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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
23/41

喜びは分け与えるもの、秘密は共有するもの 4

  


 はー、と大きくため息をついて、エリスさんは優しすぎますよとぽつりと漏らされた不満。

 嫌われると思った、と次いで小さくこぼれた不安。


 エリスはぎゅうっとクリスを抱きしめた。


「大丈夫、嫌ったりしない」

 

 エリスの腕の中で、クリスはじっとしている。


「クリスもスーも既に私の家族だから」


 腕の中からまたもや大きなため息が漏れた。

 クリスががばっと顔をあげて赤い顔をして言い(つの)る。


「僕はエリスさんが好きなんです!一人の男として!あいつも!」


 至近距離から顔を覗きこまれていたが、エリスはまったく動じなかった。

 クリスの気持ちは、エリスの心を温めてくれるがそれだけだ。


「私は家族として二人とも好きだよ」


 実際、男としてあるいは恋愛の相手としてクリスやスーフェリアルを見ることは今のエリスにはできそうにない。恋愛感情が備わっていないのだと思う。

 物語のように、村の女の子たちのように、勇者や王子様に憧れ恋に恋して執着するほど人を好きになったことなどない。

 家族として好き。それが今のエリスにとって最大の好意を示すものだった。


「いいんです。僕はいつまでも待てますから」


 クリスがぎこちなく腕から抜け出した。顔は相変わらず赤いままだ。


「今思うと、あいつに色々食べさせておいて良かった。人の姿になれないならただの可愛いペットですからね。危険は減りますよね」


 それには曖昧に笑っておく。


「エリスさん、あいつの番になりたくないならこのことは黙っていて下さい」


 そうする、とそれには素直に同意しておく。


 隣、見にいきましょうとクリスが微笑む。

 その柔らかい微笑みに、つい言葉がでた。


「私はあの家で三人で暮らしたいだけなんだけどなぁ」


 驚いたようにクリスが振り返った。


「あ、ごめん。これは私の我儘だから。気にしないで」


「・・・城に来てもうすぐひとつきが経ちますね。戻りたいですか?」


「・・・そうだね。あの生活が懐かしいと思うようになった」


 朝起きると良い匂いがして、窓を開けると爽やかな風が吹き込んでくる。着替えて部屋を出ると、クリスがおはようと可愛い顔で迎えてくれてスーがパンを片手ににじにじと近寄ってそれを叩き落として始まる朝食。ギルドへ行って依頼をもぎ取ったり、クリスと一緒に買い物をしたり、道具の手入れに薪割りといった自由で騒がしい毎日が思い起こされる。


「・・・僕もあの家での生活が好きですよ」


 すぐ傍に誰かがいて、楽しかった。

 城での生活は、不自由なく世話されているのにクリスとの距離が遠い。身分が違うから仕方ない、と諦めていた。もしかすると、あの生活には戻れないのかもしれないと漠然と考えてしまい胸がつまる。

 

「罰あたりだな私は」


 クリスの好意で家に置いてもらった。

 何ができるわけでもない、ただの居候だ。甘えていたのはエリスだ。

 すっかり世話をされることに慣れてしまい、その生活を捨てることは嫌だと我儘を言っているだけ。


「落ち着いたら、帰りましょう」


 クリスの方が、余程おとなだ。

 胸の中のわだかまりは払拭されず静かに蓋をされた。


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