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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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続 ひどい女



 五人の氷漬け覆面を残して、エリスはクリスたちを追った。

 さほど遠くないところで追いつき現状を伝える。


「ふぅむ、何が狙いだったのか推し量るには情報が足りん。捕えてあるのなら、あとは騎士団に任せるとしようかの」


 デメリューシュの言葉にもっともだと同意して、また道を引き返す。

 空は茜色に染まり、夕暮れまでには城に着きたい意向だ。

 

「ところで、あの氷はいつ溶けるの?」


 何気なくスーに聞くと、またもや胸を張って答えた。


───永久に溶けることはないから安心しろ。奴らはわたしが術を解くまであのままだ。


 ひっ、とエリスの喉が鳴った。


「あれは氷に見えたけど、氷ではないの?」


───氷だが?


 心底不思議そうに聞き返された。


「えぇと冷たい、よね?」


───そうだな。熱い季節には重宝するぞ。


 耳のあたりを桃色に染めて、エリスと過ごす夏の時期にはあれをだしてやろう!と意気込むスー。

 エリスは若干焦りながらぐりん、とデメリューシュに向き直った。


「せんせい、人が凍傷で壊死するとしたら何時間かかります?」


「三時間以上、低体温になると危ないかもしれんな」


 やばい・・・。急いで城に帰って、騎士団を呼ばなければあの五人まずいことになる。後で訴えられたらどうしよう。


 どうした?と尋ねられ、エリスは前方を指さした。デメリューシュの視線の先には膝から下をがっちりと氷漬けにされた哀れな覆面の姿があった。

 氷を砕こうと必死になっている。


───ふはははは!人間に簡単に砕けるはずなかろう!そこで指をくわえて懺悔の時を待っているがよい!


 得意そうなスーだが、残念なことに完全に悪役のセリフだ。

 城へと急ぎたいのに、研究者たちがあの氷を調べたいと言い出し近寄ろうとする。彼らに危機管理能力はないのか。ついさっき襲われたばかりだというのに。

 覆面は上半身は自由に動けるので近づくと危険だし、何を持っているかも分からないから近寄るなと何度も言っているが、貴重な研究の邪魔をするなと逆切れされる始末。

 エリスとクリスが彼らを(なだ)めていると、視界の端にデメリューシュがスーにひそひそと何か言っているのが見えた。よからぬ話ではないだろうな。

 直後、コロンと七色に光る小さな氷をもらってデメリューシュが歓喜した。


「見ろ!これがあの氷と同じ物だ。道中、観察しながら行こうではないか」


 非常にご満悦なデメリューシュに、わっと研究者たちが殺到した。

 大変な騒ぎになり、ちっとも前に進まない。

 こっちは加害者になりかけているというのに。


「みなさん、行きますよ!」


 やや大きめの声で伝えたが反応がない。


「・・・荷車の物をここでぶちまけられたくなかったら、歩いてください」

 

 ぴたり、と騒ぎは静まった。

 大変に低い声が出てしまったが後悔はしていない。

 覆面の足元を名残惜しく見ながら、研究者たちが歩きだしてようやく前へ進む。

 

 陽が傾きつつある中、前方に人影が見えた。視界が先程より悪くなってきているので、エリスは相手を見定めようと警戒していた。


 おーい!と呑気に手を振っているのはアインと騎士団の面々だった。傍にオルトンさんとエマとアメリアもいた。


 お帰りなさいませ、と優雅な仕草で出迎えられエリスはすみませんと反射的に謝ってしまった。

 クリスは堂々として、オルトンさんに事情を説明している。

 エリスもアインに説明しようとすると、すごく嫌な顔をされた。


「またやらかしたのか」


 まったくもってその通り。ぐうの根もでない。


「んで?ドラゴンが目ぇ覚めたってことはあれやったのか?」


「アインが言った方法で本当に目を覚ましたよ。だけど、口から火を噴いて屋敷の天井に穴を開けたから修理がいる」


 はぁぁぁぁ、と深いため息をついてアインが指示を出していく。さっさと歩き出してしまうのでエリスは慌ててアインの袖を引き、覆面のことも話した。


「はぁ?また厄介事増やしやがって」


 迷惑顔を隠しもせず追加で増員を指示する。

 後ろで、デメリューシュとスーがさっきからひそひそやっている。何なのだ。


「とにかく、お前とドラゴンは一緒に着いてきてもらうぞ。城の中に不審者とか俺たちシバかれるだろうが」


 アインはぶつぶつと文句を言いつつ、覆面についての情報を聞き取りメモしていく。

 そうしていると騎士の仕事をしているように見える。それを言うと頭をはたかれた。


「なんで騎士団が来たの?」


「そこからかよ・・・。城の中の警備とかだけじゃないの俺たちの仕事は。庭師の指示で造園もするし城の改修工事もするし力仕事は全部こっちにまわってくるようになってんだよ。身元の分からん奴を城の中にいれるわけにいかんだろうが。ま、平和な証拠だな。」

 

 へぇ、と返事をしたところで馬のいななく声と軽装の騎士たちが続々と到着した。

 やたらと人数が多い気がする。そして幌のない荷馬車を御しているのは訓練場で知り合いになったニコラスだ。へらり、と笑ってエリスに手を振った。


 事情聴収の終わった研究者たちがぞろぞろとオルトンさんに引率され城へと向かい、エリスが引いていた荷車も騎士が代わってひいていった。

 エマが夕食の支度をしてお待ちしております、と囁いてその後に付いて行った。


 空は茜色から藍色に変わろうとしていた。

 私もそっちに付いて行きたい。

 


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