喜びは分け与えるもの、秘密は共有するもの 1
そんな経緯から、翌日エリスはクリスと連れだって城の厨房へと向かいちょっぴり辛い香辛料を分けてもらった。激辛香辛料は置いていないと言う答えだったので、ほっと胸をなでおろしたのは秘密だ。
クリスは残念そうな顔だったがすぐに笑顔をつくり、自分に薬草の知識を与えた師を紹介したいと言った。
その時に聞こえてしまったクリスの呟きには戦慄したのだが、自分の師なら昏睡状態からの起こし方に何かヒントをくれるかもしれないと言う。
──────激辛じゃなくても、ちょい辛激マズでもいいかな。
って、ホント罰ゲームみたいだから止めてあげて。
※ ※ ※
濃い緑の草いきれがひんやりと体を押し包み、もはや森と言わざるをえないところを二人で歩く。
このお城、広すぎる。
クリスの手には、ランチとさっき入手したちょっぴり辛い香辛料の入ったバスケット、エリスの腕にはスーが抱かれている。
スーがこんな状態でなければピクニックと言って差し支えないのんびりとした空間だ。
他愛無い話の合間に、ふとエリスは疑問に思ったことを訊ねてみた。
「スーの味覚って人と同じなのかな?」
「大して変わらないと思いますよ。家で一緒に食事していたでしょう?塩分と甘味は僕たちと同じものを食べていましたよね」
苦味と辛味は食べてないのでどうなんでしょうね?って言うクリスが良い笑顔すぎる。
「それに成体だから本当は水だけで生きていけるはずですよ。なのにエリスさんの真似をして食事したり眠ったりするなんて酔狂なドラゴンですよね」
「こんなに人間に近いところにいて、野生に戻れると思う?」
エリスの問いかけに、クリスは大きく頷いた。
「問題ないと思いますよ。ドラゴンは好きになった相手に習性を合わせる器用さを持っています。大昔に人と番ったドラゴンがいたと文献に記されているぐらいですから。だからエリスさんも気をつけて下さいね」
「ああ、だから人の姿が取れるのか・・・」
納得、とうんうん頷いたエリスだったが、突然クリスに腕をつかまれ驚いた。
どうしたの、と言うより早く真剣な目をしたクリスが眼前に迫っている。
「いつ人の姿になったんですかそいつ」
もはや、そいつ扱い。ちょっと落ち着いて。
驚きつつも、無意識下で会った時にと答えた。
「エリスさん、絶対に夢の中に会いに行かないで下さい。危険です」
「どうしたの?何がそんなに危険?」
「人の姿になったということは、完全にエリスさんをものにしようという気持ちの表れです。夢の中だろうが二人きりで会うのは僕は反対です。何をしでかすかわかりませんよ本性は獣ですからね」
「そ、そうなのか?現実では人の姿になれないといっていたぞ?」
「それはそうですよ、だって僕が・・・」
やや押され気味だったが、今度はクリスが言葉に詰まった。訝しく思いクリスの顔を凝視すると、ふいと視線が逸らされた。
ピン!ときて、優しく促す。
「何を隠しているのかなぁ?」
目を逸らせたまま、クリスはスーを見て、それからエリスを見た。緑の瞳が揺れている。
「・・・邪悪で狡賢いドラゴンの前で秘密は言えません」
いやに頑ななクリスを前に、追求したが答えは得られなかった。代わりに譲歩する。
「じゃあ、スーはここに置いておくから少し離れたところでなら話せる?」
クリスが首を振った。否の答えだ。うーん、とエリスは天を仰いだ。
ややあって、クリスが言った。
「僕の師の研究所に着いてから」
それでいいよ、とエリスは請け合った。クリスが譲歩してくれたことが嬉しかった。
ほどなくして、森の中に屋敷が姿を現した。
それは森と同化するようにしっくりと馴染み、壁にはつる草が這い苔が生え緑色の様相を呈していた。
煉瓦作りのどっしりとした・・・廃屋のような屋敷だった。窓枠は傾き、入り口とおぼしき扉には雑草が茂り、これは夜に見たらだめなやつだ。
「あーあ、やっぱり研究所の手入れしてない。あれだけ言ったのに・・・」
ぶつぶつと小言を言いながら、クリスは些か乱暴に扉を叩いた。
ぎぃ、と軋みながら小さく扉が開いた。
返事が返る前クリスは遠慮なく、よいしょ!とその重そうな扉を開き中に入った。エリスも続いて入る。
「せんせー!どこですー!」
奥の方からくぐもった呻き声が聞こえた。
あ、あっちだ。とクリスはエリスを連れて迷うことなく奥へ向かった。




