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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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ひどい女




ドラゴンに肩入れする研究者たちの小言を聞き流しながらエリスは荷車をひき城までの道をゆっくりと進んでいた。

 力任せにひこうものなら、研究者たちからの糾弾と悲鳴があがるからだ。

 スーがちらちらとエリスを見ながら、すぐそばを飛んでいる。

 クリスは荷車を後ろから押しているので表情は分からない。


 この三週間、鍛錬らしい鍛錬をしていなかった為エリスにはこういう力仕事が今はちょうど良い。


「な?ドラゴンの番など滅多にはない幸運だぞ?」

 

 デメリューシュのお爺ちゃんがさっきからドラゴンのまめ知識を披露してくれている。

 エリスは聞き流しているが、時々クリスが後ろから洗脳はやめて下さいね!と怒声を浴びせていた。


 番に一途なために浮気の心配はないとか、溺愛されて女の幸せを掴めとか、相手が死ぬと残った方も弱るとか色々生態に詳しいようだ。

 ふーん、と気のない返事をしていたエリスだったが前方に黒っぽい数人を見つけて表情を引き締めた。

 軽装ではあるが装備を着けてる。城の訓練場で見たのとはどれも違っていた。しかも覆面で怪しいことこのうえない。


「さがって!荷車をお願いします」


「はて?出迎えにしては物々しいな」


 とぼけたデメリューシュの前に出て、腰の剣を抜こうとしたのだがそこに剣はなかった。

 帯剣してこなかったことを思い出しエリスは行儀悪く舌打ちした。

 持ってくるべきだった。


 突然止まった荷車に不信を抱いてクリスがこちらへやってきた。そしてエリスと同じように前方を見て眉間に皺を寄せている。


「引き返すべきですか?」


 端的に聞かれ、エリスは頷いた。この人数と荷車を守って戦える自信はなかった。研究者たちには自分で自分の身を守ってもらうしかない。

 デメリューシュの声を合図に荷車が道を戻っていく。


「クリスも行って」


 迷っていたクリスだったが、エリスのポケットにそっと丸いボールを忍ばせると荷車を追って行った。

 耳元で、カラシ爆弾です、煙を吸いこまないでと言い残して。

 全くいつそんな物を作っていたのやら。

 黒っぽい人影はどんどん迫っている。数もはっきりと確認できた。五人だ。


「スー、悪いけど当てにしていい?」


───勿論だ!番の頼みはなんだって聞き届けるのがわたしの喜びなのだからな!


 苦笑しながら、安心した。

 魔獣や害獣なら遠慮なしに戦ってこれたのだが、友好的とは言えそうにない人と剣を交えるのは初めてだったので。

 しかしドラゴンは手加減や容赦といった機微には疎く、やれと言ったらどこまでやってしまうかエリスでも分からない。


「生かして捕えたい」


 そう短く伝え、ドラゴンの返事も待たずにエリスはポケットに手を突っ込んで、ボールを二つ握ると二手に分かれた相手の足元に向かって投げつけた。そしてすぐさま身を(ひるがえ)し後退した。

 もうもうと黄色い煙が立ち込め咳き込む音が聞こえた。

 振り返ると煙から三人が勢いよく出てきてエリスに剣を振りかざしたのを、とにかく避ける。

 残る二人はよろよろとした足取りでえづき戦闘意欲を失っているようだった。

 次々と間合いを詰めてくる相手の首を狙い袖口から薄手のナイフを滑らせて飛ばそうとして、一瞬迷う。

 当たれば命を奪うものだ。

 でもナイフの数にも限りがある。

 理由も分からず自分の命が狙われたとしても、他人の命を奪うことに躊躇いがあった。

 

 そうした躊躇の隙に剣が肉薄し咄嗟にエリスがとった行動は相手の股間を蹴り飛ばすことだった。

 

 なんとも言えない悲鳴を上げて目の前の一人が悶絶し、気絶した。

 未だえづいている二人と気絶した一人を残して、じりじりと後ずさる覆面二人。

 小声で囁きあっているようだったが、エリスが地面に落ちた剣を拾い肩慣らしに振っているとますます下がる。


「スー、そこの三人捕獲しておいて」


 うむ!と元気の良い返事が返ってきた。 

 コォォォォ!と冷気が辺りを漂い、見やった先には氷漬けにされた三人の覆面の姿が・・・。

 違うよ!冷凍しろとは言ってない!

 エリスは青くなった。追われる身にはなりたくない!


「それ、生きてるよね?」


 ん?と小首を傾げたスーはあざと可愛い。

 改めて膝から下のみを再凍結して胸を張るドラゴンを(ねぎら)う。


「スー、あっちの二人も頼める?」


 任せておけ!と頼もしい返事の直後、残る二人も捕らわれた。



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