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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
29/41

29-1



 かがり火が灯され、荷馬車の車輪がガラガラ音をたて森の中を大人数で進んでいく。

 馬が足りないとの理由からニコラスと相乗りすることになったところでそれをクリスが嫌がり、スーが怒り───エリスはわたしの背に乗ればよい!、と突然元の大きさに戻ろうとして一時辺りが騒然としたのだが、説得の末にスーはエリスの腕の中に納まることになった。

 そしてエリスはというと、非常に乗り心地の悪い荷馬車の荷台に乗せられている。

 覆面五人を護送するための荷馬車なのでとりあえず乗れたらいいというレベルだ。

 付いて行くというクリスにはちゃんと馬が提供された。

 王子様を荷馬車に乗せてはいかんと配慮がなされているらしい。

 体裁が整い静かに隊列が進行していく。

 暫くは馬の足音や荷馬車の音が静かな森に吸い込まれていくようだった。

 ニコラスが荷馬車を操りながら、どうでもいい軽口をたたくのでそれに適当に返していた。


 前方から、ドン!ゴトン!と地響きが聞こえてきたのはそんな時だった。

 あっという間に夕暮れを迎え、格段に暗さを増した森の中に響く不審な異音に騎士たちの緊張と警戒が高まっていくのがわかる。

 隊列が進行を止め、息を飲むほどに静まり返って森の奥を凝視していた。

 そういうエリスもじっと目をこらして、いつでも荷馬車から飛び降りられるように身構えていた。

 注目の中、現れたのは足を溶けない氷に覆われたあの襲撃者の一人だった。

 その姿に覆面はなく、肩で息をし汗と砂と泥にまみれた哀れな様相を呈している。


「助けてくれ!ドラゴンに襲われたんだ!」


 彼は開口一番にそう叫んだ。

 ニコラスが、うんうん大変だったね。それで?と荷馬車から降りて近づきながら話を聞く姿勢を見せたことに安堵した彼はよく喋った。


 仲間と森の中に迷い込んだところ、魔女とドラゴンに襲われた。ここが王家の森だと聞かされ、慌てて戻ろうとしたら見せしめに氷漬けにされ放置されたのだと言う。


「ところでクリストフ王子、この森に魔女なんて居ましたっけ?」


 ニコラスが馬上のクリスを振り返って聞いた。


「居るのは偏屈な医者だけですよ」


 クリスがにこやかに答えた。

 ニコラスが馴れ馴れしく彼の肩を叩き、荷馬車の方へ歩きながら大きな声で会話を続けている。

 仲間ってあと何人いるの?お兄さん疲れてるみたいだからこっちきなよなどと言いながら荷車へと向かってくる。


「で、魔女ってこの子のことかな?」


 にこにこと松明をかざして、荷台にいたエリスを指し示した。

 その時の彼の顔に浮かんだ表情は、驚きと嫌悪。


「そ、そいつだ!そいつがドラゴンに命じて俺たちをひどい目に合わせたんだ!捕まえてくれ!」


 へぇ~、どんなことされたの?とニコラスが煽る。


「仲間がカラシ爆弾でやられた!しかも普通のじゃない!粘膜全部ただれて嘔吐までひきおこす悪魔みたいなひどいやつだった!」


 騎士たちが若干同情を含んだ眼差しで彼を見ていた。


「あれはクリスが・・・!」


 エリスが言い募ろうとしたのを、ニコラスにそっと手で制された。


「それだけじゃない!この魔女はカラシ爆弾から運よく逃げた仲間の股間を蹴り潰したんだ!」


 同情の眼差しが増えた。ニコラスまでもが悲痛な顔をした。


「無言で切りかかってきたのはそっちでしょう!殺されかけたのはこっちですけど?」


 とうとう我慢できずに言い返し、荷台から飛び降りた。覆面だった彼は、小さく悲鳴をあげて後ろに転がった。両足をまとめて氷で拘束されていたのでバランスがとりにくいようだ。


「ねぇお兄さん。どうやったら王城の中に、うっかり(・・・・)迷いこめるのかなぁ?ここは一般人が手違いで入り込める場所じゃないんだよねぇ。ちょっとその辺のこと詳しく聞かせてもらえないかなぁゆっくりとさ」


 ニコラスが人の悪い顔で微笑み、彼の手を後ろ手に縛りあげてしまうまであっという間だった。ぽいっとそれを騎士たちに放り投げ、所持品検査したら荷台に放り込め!と指示してアインに向けて更に指示を追加する。

 残り四人確保してこい!と言われたアインが隊の半分を連れて森の奥へと入って行った。

 ナイフやメモ、丸薬などの所持品を取り上げられた彼が憎々しげにエリスを睨んでいた。


「スー、あの人の足の氷取ってあげて」


───あんな奴らに温情をかける必要はないのに、優しいことだな。


 ほんの少し、揶揄したような呆れた声色だ。

 それでも、とエリスは願った。

 ふんっ、とそっぽを向いてしまったドラゴンだったが願いは聞き入れてくれた。

 縄をかけられ荷台に転がされた彼を横目で見つつ、凍傷は大丈夫かと気になったが黙っておいた。

 スーの言うとおり、殺意を向けてきた相手に対してそこまで心配するのはお人よし過ぎるのかもしれない。

 また隊列がゆるりと進行し始めた。

 今度は馭者を務めるニコラスの隣にスーと共に乗り込んだ。

 程なくして、前方に松明の焔がかたまって揺らめいているのが見え、荷車が停まると同時にスーを引捕まえて飛び出した。そこには足を氷つかせた残りの四人が縄をかけられた哀れな姿で捕縛されており、土にまみれ汗に濡れ疲れ切って虚ろな目をしている。彼らは覆面を外していてどの顔も体力自慢の若さがうかがえた。

 アインが尋問は戻ってからでいいかとニコラスに話しかけたのを横目に、エリスはスーに氷を取るように頼んだ。


───あれらはエリスに殺意を向けたのだぞ?足などなくなっても構うまい。エリスが望めば、すぐにでも息の根を止めてやるぞ?


 このまま彼らを放置すれば足が壊死することを分かってのことだった。

 

「でもね、彼らは人間だから人の(ことわり)のなかで裁かれなければいけないんだよ、たぶん」


 うまくは言えないけど、とエリスは言い置いて続けた。


「襲われたのは私で、私は人で、人の世の中で暮らしているから、スーの考え方と違うことはこれからもたくさん出てくると思う。・・・ごめん、やっぱりうまく伝えられないみたい」


 スーになんとか説明をしようと試みるも早々に敗北した感じがする。

 虹色のうるうる虹彩に情けない顔をしたエリスが映りこんでいる。


───奴らは、人だから人の手で処罰するということだな?


 確認するように、スーがエリスをじっと見つめて聞いた。

 エリスは大きく頷いてスーを抱きしめた。


「ありがとう、分かってくれて嬉しい」

 

 エリスが言うや否や、バキンと音を立てて氷が砕けた。

 すぐさま足にも縄をかける騎士たち、手際が良すぎてこわい。次々と荷車に放りこまれていく。


 スーと話している間に、ニコラスたちも話がまとまったらしい。

 クリスが近寄ってきて、屋敷の調査は暗いので明日にすること、今日はこのまま帰ること、明日また一緒に屋敷を見にいくことなどが決まったと教えてくれた。

 了解して、またニコラスの隣に乗り込もうとしたのだがスーが腕の中から抜け出して空へと飛んで行ってしまった。


「スー?」


 返事はなかった。

 代わりに、どふっと軽い爆音が聞こえ元の大きさに戻ったスタードラゴンが姿を現した。

 月光を浴び、オーロラ色の鱗がキラキラと煌めく様は幻想的で荘厳だ。

 しかし周りの騎士たちはそうではなかった。

 一気に緊張が走り、弓を掲げる者、剣を抜く者、荷台の五人はポカンとしていたり頭を抱えて震えたりと

混乱している。


「どうしたの?」


 空を見上げエリスは声をかけた。

 アインが、あの姿のドラゴンに普通に声かけられるお前がすげぇよ、と小声で呟くのが聞こえた。


 スーがどんな大きさで、どんな姿をしていても、人と敵対しないように計らう義務があるとエリスは思っている。心を許しているからこそ、害獣と扱われないように、追われたり狩られたりしないように守りたいと思うのだ。


───もう用は済んだだろう。


 スーの鼻先がエリスのお腹に甘えるように摺り寄せられ、そのまま足が浮き宙へと放り投げられた。

 どよめく騎士たちを残し、エリスはスーの背中に優しく迎えられた。


───わたしのことも、もっと構ってくれ。あいつらばかりじゃなく。


 初めて乗ったスーの背は滑らかでほんのり温かい。

 スーの足の下でクリスが怒っている声が聞こえる。


───エリスはもらっていく。


 それだけ言うと、スーは上昇を始めあっという間に地面は遠くなった。




アイン   ちょっと、あれまずいんじゃないっすか!?

ニコラス  あ~、飛んで行っちゃったねぇ。討伐隊か捜索隊でも出す?

クリス   問題ありません。ちゃんと戻ってきますよ。

ニコラス  へぇ、殿下はあのドラゴンを信用してるんですね。

クリス   あいつは信用してません。

アイン   ・・・(どきっぱり言った!)

クリス   エリスさんを信頼しているからです。あいつを説得して帰ってきますよ必ず。

ニコラス  まぁペットは主人の言うことを聞くものですしね!

アイン   ・・・(あれ、ペットか?なんか違うよな?)

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