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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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冒険者(女)と主夫

男勝りのエリスは冒険者になって、快適な日々を過ごしていた。しかし家事ができないため身の周りの世話をしてくれる人を雇うことに。

 


 男勝りのエリス。

 弓を使わせても、剣でも、おまけに腕っぷしも強く、村では彼女に勝てる若者はいなくなってしまった。

 美人といって差し支えないのに、気も強くて嫁の貰い手もない。


「結婚?そんなのしてどうするの。第一、私より稼げる旦那はこの村にはいないわよ」


 両親は早々にエリスの嫁入りを諦めた。冒険者として世の中を見たいという娘を快く見送り、広い世の中のどこかで婿をひっかけてきてくれるのを期待して。




※ ※ ※



 早速エリスは最寄りの町に身を寄せ、冒険者として登録した。

 女だからと侮ってくる勘違い野郎をいなし、時には投げ飛ばし、殴りつけ、順調に依頼をこなす毎日。

 その生活は驚くほどエリスにぴったりだった。

 けれども、問題が一つ。エリスは片付けられない女だったのだ。宿に逗留していると、部屋にきのこを生やしたり、靴やマントについた砂が廊下にまき散らされたり、部屋に持って上がったコップが2個3個とたまってゆく。さらには洗濯の終わった衣類が部屋に溢れ足の踏み場もなくなる有り様で怒った女将に追い出されること数回。町にはエリスの泊まれる宿はなくなっていた。

 仕方なくギルドのマスターに相談して、部屋を貸してもらったが早く出て行けと催促される毎日にやっと本人が自覚した。


「これではいけない。私の面倒をみてくれる人が必要だわ」


 そこで自分が片付けようと思わないのがエリス。

 若干、方向性が違うが自覚はした。

 町の商工会に行き、依頼を出すこと数日。

  


※ ※ ※

  

   身の回りの世話をしてくれる人、1名募集。年齢不問。性別不問。料理の作れる人歓迎。

   給金は1日毎に支給。

                             ────────A級冒険者 エリス


※ ※ ※


 

 結果から言うと、応募があったのはたったの一名。

 町の人は、エリスの片付けられない癖を知っていたし宿の女将がお手上げ状態なのも知っていたからだ。

 

「えぇと、あなたが応募してくれた人?」


 やってきたのはエリスよりほんの少し背の低い綺麗な顔立ちの男の子だった。


「クリスです。あなたがエリスさん?」


「ええ、そうよ。初めまして。早速だけれど、あなた片付けはできるのよね?」


 やや疑い深い聞き方をしてしまったエリスだったが、クリスはにっこりと微笑んだ。


「任せて下さい。僕、一人暮らしで料理も片づけも慣れてますから。よければ僕の家を見て判断して下さい」


 もう後がないエリスはその言葉に了承し、彼の家の中まで見てすぐに決めた。

 片付いた気持ちの良い家だった。

 町のはずれにあり、一人で住むにはやや広い洋館で庭も手入れがされてある。


「僕は三男なので祖父の形見にこの家をもらって、実家の商売は兄たちに任せて家をでたんです。おかげで好きな研究だけして暮らしています」


「・・・どんな研究を?」


「薬草ですよ。庭の奥の方に温室がみえるでしょう?あそこで薬草を育てて、レポートを書いては国立薬草園に送るんです。僕の師は厳しいので辛辣な評価で返ってきますけど」


 その後、クリスの勧めもあってエリスはその洋館に間借りをして一緒に住むことになった。有難いことである。何しろ、町ではエリスに宿を貸す人がいないのだから。

 クリスは料理も片づけも上手だった。顔に似合わない毒舌の持ち主でもあった。


「言いましたよね?朝は換気して下さいって。毎日しなきゃ、きのこが生えるんですよ。わーいキノコだ食べられるー、じゃないんです。もし生えてしまったら板はがして大工仕事になるんです。・・・大工仕事できるって?しなくていいから換気しろって言ってるんです。わかりましたか生活不能者の烙印を押されたくなかったらやって下さいね」 


 朝からエリスの部屋を容赦なく換気し、遠慮なく引出を開け服から下着まですべて管理されたのだが彼女は次第にそれに慣れてしまった。

 依頼を受けてこなし、帰宅すれば温かい料理と優しい笑顔(美形、でも毒舌)が迎えてくれる。すっかり打ち解けエリスはこんな嫁がいたらなぁと心底思った。

 そんな生活が続いていたある日、エリスは久しぶりに大きな仕事を引き受けることになった。スタードラゴンの討伐で7人の編成を組むことになったのだ。


「明日から一週間は戻らないから、クリスもゆっくりしてよ」


「そんなに長くかかるんですか・・・気をつけて下さいね」


 いつもの毒舌がこないな、と思ったらクリスはいったん部屋に戻り何か持ってきた。


「これ、傷薬です。僕が作ったんですが、わりとききますよ。師匠には貶されてますけどお守り代わりに持って行って下さい」


 きゅん、とエリスの胸が高鳴った。

 かわいい顔して(エリス談)心配そうに見つめられたら、庇護欲が刺激されてクリスの頭を抱き込んで額にキスをしてしまった。勢いっておそろしい。


「ありがとうクリス。お土産もって帰ってくるからね!」


「・・・お土産はいらないので無事に帰ってきて下さい」


 可愛いやつ、とエリスはまたクリスを抱きしめた。クリスの耳が赤いのはお年頃だからかな。



※ ※ ※



 雪山の装備をして今回の仲間たちと転送ゲートをくぐって初日は移動で終わった。

 夜は宿屋で酒盛りとスタードラゴン対策を話し合う。

 エリスを含む攻撃に特化した4人と、結界魔術の2人と、回復魔術の1人でだいたいの戦闘形態を確認しあった。なかなかいいメンバーが揃っている。きっとうまくいくだろう。


 二日目、雪山に登り始める。回復魔術のマリーが荷物の重さに遅れがちだが、結界魔術のカイと筋肉自慢のアインがカバーしながら進み、予定通りのポイントにテントを張った。

 マリーは見た目が可愛らしい女性なのでテントの分け方で少々揉めたが、女扱いされない自分がちょっと淋しかった。寝る時に、マリーが皆に回復魔法をかけてくれたのでぐっすり眠れ、疲れもとれた。

 

 三日目、しもやけが出来てしまった。休憩のときにクリスからもらった軟膏を塗ったら・・・。塗ったら即座にしもやけが消えた。消えた?何だこの軟膏、効果が凄まじいのだが。


 四日目、スタードラゴンの棲み家に近づいたとき雪崩がおきた。何でこんな時に。遠くでドラゴンの咆哮を聞いた気がしたところで意識が途切れた。

 気づくとテントの中にいた。起き上がって礼を言う。仲間の数が足りない。


「他のみんなは?」


「マリーとカイが下山した」


 アインが眉間にしわをよせて答えてくれたが、バートがかみついた。


「違うだろ。やつらは逃げたんだ。結界張って助けてくれたのはルーだ。助けてもらっときながらマリーもカイも回復を放棄してとんずらさ」


「あー、それでどうする?荷物はあるのか?」


 エリスは周りを見渡した。リックとルーがいない。


「リックはルーと荷物を探しに行ってる。じきに戻るさ」


 アインの言葉通り二人が荷物を持って戻ってきた。装備には問題ない。相談の結果、このまま仕事を続行することになった。無謀ではないと思いたい。

 その日のうちに棲み家に近づき、急襲をかける。

 力押しの四人に後方で結界を張り維持する一人。剣で立ち向かうも鱗が硬くて通らない。何度も打ち付けているうちに折れてしまった。そこを尻尾に叩かれ腕が折れた気がする。遠くに投げ飛ばされるが下は雪。なんとかなるだろう。衝撃に備えて受け身をとり着地する。腕の出血だけでもと、胸元から軟膏を取り出し塗り、荷物をあさる。他にも得物を持ってきているはずだった。


「・・・あんた不死身なの?」


 ルーが呆れていた。


「へ?なんで?」


「軟膏塗っただけで出血止まってるし、あんだけ飛ばされて怪我がないって普通じゃねえよ」


 そういえば痛みもない。


「受け身とったからね。それにお守りがあるから」


 見つけた得物を取って、ドラゴンの元まで走る。アインもリックもバートも疲弊していた。


「おせぇよ!ばか!」


 バートに回復薬を放った。受け止めたのを確認して、場所を変わる。残りの二人にも回復薬が渡るだろう。

 

 結果から言って、ドラゴンとの決着はつかなかった。

 日を跨いで、一昼夜たっても二昼夜過ぎても戦闘は続いたのである。

 三昼夜目、さすがに私たちも厭きてきた。周りには得物の残骸。えぐれた山肌。回復薬の使いすぎで吐き気と頭痛すらする。

 対するドラゴンも攻撃がおざなりになってきた。面倒そうに尻尾を振り攻撃をいなすのみ。


「ねえ、これいつまで続けるの?」


「あー、どうすっかなー」


 どちらからともなく休戦状態になった。


「ねえ、ドラゴン?あなた、麓の村の家畜を襲ったのはどうして?」


 エリスはなんとなくドラゴンに問いかけてみた。


─────食は、体の成長のためであろう。もう、成長したからいらぬがな。


 返答があった。仲間が驚いている。


「では、もう家畜を襲う必要はないのね?」


─────そう言っているだろう。物わかりの悪い人間め。


「なら、私たちの戦う理由はなくなるわ」


 エリスは仲間に声をかけて撤収を呼びかけた。のろのろと立ち上がる。


─────このまま無事に帰れると思っているのか。

 

 一瞬、緊張が走った。

 しかし、ぐったりしているのはドラゴンも一緒だ。言葉だけは威勢が良いが傷だらけで地面にへたりこんでいる。


─────わたしの庭を風情なきものとするこれらの残骸を片付けて帰れ。


 がっくりと項垂れた仲間たちの協力の元、折れた剣、折れた矢すべてえぐれた地面に放り込んだ。


「ねえ、あなたも土をかけるのに協力してくれないかしら?」


 ドラゴンが億劫そうに尻尾で土を寄せた。


─────帰って良いぞ。そして二度とくるな。


 エリスは胸元から軟膏を取り出して、仲間に塗ってまわった。最後にドラゴンの傍にくると一番大きなお腹の傷に塗ってやった。


「さよなら」


 そっと鼻面にキスして荷物を担いで山を下りて行った。

 

 

 宿に戻って一息入れてから、再び集まり意見を共有する。

 この仕事は失敗だった。仲間も言葉少なにそれを認めた。ただ、あのドラゴンが麓の村の家畜を襲うことはないという一点においては良い報告ができる、と纏まった。

 みんなが疲れている。早々に解散して久しぶりのシャワーと温かいベッドにもぐりこむ。

 エリスは夢も見ずに眠った。



 翌日、カーテンの隙間から漏れた朝日に目が覚めた。ふわわわ、と欠伸をしたところで違和感に気付いた。ベッドの中に何かいる。

 反射的に布団を跳ね飛ばす。

 そこにいたのは・・・


─────お前の名はなんと言う?


 ぬいぐるみサイズに小さくなったスタードラゴンだった。白い体躯が朝日にきらめき、オーロラ色になっている。はっきり言って可愛い。


「・・・昨日、二度と会わないって言ったわよね?」


─────そんなことは言っていない。二度とくるなと言ったのだ。わたしからわざわざ来てやったのだ。有難く思え。


「なにしにきたの?」


─────お前は面白そうだから、付いて行っても良いぞ。番にしてやっても良い。


 ちょっともじもじした仕草も可愛い。耳のあたりが桃色になっているのも可愛らしい。

 ま、いいか。エリスは深く考えずにぬいぐるみサイズのドラゴンを片腕に抱くと、もう一度寝ることにした。なにしろ疲れているので。


─────お、お前、このわたしになんということを、、、あっ、やめろ恥じらいをもて!


 ドラゴンの小言がうるさいので、耳をつかんで自分の名を囁いた。


「私の名前はエリス。もう少し寝かせて?」



※ ※ ※



「ただいまぁ~」

 

 家にかえるとクリスが早速出迎えてくれた。でも可愛い顔が台無しになるほどコワい顔になっている。


「く、クリスどうしたの?なにかあった?」


「僕、お土産はいらないって言いましたよね。しかも何でオス?よりによって害虫を連れて帰ってくるなんてひど過ぎる!」


 クリスが肩に乗っているスタードラゴンを指さしてさらに言い募る。


「もとのところに捨ててきて下さい」


「いや、これには事情があって・・・」


 スタードラゴンがにやりと笑ってエリスの頬を舐めた。

 クリスはキッチンに戻り、フライパンを握って帰ってきた。そしてドラゴンの尻尾をつかむと良い笑顔でエリスを振り返った。


「料理が冷めるので先に食べてて下さい。僕はこれを調理してから行きますね」


 クリスとドラゴンの果てしない戦いが始まった。


 

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