで、新しいカップが供された。

 若草色の器は見る角度によっては虹色がかってきらめき、とても美しい。エリスでさえこんなカップなら暫く眺めていれそうだ。

 エリスがしげしげとカップに目を留めたのを見て大妃様は短くカップの由来を語った。そうしてエリスが完全に気を許したところで爆弾を落とした。


「ところで、そちらのドラゴンの方と成り行きで婚約したと聞いたわ。おめでとうと言っていいのかしら」


 カップに口をつけた時、大妃様がそう言いだしたのでエリスは空気ごと無理やりお茶を飲み込むはめになった。よくお茶を噴き出さなかったと自分を褒めてやりたい。


「・・・違います。あれは」


───求婚したのだが、エリスが無効だというのだ。わたしはこんなに愛しているのに。


「まぁ、そうなの?片思いは辛いわね」


 言いかけたエリスを遮ってスーがここで初めて声を出した。大妃様がびっくりした顔でスーと話始めてしまった。こっちもびっくりだ。


「でもそうなるとクリストフのことはどうなさるの?あれかしら、えぇと・・・」


 そっと、小声で古参の侍女さんが大妃様に耳打ちした。


「そうそう。下世話な言い方だけれど、二股ね!」


 邪気なくにこにこと言われエリスはがっくりと項垂(うなだ)れた。


───そうなのか!?二股なのか?エリスはわたしを振り回して良い思いをしている悪女だったのか!?


 きゅっ、とスーの口を掴んで目線を合わせて念を押すようにはっきりと言った。


「クリスともスーとも恋仲になっていないのに二股なんて人聞きの悪いこと言わないで」


「あら?恋仲ではないのに婚約をしているの?」


 大妃様が頬に手を当て首を傾げ、いかにも不思議そうに言う。


「貴族なら家の関係で政略はあるけれど、ドラゴンにも政略結婚はあるの?」


───そんなものはない。エリスがわたしの唯一の番だから求婚したのだ!


「まぁ素敵ね。でもエリスはどう思っているのかしら?」


 にこにこと穏やかに継がれる会話だが、核心をついていて実に鋭い。

 スーはぐっと黙り、エリスをそのオーロラ色に輝く双眸で見つめている。

 エリスはスーの頭をぐりぐりと撫でながら答えた。


「婚約に関しては、不本意ながら成立してしまいました。ドラゴンの性質を知った上で、油断していた私も悪いのです。今はそれを撤回できないかと交渉中です。私は今のところ誰とも結婚する気はありませんので」


「なかったことにできる、と言うの?」


 うーん鋭い。


「まだわからないのです。異種族である上に私たちは相互理解ができていない。スーにはドラゴンの風習があって、婚約を撤回するためには長老を訪ねて知恵を借りなければならないそうなのです」


「エリスは行くつもりなのね?」


 大妃様にじっと見据えられて、エリスは素直に頷いた。スーがぐるる、と機嫌良く喉を鳴らした。


「話してくれて嬉しいわ。あなたの事情はわかりました。こちらの事情も話さなくては不公平よね?」


 何のことかと首を傾げると、こちらにも色々と面倒な事情があるのよ、と大妃様は微笑んだ。


「あなたにはクリストフから直接話をさせるわ。図書室の時は私が先走ったせいでフレッドからもクリストフからも苦情がきて散々だったの」


 ちっとも散々だった様子を感じさせない大妃様は、うふふと少女のように微笑んで支離滅裂なことを言い出した。


「さ、そうと決まればダンスのレッスンをしましょう」


「はい?」


 咄嗟に聞き返したエリスは悪くないはずだ。話が飛躍しすぎて頭上に疑問符を並べたエリスに対して、大妃様は悪気なく、さも当然であるといった風に答えてくれた。


「図書室でお別れの時にお話ししていたでしょう?近いうちに夜会を開くと」


 にっこり麗しの女神は呆然とするエリスにドレスは用意してあるの!あとで細かいところを手直ししましょうね!と有無を言わせず念押しする始末。

 エリスにはお世話になっている大家の言葉に逆らう余地はなかった。


 ほんの一瞬、夜会の前日にでも旅立ってしまおうかな、と魔が差したのは口には出さないでおいた。

 ちらっとスーを窺うと目が合って、にやりと笑っているようだった。

 エリスが面倒ごとを嫌う性質を知っているだけあって、考えを読まれているらしい。


 屋敷の中へ案内されながら、スーはこう囁いたのだ。

「どこまでも、付き合ってやるぞ?」


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