「前鬼様~。早くお風呂に入ってください!」
「前鬼様~。早くお風呂に入ってください!」
後鬼ちゃんが「もぅ」と漏らしながら催促してくる。
先程、お風呂に入ろうとしたが、あいにく湯船に溜まっていたのは冷水だ。
お風呂を焚き忘れた後鬼ちゃんは、直ぐにお湯にしようと頑張っていた。
その間に私は、読みかけだった本を読もうと、浴室を後にする。
脱ぎ捨てた服を着るのも面倒なので、タオルだけ持っていく。
タオルを敷き、その上にごろんと寝転ぶ。そんな体勢で本を読み始めた。
「お風呂沸きましたよ~」
浴室の方から後鬼ちゃんが呼んでいる。
「今いいところだから、ちょっと待って~」
彼女に聞こえるように大きな声で返す。
これが短編ものだったらすぐに読み終わったのだが、あいにく長編ものだ。
しかも終盤も終盤。広げられた伏線が一つ、また一つと回収されていく。
どきどきと緊張させられる展開。頁を捲る手が止まらない。
果たして今これを閉じることができるだろうか。
「寒いのですが……」
その声にはっと気がつく。本に熱中して、時間が立つのを忘れていた。
目をやると、タオルを身体に巻いた後鬼ちゃんがこちらを見つめている。
「前鬼様。早目にお願いします」
「う、うん……」
じー、と睨んでくる後鬼ちゃんはかなり不機嫌そうだ。
「あまり遅いと、その後の展開を喋っちゃいますよ」
「だめーっ!」
「明らかに、キリの良いところから、読み進めてますよね」
どきっとする。その通りだ。少し誘惑に負け、読み進めてしまった。
「次は……あっ、あそこがキリが良いですね」
後鬼ちゃんがぶつぶつ喋りながら近づいてくる。
にじり寄ってくる彼女に何をされるのかと身構える。
「次のキリの良いところまで、見張っておきますので」
私の上に伸し掛かってきた後鬼ちゃん。その声は物語の展開よりも怖い。
そのまま読み進め、物語を楽しむ。後鬼ちゃん私の髪で遊び始めた。
まとめてみたり、くるくる巻いてみたり。それ自体は心地よい。
問題があるとすれば、後鬼ちゃんの長い髪だ。ちょうど、私の腰からお尻の辺りに掛けて垂れるそれは、後鬼ちゃんが少し動く度に少しくすぐったい。逃げなければ……というほどでも無いが、ちょっとだけ集中できない。
そうこうしているうちに、キリが良い頁になる。数回、その頁を読み返す。
うん? 確かに、キリはいいけどなんだかもやもやするぞ。
私の髪で遊ぶのも飽きたのか、後鬼ちゃんは自身の髪で遊んでいた。
ばれないかな?不自然にならないように、そっと頁を捲った。
「にゃっ!? 」
その瞬間、私の両腋にとてつもないくすぐったさが走る。その刺激に思わず声を漏らしてしまった。後鬼ちゃんが自身の髪の毛でくすぐってきた。
「どうして、読み進めたのですか? 」
「い、いやっ!」
逃げようにも、彼女に乗られているので、逃げられない。
「私、怒ってますよ?」
「ごめっ、ごめん。ごめんなさいっ!」
「髪の毛って、なんだかくすぐったいですよね」
暫くの間、逃げられないまま、これでもかとくすぐられた。
少しだけぬるくなってしまったお風呂は、こそばゆかった。




