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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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喜びは分け与えるもの、秘密は共有するもの 3



 クリスが二人分のカップを持って、隣のリビングへ行ったのでエリスもついて行く。

 本当はスーのことが心配でおじいちゃん達に観察される様子を見ていたかったのだが、あの様子なら大丈夫だろう。

 とても丁寧に扱われている。

 エリスは、甲斐甲斐しく窓を開けクッションを(はた)きテーブルを拭き上げ床に箒までかけているクリスの姿をじっと見た。

 こんなに家事のできる王子様がいてよいのだろうか。

 麗しい見た目に家事スキルまで完璧で、これまでいったいいくら世話をしてもらっただろう。

 彼の兄弟は王子様然としていたので家事など無縁そうに思える。あまりよくは知らないが。

 一通り部屋を整えたクリスが、どうぞとソファを勧めてくれた。

 棚に上げられたカップには蓋がされており、それをエリスの前に置いてくれた。

 じっと見られていたことに、どうかしましたか?と小首を(かし)げて聞いてくるとかどんなワザですかすごく可愛い。


「クリスの家事スキルはここで磨かれたんだね」


「僕以外、誰も衣食住に関心を向けない変人揃いだったんです。命の危険を感じてこうなりました」


 おっと毒舌も健在だった。

 それが?と目で問うとか上級スキルだね!


「クリスと出会って世話をしてもらえて私はラッキーだったなと思って」


 素直にそう言うと、みるみる赤くなった。


「それで、来る途中の話の続きは?」


 ここでその話題振るとか!今いい雰囲気だったのに!とがっかり感に(さいな)まれるクリスを見ていて心が痛まないわけではないけれど、甘やかしてばかりでもよくないはずだ。

 なんだろう、これが育児?


 エリスが明後日の方向に考えを飛ばすなか、クリスはちらっと隣の部屋を見てそっと扉を閉めて戻って来た。やや近くに寄り、エリスの目を見つめた。


「僕がそのことを知ったのは、ほんの少し前のことです。それに僕の立場上、ドラゴンのことを議会に報告しないわけにはいきませんでした」

 

 黙っていてすみません、とクリスは下を向いた。

 

 王族には、自国の民に対する危険を回避あるいは見過ごさないこと、また議会への報告の義務、そしてその幸せに生きる権利を守ることが必然的に課されているのだという。

 

 クリスもドラゴンが希少なだけでなく人々に対する危険を孕むことを考えると王族として報告の義務に従うより他なかった。

 クリスの報告よりも前に、既にエリスとドラゴンが監視対象になっていたことを知ったのはその時だ。

 そこで主に学者を中心とした識者により、ドラゴンの生態が徹底的に調べられ倫理的観点から今後の対応策が練られ訴状にされていたことに愕然としたクリスは、スタードラゴン監護会なるものに名前を連ねたのだそうだ。

 クリス自身も当事者なのに、見知らぬ他人にプライベートが筒抜けになっているのが我慢ならなかった、とややお怒りの様子。

 

「その訴状にあったドラゴンの生態というのが、学者たちによって古い文献やら資料から徹底的に調べられまとめあげてあるわけですがハッキリ言って資料が古すぎて眉唾ものも多く含まれています。で、その中に人へ擬態できるという記述がありました」


 さらにクリスが近くなった。


「人に擬態する条件とは、番が人であった場合であると明記されていました。あいつは常日ごろからエリスさんに求婚しているし、この条件に当て嵌まると考えられ僕は危機感をもったのです。ここからは偶然だとも必然だったとも今では思えるのですが、人の作った食べ物を食べ続けるとドラゴンはその食べ物に込められた人の思念を受ける、ともありました」


 よく理解できず、つまり?と結論を促す。

 あれ?クリスがちょっと涙目で顔赤い・・・


「僕の作った料理を食べ続けたことで、僕の嫉妬やエリスさんへの気持ちが全部あいつに筒抜けで!でもあいつは鈍くてそれに気づかないまま僕の負の感情を体にため込んで擬態できずにいると推測します!」


 僕があいつに呪いをかけたようなものです!と言い切ったクリスはひどく落ち込んでいて、やっぱり涙目だった。


「それは無意識だったんだろう?」


 たぶん、と自信なさげにクリスが答えた。


「じゃあ、クリスが責任を感じる必要はないよ。これはきっと偶然で必然だった」


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