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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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クリスの事情①

  

 エリスとドラゴンが町はずれのクリスの家に住みつき、暫く経った頃。

 相変わらず、クリスとドラゴンの戦いは続いていた。

 エリスはギルドに行って今は居ない。


「まったく、いい加減諦めたらどうなんですか」


─────なぜ諦める必要があるのだ。


「人は人同士、ドラゴンはドラゴン同士がお似合いですよ」


─────わたしも年頃になれば擬人化できる!


「・・・いつ頃、なる予定なんですか?」


─────おまえにはただで教えるものかっ!


 ふんっ、と小さく炎を吐き出しそっぽをむいたドラゴンにクリスは食卓テーブルの上に置いてあった果物カゴからオレンジを取り出して首を傾げた。


「・・・僕、おやつにオレンジのパウンドケーキ焼くつもりなんですけど、欲しいですか?」


─────うむ!それが良いな。


「それで、擬人化いつするんですか?」


─────それがなぁ、出来るはずなのだがピンとこないのだ。あと数年はかかるかもしれぬ。


「へえ、まあガンバッテクダサイね」


─────おまえ、思ってもおらぬことを・・・!


 ぎゃあぎゃあと騒ぐドラゴンを放って、クリスはオレンジを持ってキッチンに行ってしまった。

 腹の虫が収まらないドラゴンは空中飛行で憂さ晴らしをすることにした。



※ ※ ※



 以前、元の姿に戻った状態で空中飛行した際には、近隣住民を恐慌状態にしてしまいエリスにこっぴどく叱られたため小さなままでの飛行だが、空はやはり気分がいい。

 途中、馬鹿な鳥が襲ってくることもあるが、丸焼きにしてやるとさらに気分がいい。

 それを持って帰るとエリスが喜ぶのでしっかりと小脇に抱える。


 町の向こうの森を越えて二つ向こうの町が見えてきた時、キラキラと光るものが目についた。

 目を凝らすとそれは鎧を着た人間の行列だった。綺麗な馬車も数台あった。


─────はて?あれは何であろう。まあ、エリスに関係なくばどうでも良いのだが。


 そのまま散歩を楽しみ、陽が暮れる頃ようやく家に戻るとエリスが迎えてくれた。


「散歩に行ってたの?」


─────そうなのだ。そこの小僧にいじわるをされて悲しくなってな。


「クリスはそんなことしないでしょ?」


「どこでそんな小芝居を覚えてくるんでしょうね」


 ドラゴンの嘘をあっさり見抜き、脇に抱えていた鳥の丸焼きを受け取ったエリスと一緒に食卓につく。

 始まった食事は、いつもの通り賑やかなもので。


「今日はどんな依頼があったんですか?」


「あぁ、今日は薬屋の依頼でジキルの花摘みに森の方へ行っていたんだ」


 ぴく、とドラゴンが反応した。


─────それは明日も行かねばならぬのか?


「ん?いや、今日で終わったよ?どうかした?」


─────鎧を着た人間の行列を二つ向こうの町で見かけた。明日は森に近づかぬ方が良いと思う。


 へぇぇ、珍しいものが近づいてるんだね。明日にはこの町を通るのかな、とエリスとドラゴンが喋っているとクリスが音をたてて席を立った。行儀のよい彼にしては珍しい。

 そのままカレンダーをめくって何やら計算しているらしい。


「クリス、どうしたの?」


「・・・エリスさん、僕、明日から暫く実家に帰ってきます」


「え?急になんで?」


 驚いたエリスと喜びを隠さないドラゴン。

 ドラゴンを冷たく一瞥し、エリスにはしょんぼりと説明をする。


「前に実家の商売は兄たちに任せてるって僕、言いましたよね。好きなように暮らしてるんですけど、両親が心配するので成人するまで三か月に一度、顔を見せに帰ってるんです。それが明日でした・・・」


 目に見えて落ち込むクリスだったが、ぎゅっとエリスの手を取り目をうるうるさせて言った。


「本当はエリスさんを残して帰りたくないんですけど・・・約束なので。そこのドラゴンにはくれぐれも気を許さないで下さいね!絶対ですよ!」


 ドラゴンがクリスの手をぺちぺちと叩いている。目をうるうるさせるクリスも、ぺちぺち攻撃するドラゴンも可愛くてエリスは微笑んだ。


「私の心配はいらないよ。クリスこそ、一人で大丈夫?途中まで送って行こうか?」


「・・・いえ、大丈夫です。迎えがくるので」

 

─────そうだ、後のことは気にせず実家でゆっくりしてくるとよいぞ。エリスと愛の巣を築いておくからなはっはっはっ!


 その直後に始まった罵り合いをよそにエリスは食事を再開した。

 ほんの少し、自分の両親を思い出して寂しさを感じたのは内緒だ。


※ ※ ※



 次の日の朝、エリスが起きてリビングに行くと既にクリスが用意をすませて玄関の前に陣取っていた。


「おはよう。クリスはもう食べたの?」


「おはようございます。いえ、まあ、今日はいらないので・・・」


 珍しく煮え切らない返事だった。

 食卓には熱々の鍋と焼きたてのパンが乗っている。そしてオレンジのパウンドケーキも。


「日持ちのするおかずを置いてますけど、味が悪くなっていれば食べずに捨てて下さいね。それと朝の換気は必ずして下さい。洗い物は出来るかぎりやって下さい。たたむのは帰ったら僕やりますから。あと、そこのドラゴンにはくれぐれも用心して下さいね。それから・・・」


 まだ続きそうな些細な注意を途中で遮った。


「わかった!わかったから、クリスこそ気をつけてね。久しぶりなんだからゆっくり甘えてくるといいよ」


「僕、そこまで子供じゃないですよ」


 むっ、としたクリスがドラゴンを手招きしてひそひそと話しだした。ドラゴンも何やら神妙な面持ちで頷き、任せろと請け合っている。

 その時、ドアがノックされ、大声が響いた。


「クリストフ・ルーシュ殿下、お迎えにあが・・・」


 クリスが凄まじい勢いでドアの外へ出て、バタン!とドアが閉まった。

 外でクリスがまくし立てているが詳細が聞こえない。

 エリスがドアに近づくと、またもや凄い勢いでクリスが入ってきてドアを閉めた。


「そんな訳で、エリスさん。留守を頼みます。あぁ、ほんとに離れたくない・・・」


 エリスはくすくす笑って、クリスを抱きしめた。


「待ってる。行ってらっしゃい」


 ほわぁ、とクリスの頬が染まった。乙女なのか?

 

「お見送りはここで!朝ご飯も冷めてしまいますし」


 クリスはそう言いおくと、エリスの頬に軽いキスをしてまたもや素早くドアの外に出てしまった。

 最後まで頬が赤いのは、やはり純情乙女だからなのか?可愛いぞクリス。



クリス  いいですか。この家には家人に害意を抱く者は入れないよう結界が張ってあります。

ドラゴン 知っているぞ?

クリス  ・・・教えてないですよね?

ドラゴン うむ!わたしは賢いので、ここに来た時にそれに気づいたのだ!

クリス  ・・・そうですか。

ドラゴン どうだ凄かろう!さらに言うと、結界が邪魔で入りにくかったので少し焼き切っておいたのだ!

クリス  結界焼くバカがどこにいるんですか!この阿呆が! 

ドラゴン 仕方あるまい。わたしより結界の方が弱いのがいかんのだ。

クリス  ・・・百歩譲ってそうだとしても!僕の留守の間、エリスさんを必ず守って下さいね!

ドラゴン もちろんだ。まかせておけ!

クリス  あの人は人タラシだから心配でしょうがないんです。

ドラゴン それは良くわかるぞ。お前も気苦労が絶えんな。

クリス  ・・・

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