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翌日、すっきりと目覚めたエリスは午前中は騎士団に交じって訓練を受け良い汗を流した。
昨夜アメリアから聞かされた予定通り、午後からは城に向かいクリスの部屋へと案内された。
まばゆい陽光が差し込み、明るい室内でバトラーのオルトンさんの気遣いを受ける。
ティーカップにお茶が注がれ、花の形をした小皿にお菓子が乗せられてそっとエリスの前に置かれた。
お礼を言い、軽く言葉を交わしている視界の向こうにクリスが凄い勢いで書類に何かを書き込み判を押しているのが見えたが、そこには触れない心遣いも熟年のバトラーのなせる技なのか。
「昨夜はよくお休みになられましたか?」
「はい。ぐっすりと」
エリスの答えた後に、ダン!と叩きつけるような判の音がする。
それにも動じず、会話を続けるオルトンさん。
「それはようございました。後ほど騎士団から尋問の結果を直接報告に来られますので、まずはこちらの報告書に目を通していただけますか?」
渡された数枚の報告書には、襲撃者の詳細が記されていた。
名前出身年齢はもちろんのこと似顔絵まで書かれ一種の手配書のようだ。
最後のページには犯行の動機と経緯と雇い主の名が明記されていた。
ダン!とクリスが判を押す。
「たった一晩でこれだけのことを調べたのですか?」
「城内で起きた事件ですので、騎士団としても面目を守るために必死なのでしょう。首謀者はとある子爵なのですが、エリス様がこちらに来られてから面会の要求を何度も退けた相手ですので殿下が怒り狂っておいででしてね」
「僕は怒っているんじゃない!」
クリスがじろっとオルトンさんを睨んで言った。
怒った顔も麗しいよクリス。
「腸が煮えくり返って子爵を再起不能にしたいだけだ」
またダン!と判が押された。普通のお怒りでないことは分かった。
「まぁ、そんなわけでして。殿下はとある会議に向けてそのとある子爵を再起不能にする下処理として書類に埋もれておりますがお気になさらず」
「絶対に許さない。三代にわたって辺境の地へ葬り去ってやる」
がりがりと机を削る勢いで何か書いている。
陽光に溢れたこの部屋で怨念を背負っているクリスからそっと目を逸らした。
その時タイミング良くドアがノックされ、オルトンさんが取次に出て行った。
するとほんのわずかの間に戻ってきて、モーリス閣下がお越しです、と伝えた。それに対してクリスが短く、入って、と返答し閣下が招きいれられた。
閣下とは数日ぶりだ。
きっちりと騎士の正装を着こみマントを靡かせ登場です。腰に挿した剣帯の装飾が素晴らしいです。
年を感じさせない颯爽とした姿勢や歩き方に憧れます。
立ち上がろうとしたエリスは、閣下とオルトンさん両方に押し止められまた座り直した。
クリスが一旦ペンを置いて顔をあげた。
「詳細を」
閣下は姿勢よく立ったまま、尋問の結果を説明し始めた。
曰く、覆面五人のうち一人が子爵の遠縁の騎士くずれだったこと、他は寄せ集めのゴロツキだったこと、金で雇われていたこと、城の裏側の崖を上って侵入したこと。最初からドラゴン狙いで、エリスを動けなくして一緒に連れ帰る目的だったこと。
淡々と説明する閣下に対して、クリスは顔がどんどん引きつっている。
「・・・分かった。命はいらないと」
───燃やせばよいのか?
「それがよさそうですね」
今回ばかりはそこの白いのと気が合いますね!と禍々しいことこのうえない。
エリスは助けを求めて閣下を見た。
閣下は優しく微笑んで頷いてくれた。
「なに、尋問中に命を落とすこともあり得ますからな」
だめだ!この人、頼りにならない!
オルトン どうですかな?進み具合は。
クリス エリスさんとドラゴンの主従関係については書き終えた。
オルトン お茶で休憩なさってはいかがですかな?
クリス 後は、エリスさんがいなければドラゴンの制御が出来ないことを馬鹿にもわかるように訴える原稿と、王族への反逆罪で馬鹿が向こう三十年は大人しくしているように蟄居か領地をいくらか没収。叩けば収賄も出てきたし忙しいな。監察委員会の役員になれるように根回しの手紙も五通書いておくか。
オルトン 監察委員会の宛名はこちらにご用意できております。他にご入用の物がございましたらお声がけ下さい。
クリス ああ、そうだ。後でパウンドケーキを焼くから厨房に材料を揃えるよう頼んでおいて。
オルトン かしこまりました。エリス様にですかな?
クリス ・・・ドラゴン用だよ。
オルトン ? ああ、餌付けですな。
クリス 発情予防だよ。




