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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
16/41

檻の中




 ベッドにもぐり、柔らかな枕の感触を感じながらエリスは眠りについた。

 ほんの午睡だ。

 意識がゆっくりと沈んでゆき、心地よい眠りが訪れる。



※ ※ ※



 エリスはまた乳白色の空間に来ていた。

 前回と違うのは、目の前に人の姿をしたスーとエリスが寝ころびながら戯れている光景があったことだ。

 誰だアレ。


 寝ころんだスーの上に覆いかぶさり、彼の髪を梳いたり頬をなでたり、ところかまわずキスをしているエリス。

 とにかくいちゃいちゃしている。


「ちょっと待てぇ!」


 思わず叫んでもしょうがない。本当に何なんだアレ。

 ぽん、と音をたててスーの上のエリスが消えた。

 抱きしめようとしていたらしいスーが、その格好のままこっちを見た。


「おお、エリス!来てくれたのだな!」


 にこにこと嬉しそうな顔で起き上がり抱きしめようと近寄ってくる。

 なぜか無性に腹立たしい。

 エリスもスーに向かって駆けだした。

 抱きしめられた瞬間、勢いのまま腹に拳を叩きこんだのは許してほしい。


 ぐっ、とうめき腹を押さえて屈んだスーに、ドスのきいた声で訊ねる。


「今のはなに?」


 ちょっと涙目なのが可愛いとかちっとも思わない。


「・・・い、今のはだな、暇だったのでエリスの幻を作って遊んでいたのだ」


「へぇ?人に心配かけといてそういう遊びをしてたんだ?」


 ばき、とエリスの拳が鳴った。

 ひっ、と聞こえたのは気のせいだろう。何しろ相手はドラゴンなのだから。


「ち、ちがう!だって、エリスは現実ではあんなことしてくれないではないか!」


「する訳あるかぁ!」


 スーの胸元をつかんでガクガクと揺さぶる。


「つ、つがいなのだからキスのひとつもしてくれたって良いではないか!」


「つがいになった覚えはない!それに私は結婚などしない!」


 そんなぁ、と美形が情けない声をあげる。そして泣き真似まで始めたがエリスの心はちっとも揺さぶられない。

 ふーっ、と大きくため息をつきエリスはスーの肩に手を置いた。


─────皆、スーのことを心配してるんだよ。あれ?


 声が出ていなかった。

 それを涙にぬれたキラキラの瞳で、スーがほっとしたように言った。


「少し落ち着いたのだな。良かった」


─────どういうこと?


「エリスが激しく怒ったり悲しんだりすると私の魔法がきかないということだ。この空間は私がルールなのだが、さっきのエリスはひどく怒っていたから私のルールが破られたのだ」


 つがいには弱いのだ、と少し嬉しそうなのはどうしてだ。


「まあ、とにかくだな。私はエリスがつがいになってくれるまで、ここから出ないと決めている」


 エリスは必死に考えた。

 つがいにはならない。でもスーには出てきてほしい。


─────・・・キスするから、ここから出てきてくれないか?


 スーがカッと目を見開いた。

 対するエリスは自らの発言の恥ずかしさに火を噴きそうだった。


「・・・これは夢の続きか?本物のエリスなのか?」


─────私は本物だ!スーがいないと寂しいんだ。家族みたいなものだから。


 エリスよりさらに背の高いスーフェニアルを見上げ必死に言う。

 スーの顔が近づきエリスの唇に触れようとしたとき、さっと手がそれを押しとどめた。

 スーの眉間にしわが寄る。


─────ここから出たら、キスする。


「それはするする詐欺ではないか!」


─────だめかな?


「だめに決まっているではないか!ここから出れば私はドラゴンの姿にしかなれん!却下」


─────そもそも、なんで現実ではその姿になれないんだ?


 スーが腕を組んで首をかしげた。そんな姿さえも様になっている。美形って得だな。


「近頃、体内の気の循環が操りにくくてな。思うようにいかんのだ。何かに阻害されているような・・・」


─────思いあたることはないのか?


「私も長く生きてきたがこんなことは初めてなのでな」


─────よし!じゃあ外に出たらその原因を責任もって探すことを約束する。だから一緒に帰ろう。


「それは一見良さげな提案だが、私はつがいとキスしたい」


 キスにとりつかれたドラゴン・・・。めんどくさい。

 エリスがこっそりため息をついた隙に、スーフェニアルが接近していた。

 がっちりと体ごと捕えられ、どんどん顔が近づいてくる。エリスは必死に顔を背けたが、スーフェニアルの嬉しそうな気配を傍で感じ、ぎゅっと目を瞑った。

 耳たぶに舌が這わされた。

 ひっ、と喉が鳴った。

 温かい感触が耳を包みこみエリスは腰が抜けてしまった。自然と涙ぐんでしまったのはなぜだ。

 スーフェニアルを睨みつけたにも関わらず、彼は満面の笑顔だ。

 そして唇も食べられた。


 放心状態のエリスが我に返ったのは、スーフェニアルに服を脱がされかけていた時だった。

 

「ちょっと待てえぇ!!!」


 無防備に近い彼の腹をめがけて足が出たのは本能ゆえか。

 ぐうっ、と蹲った彼の前に仁王立ちになり低い声で聞く。


「嫌がることしちゃだめだって、教えたよね?」


「ま、待てエリス。これはつがいの愛の行為であってだな・・・」


「問答無用!」


 エリスが全力で振りかぶった拳は体ごと、スーフェニアルが咄嗟に空間に描いたドアに吸い込まれた。




※ ※ ※



 

 荒い息をつき飛び起きたエリスは、夢の中での生々しい感触に身もだえ枕に顔を埋めた。ばんばんとベッドを叩く。

 息を整え、ちらっと横を見るとスーが穏やかに眠っている。

 どうして私がこんなふうに取り乱さなくちゃいけないの!と八つ当たりでスーにデコピンしておいた。


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