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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
32/41

29-4



 くれぐれも死人をださないで、とエリスは言い置いて閣下と部屋を出た。

 昨日の突然の襲撃に驚きと焦りはあったがその結果、人が死ぬことになるなんて寝覚めが悪すぎる。


 え~、と不満げに口をとがらせたクリスは可愛かったけれど、そこは譲れない。


 パタパタと飛ぶスーと共にオルトンさんに見送られ、閣下に連れられて大妃様の部屋へと向かった。

 以前お会いしたのは図書室だったが今回は私室だという。

 閣下と連れ立って歩きながら、馬には乗れるかと聞かれたので乗れると答えると残念だ、と笑いながら言われた。若い娘(エリスのことをこんな言い方してくれるのは他に居ないので照れ臭かった)と一緒に馬に乗るのを楽しみにしていたとのことだ。

 さりげなく、腹に力を入れて背を伸ばせ、目は伏せるな、目線は出来る限り遠くへやれ、とモテる騎士の心得を伝授して下さったのだが必要だっただろうか・・・。

 閣下が若かった頃は抜き身の剣を背に入れて姿勢の訓練をしていたそうだ。

 今は鞘を背に入れて姿勢の矯正をしているという。大変そうだな騎士団・・・。


「エリス嬢は筋がいいな。素質も申し分ない。どうだ、近衛に入らないか」


 今度は勧誘が始まった。

 雑な性分なのできっと向きません、と断ると考えが変わったらいつでも自分を訪ねてくるようにと念を押された。

 人手不足なのかな。


 クリスの屋敷を一旦出て馬に乗り、城を迂回したところで待ち構えていた騎士に馬を預け中庭を抜ける。

 

 こちらの庭は、いかにも貴族的な整えられた体裁をしていた。

 人の手が入らなければ枯れてしまうバラが種類豊かに揃えられ、淡い色合いがあちこちで彩りを見せている。白、クリーム、薄桃色が多様な花弁を開き、濃い色のものは見当たらない。桃色のバラだけでも数種類見られ花びらが何層にも重なった八重咲きやカップ咲き、小ぶりの房状の花が群生したようなバラのアーチに、同じ形に刈り込まれた緑の灌木が調和し鑑賞用の庭だと一目で分かる。


 まるで花々がこぼれ咲いているかの様な庭の奥に、白い石造りの東屋が姿を現した。

 あちら側からもエリスと閣下が来たのを見つけたのだろう。大妃様が細く白い手を振って待っている。

 

 先日会った時とは違い、濃い紫色のドレスを纏った大妃様はにこやかにエリスを迎えてくれた。

 ドレスには白と淡いピンクのレースが幾重にも縁取りされてありこの方自身が花のようだった。


「いらっしゃいエリス。昨日のことはフレッドから聞いたわ。怪我はなくて?」


 心配そうに手を取られ顔を覗き込まれた。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。クリストフ殿下も私も無事です」


 そのまま手を引かれ、柔らかなクッションの敷かれたソファへと案内された。


「あなたが冒険者で剣を扱えると知っても、聞いた時は肝を冷やしました。本当に無事で良かったわ」


 大妃様と向い合せでソファに座ったら、すっと目の前に音もなくカップが置かれた。目を上げると、年配の侍女さんがにっこりと優しく微笑んでお()ぎしますね、とお茶を淹れてくれた。

 ありがとうございますとお礼を言うと頬を染め、やはりにっこりと微笑んだまま脇に控えた。

 

 スーがしれっとエリスの膝に乗ってきたので、抱き上げ隣へ下した。

 ぐるぐる、と不満げに喉を鳴らしていたので目を合わせて後頭部を撫でると大人しくなった。

 犬に成り下がっている気がする。


 丸いテーブルはどうやら大理石でできているようでヒンヤリとしていて机の縁に小指の爪ほどの大きさの明るい緑のカンラン石がぐるりとあしらわれている。


(これ、いくらぐらいするんだ?)


 などと下世話な想像をするも、万が一カップを落として石が割れたらどうしようと借金の心配に駆られてなかなかカップに手を伸ばせないでいた。

 先ほどの侍女さんがスーにも同じカップを置いてくれたところで、大妃様が食べながらお話をしましょうと侍女さんに目で合図を送った。

 すかさず出てくる巨大なティースタンド。五枚の銀の皿の縁はミル打ちされ花の模様が刻印されているという、とんでもなく手の込んだ一品だ。庶民には縁のない代物に若干笑顔が引きつる。


「フレッド、あなたもご一緒にいかが?」


 大妃様の言葉に老騎士(現役筋肉質)は首を振った。


「嬉しいお誘いですが用がありますのでまたの機会に」


 そう、残念ねとあっさり言って、大妃様は彼へ手を差し出した。(ひざまづ)きその手の甲に唇を落とすと閣下は姿勢良く立ち上がり美しい礼を取って、エリスの方へ向き直った。

 大妃様と閣下の一連の絵物語のような行為をほ~っと眺めていたエリスはぎょっと目を見開いた。


 まさかアレを私にもするつもりか!?無理無理無理無理!と背筋に汗をだらだら垂らして硬直していると閣下は、礼儀作法は気になくていい・帰りは迎えに来ると言って颯爽と去って行った。良かった。


「フレッドの言うとおり、作法は不要よ。好きなだけ食べて。若い人がたくさん食べてくれるのを見ていると気持ちがいいもの」


 ティースタンドには一口で食べれるような大きさの菓子やサンドイッチなど甘味から塩味まで彩りよく取り揃えらえてあった。


「さぁさぁエリスはどれがいいかしら?このハムとチーズとバジルはどう?こっちの山鳥の燻製も少し癖があるけれど美味しいわ。キノコのホワイトソースも捨てがたいわね?」


 促されるまま、料理の名前など分からなかったので全部取り分けてもらった。大変美味しかったです。


 

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